2022年7月初め、Metaで決済・金融技術を率いることになったStephane Kasriel氏が英フィナンシャル・タイムズ(FT)の取材に応じ、暗号資産市場が大きく崩れた後でも、同社のNFT(デジタルコレクティブル)の計画は何も変わっていないと述べました。旧版の記事はこれを「MetaはNFTの提供をユーザーにコミット」と紹介し、近いうちに目標を達成するだろうと結んでいました。
結果から言えば、この「コミット」は長く続きませんでした。Metaは発言から約8か月後の2023年3月にNFT機能の縮小を発表し、同月末に提供を終えています。この記事では、当時の発言と旧版の誤りを確かめた上で、約束のどこまでが実行されたのか、なぜ方針が変わったのか、そして2026年のMetaが暗号資産とどう向き合っているのかを整理します。
2022年7月に何が語られたか
CoinDeskが2022年7月6日に伝えたFTの記事によると、Kasriel氏は、暗号資産の下落にもかかわらずデジタルコレクティブルの計画は「どのような形でも」変わっていないと説明しました。狙いとして挙げたのは、数億人から数十億人の利用者がデジタルの品物を集められるようにし、数百万人のクリエイターがMetaのサービスを通じて仮想の商品を作って売れるようにすることでした。
背景には、クリエイターをTikTokなどのライバルに取られたくないという事情がありました。自分の作品で稼げる手段を用意すれば、人気のある作り手がInstagramやFacebookにとどまる理由になる、という考え方です。
一方でKasriel氏は、ブロックチェーンの業界には過熱と崩壊を繰り返す「ハイプ・サイクル」があり、弱気相場では生き残れない分野も多いという見方も示していました。計画は変えないと言いつつ、市場が厳しい局面にあることは認めていたわけです。
旧版記事の訂正
旧版の記事には、確かめられない引用や不正確な説明がいくつかありました。まず、暗号資産の価格が最高値から60%以上下がったといった市場の状況まで含めた一文を、Metaの発言としてかぎかっこで引用していましたが、報道で確認できたMeta側の発言は「計画は変わっていない」という趣旨の部分です。市場の数字は報道の側が添えた説明と読むのが自然です。
次に「InstagramはNFT機能の導入テストを成功させ、提供が開始された」という記述です。Instagramの機能は2022年5月10日に米国の一部クリエイターを対象としたテストとして始まったもので、この時点ではまだ誰でも使える状態ではありませんでした。また「InstagramのNFTマーケットプレイスを作る意向を表明」とありますが、売買の場を設ける構想は2022年1月にFTが関係者の話として報じたもので、Metaが正式に発表したものではありませんでした。
最後に「7月1日にFacebookでポリゴンとイーサリアムの導入テストを開始」という部分は、Metaの担当者が6月29日にテストの開始を明らかにし、各メディアが6月30日から7月1日にかけて報じたものです。Facebookで始まったのは、プロフィールにNFTを並べて見せるための試験でした。
背景:Metaと暗号資産の曲折
MetaのNFTへの取り組みは、同社が長く続けてきた暗号資産関連の挑戦の延長にありました。Facebook時代の2019年6月には独自の通貨構想「Libra」と専用ウォレットを発表しましたが、各国の規制当局から強い懸念が示され、名前をDiemに変えて規模を縮めた末、2022年1月に関連資産を米銀行持株会社のSilvergateに売却しています。
専用ウォレットの流れをくむ「Novi」も、米国とグアテマラでの送金の試験から先に進めませんでした。Metaは2022年7月1日、Noviの試験を9月1日で終えると発表しています。Kasriel氏がNFTの計画は変わらないと語ったのは、まさにこの発表と同じ週のことでした。
一方でNFTについては、マーク・ザッカーバーグCEOが2022年3月の米イベントSXSWで、近いうちにInstagramへ導入すると語り、将来はアプリの中で利用者が自分のNFTを発行できるようにしたいとも話していました。通貨の構想から手を引く一方で、NFTには前向きな姿勢を見せていたのが2022年半ばのMetaでした。
約束はどこまで実行されたか
Metaの公式ニュースルームに記録された更新をたどると、2022年のうちに機能は段階的に広がりました。主な流れは次のとおりです。
| 時期 | 内容 | 対象 |
|---|---|---|
| 2022年5月10日 | InstagramでNFTを投稿・表示するテスト開始 | 米国の一部クリエイター |
| 2022年6月29日 | Facebookでも同様のテストを開始 | 米国の一部クリエイター |
| 2022年8月4日 | Instagramの機能を約100か国に拡大、Flowに対応 | アフリカ、アジア太平洋、中東、南北アメリカ |
| 2022年9月29日 | 米国の全利用者が両アプリで利用可能に | 米国の利用者 |
| 2022年11月2日 | Instagram上でNFTを発行・販売する機能の試験、Solanaに対応 | 米国の一部クリエイター |
| 2023年3月31日 | デジタルコレクティブルの提供を終了 | 全利用者 |
表から分かるのは、実現したのは主に「持っているNFTを見せる」機能で、発行や売買の機能は米国の一部クリエイターによる試験の段階にとどまったということです。Kasriel氏が語った「数十億人が集め、数百万人が売る」という規模には、最後まで届きませんでした。
11月の発表でMetaは、発行に使うチェーンとしてPolygonを選び、ファンがInstagramの中でも外でも作品を買えるようにすると説明していました。しかしこの販売機能が一般の利用者やクリエイターに広く開放される前に、取り組み全体が打ち切られています。
なぜ8か月で方針が変わったのか
2023年3月13日、Kasriel氏は自身のツイッターで、クリエイターや人々、企業を支える別の方法に集中するため、デジタルコレクティブルを「ひとまず縮小する」と表明しました。TechCrunchによると、今後は決済のMeta Pay、メッセージ機能、リール動画での収益化や、ファンが送る投げ銭機能に力を入れるとしていました。
この時期のMetaは、会社全体でコスト削減を進めていました。2022年11月には従業員の約13%にあたる約1万1,000人の削減を発表し、VRやメタバースを手がける部門の赤字も、2022年通年で137億ドル規模に膨らんでいました。規模の大きな事業に資源を集める中で、利用が広がらないまま費用のかかるNFT機能は、見直しの対象になったと考えられます。
NFT市場そのものの冷え込みも無視できません。2022年5月以降、NFTの取引額は大きく落ち込み、クリエイターがNFTで安定した収入を得るという構想は、少なくとも短期的には現実味を失っていました。7月の時点で「計画は変わらない」と言えたのは、市場の回復を前提にした見通しでもあったと言えます。
2026年時点:NFTではなくステーブルコインで戻ってきた
NFT機能の終了後、Metaが公式にNFTの表示や販売を再開したという発表は、2026年9月時点で確認できませんでした。Instagramの公式ページには、すでに共有したコレクティブルは投稿として残るものの、ブロックチェーンの情報は表示されなくなると追記されています。
その代わりに動き出したのが、ステーブルコインによる支払いです。Fortuneの2026年4月29日の報道によると、Metaはコロンビアとフィリピンの一部クリエイターを対象に、米ドルに連動するUSDCで報酬を受け取れる仕組みを始めました。使うチェーンはSolanaとPolygonで、クリエイターは自分で用意したウォレットのアドレスを登録し、税務関係の報告は決済会社のStripeが担います。
Polygon LabsのCEOは、対象が年末までに160か国以上に広がる見通しを示したと報じられていますが、これはMetaの公式発表ではありません。2022年に「NFTでクリエイターの収入を支える」と語った構想は、形を変えて「暗号資産で報酬を払う」仕組みとして戻ってきたと見ることができます。
読者が学べること:大企業の「コミット」の読み方
今回の経緯から分かるのは、大企業の幹部が「計画は変わらない」と語っても、それは発言した時点の方針にすぎないということです。発表を評価するときは、それが試験なのか一般提供なのか、どの国のどの利用者が対象なのか、利用料や収益の仕組みまで決まっているのかを確かめると、実際の重みを判断しやすくなります。
クリエイターの立場では、一つのプラットフォームの機能に作品の販売や収入を頼りすぎないことが大切です。MetaのNFT表示機能が終わっても、NFTそのものは各自のウォレットに残りました。作品や顧客との関係を自分で管理できる形にしておけば、サービス側の方針が変わっても影響を小さくできます。
なお、日本がMetaのNFT機能の対象国に含まれていたかは公式発表で確認できず、USDCでの報酬支払いについても2026年9月時点で日本は対象として発表されていません。当時のテストの詳細はFacebookでのEthereumとPolygonのテストを扱った記事、撤退の経緯はMetaがNFT事業の縮小に向かった件の記事でも取り上げています。
よくある質問
Q. MetaはNFTの計画を変えないと本当に言ったのですか?
A. はい。2022年7月、Metaの金融技術部門を率いるStephane Kasriel氏がFTの取材で、暗号資産市場の下落後も計画は変わっていないと述べたと報じられました。ただし約8か月後の2023年3月に縮小が発表されています。
Q. InstagramやFacebookでNFTを売ることはできたのですか?
A. 2022年11月に、Instagram上でPolygonを使ってNFTを発行・販売する機能の試験が米国の一部クリエイター向けに始まりました。しかし広く開放される前に、2023年3月31日で機能全体が終了しています。
Q. InstagramにつないでいたNFTはどうなりましたか?
A. NFTそのものは各自のウォレットに残っています。Instagramの説明では、共有済みの投稿は残るものの、ブロックチェーンの情報は表示されなくなりました。
Q. 2026年のMetaは暗号資産とどう関わっていますか?
A. 2026年4月から、コロンビアとフィリピンの一部クリエイターにUSDCで報酬を支払う仕組みを始めたと報じられています。NFT機能の再開は、2026年9月時点で確認できませんでした。
この記事の出典
- CoinDesk: Meta Affirms Digital Collectibles Plan Despite Crypto Crash: Report
- Meta Newsroom: Introducing Digital Collectibles to Showcase NFTs on Instagram(更新履歴を含む)
- TechCrunch: Facebook begins testing NFTs with select creators in the US
- CoinDesk: Meta to Shutter Novi Crypto Payments Wallet in September, Ending Libra Saga
- CoinDesk: Mark Zuckerberg Says NFTs Are Coming Soon to Instagram
- TechCrunch: Meta winds down support for NFTs on Instagram and Facebook
- Fortune: Meta quietly rolls out stablecoin payments four years after shelving controversial Libra project
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




