中国のNFTを支えるチェーン|BSN-DDC・長安鏈・アントチェーンの仕組み

2022年7月の旧版記事は「中国にある目を引くNFTチェーン」という題で、きわどい写真をデジタルコレクションとして売り、高額の購入者には私的な特典を付けるサイトを紹介していました。ここでいう「チェーン」は中国語の「産業チェーン(産業の連なり)」を訳したもので、ブロックチェーンのことではありません。また、紹介されたサイトの名前や、1点が2万元で取引されたという話は、報道で確かめることができませんでした。

一方で、中国のNFTを理解するうえで本当に知っておきたいのは、どんなブロックチェーンの上で発行されているのかという点です。中国では暗号資産の取引が認められていないため、イーサリアムのような公開型のチェーンではなく、国や大手企業が管理する「許可型」のチェーンが使われてきました。この記事では、その代表であるBSN-DDC、長安鏈(ChainMaker)、アントチェーン(螞蟻鏈)、至信鏈、百度の超級鏈を取り上げ、仕組みと2026年までの動きを整理します。

なぜ中国では許可型チェーンが使われるのか

中国本土では2021年9月以降、暗号資産に関わる業務が違法な金融活動と位置づけられています。イーサリアムやソラナのような公開型のチェーンでは、取引のたびに暗号資産で手数料を払う必要があるため、国内の企業が正面から使うことは難しい状況です。

そこで使われているのが、参加できる企業や機関をあらかじめ決めておく許可型(コンソーシアム型)のチェーンです。記録の書き込みや検証を行うのは運営者が認めた組織だけで、手数料は人民元で支払われます。利用者は実名での本人確認を済ませた上で、アプリの中で作品を買う形になります。

さらに、中国の国家インターネット情報弁公室(網信弁)は2019年2月15日から「区块链信息服务管理规定(ブロックチェーン情報サービス管理規定)」を施行し、ブロックチェーンで情報サービスを提供する事業者に届け出(備案)を求めています。デジタル作品の販売サイトも、届け出を済ませたチェーンの事業者と組むことが事実上の前提となり、どのチェーンを使うかが事業の信用に直結するようになりました。

国主導の基盤「BSN-DDC」

BSN(ブロックチェーン・サービス・ネットワーク)は、国家信息中心、中国移動、中国銀聯、北京紅棗科技(Red Date)が共同で立ち上げたブロックチェーンの共通基盤です。このBSNが2022年1月25日に公開し、試験的な商用運用に入ったのが、NFTを発行するための基盤「BSN-DDC」でした。

DDCは「Distributed Digital Certificate(分散型デジタル証明書)」の略です。性質はNFTとほぼ同じですが、暗号資産との結びつきを連想させないよう、あえて別の名前が付けられました。発行や移転にかかる費用は人民元のチャージでまかない、1件のDDCを作る費用は0.05元(5分)程度とされていました。

BSN-DDCの特徴は、中国の都市名を付けた複数の「開放連盟鏈」から、事業者が使うチェーンを選べる点です。泰安鏈と延安鏈はFISCO BCOS、武漢鏈はイーサリアム、文昌鏈はCosmos系のIRITA、中移鏈はEOS、遵義鏈はCordaという具合に、海外でも使われている技術を土台にしながら、参加者を限定した形で運用されています。

北京発の国産基盤「長安鏈(ChainMaker)」

長安鏈(ChainMaker)は、2021年1月27日に北京で発表されたブロックチェーンの基盤ソフトウェアです。北京微芯区块链与边缘计算研究院を中心に、清華大学などの研究機関や、テンセント、百度といった企業が開発に加わりました。発表と同じ日には、27の組織が参加する「長安鏈エコシステム連盟」も発足しています。

公式の説明では、中核の部品をすべて自前で開発し、中国の国家暗号規格(国密アルゴリズム)に対応していることが強調されています。処理能力は毎秒10万件を超えるとされ、国産の半導体やOSとの組み合わせも想定した「自主可控(自分たちで制御できる)」技術として位置づけられています。

長安鏈は、NFTのためだけに作られたものではありません。行政サービスや金融、サプライチェーンの記録など幅広い用途を想定した汎用の基盤です。どの数字藏品のサービスが長安鏈を採用しているかを網羅的に確かめることはできませんでしたが、国が支える基盤技術の一つとして、中国のブロックチェーン事業の土台になっています。

大手IT企業のチェーン:アントチェーン・至信鏈・超級鏈

アント・グループのアントチェーン(螞蟻鏈)は、同社の数字藏品アプリ「鯨探」の土台です。鯨探は2021年6月に「螞蟻鏈粉絲粒」として始まり、同年12月に現在の名前になりました。購入はAlipay(支付宝)を通じて人民元で行い、実名認証が必要です。

テンセントが中心となった至信鏈は、同社と中国網安、楓調理順の3社が共同で整備した許可型のチェーンで、もともとは電子証拠の保全などを目的にしていました。2021年8月2日に公開されたテンセントの販売アプリ「幻核」がこのチェーンを使い、QQ音楽などのサービスでも数字藏品を発行していました。

百度は自社開発の「超級鏈(XuperChain)」を使い、2022年1月に数字藏品の販売プラットフォームを始めています。このように、中国の数字藏品はそれぞれの大手企業が持つチェーンの上で、自社のアプリの中だけで売買が完結する「囲い込み型」の構造になっていました。

公開型チェーンのNFTとの違い

同じ「NFT」と呼ばれていても、中国の許可型チェーンで発行される数字藏品と、イーサリアムなどで発行される一般的なNFTでは、持ち主にできることが大きく異なります。主な違いを表にまとめます。

比較の観点 公開型チェーンのNFT 中国の許可型チェーンの数字藏品
記録を検証する者 世界中の誰でも参加できる 運営者が認めた企業・機関のみ
手数料の支払い ETHなどの暗号資産 人民元(事業者がチャージ)
保管の方法 自分で管理するウォレット サービスのアカウントに紐づく
他サービスへの持ち出し 原則として自由 同じアプリや提携先の中に限られる
サービス終了時 チェーン上の記録は残る 運営者の対応に左右される

許可型チェーンの利点は、手数料が安く、運営者がはっきりしているため、不正な作品や違法な内容を取り締まりやすい点です。その反面、持ち主がチェーンを直接操作することはできず、価値や使い道はサービスを運営する企業の方針に大きく依存します。

旧版記事が取り上げたような過激な内容の販売が問題になりうるのも、この点と関係します。許可型チェーンの運営者は、どの事業者に発行を認めるかを選べる立場にあるため、ルールに反する事業者を外すことができます。逆に、届け出のないチェーンや海外のチェーンを使う小規模なサイトは、こうした管理の外に置かれていました。

その後どうなったか:2023〜2026年の動き

2022年後半に市場が冷え込み、テンセントが幻核を閉じるなど大手の撤退が続いた後も、許可型チェーンを使う仕組みそのものは残りました。2023年1月1日には、国有の中国技術交易所などが共同で作った「中国数字資産交易平台」が始まり、デジタル作品や著作権の取引を扱うとされました。

鯨探は転売を強く制限していた規則を段階的に緩めました。当初は購入者が180日、譲り受けた人が720日たたないと他人に譲れませんでしたが、2023年2月15日から双方90日に短縮され、同年8月にはさらに24時間まで縮められたと報じられています。2024年初めには、組織の上でもアント・グループの戦略部門に移されました。

2025年12月25日の4周年の催しでは、登録利用者が3,600万人、提携した博物館などの文化機関が166に達したと発表されました。なお、2022年の過熱期に乱立した小規模なプラットフォームの多くはその後運営を止めたと伝えられており、どのサービスが今も続いているかはサービスごとに確かめる必要があります。

日本の読者が知っておきたいこと

BSN-DDCのチェーンや鯨探、中国数字資産交易平台は、いずれも中国本土の利用者を前提にしたサービスです。実名認証や人民元での決済が必要で、日本から通常の方法で利用することは想定されていません。代理購入をうたう勧誘は、公式の仕組みの外での取引になるため注意してください。

中国の事例は、ブロックチェーンを使っていても、誰がそのチェーンを管理しているかによって、持ち主の権利の中身が大きく変わることを示しています。日本でも企業が運営する許可型のチェーンでNFTを発行する例がありますが、その場合はサービス終了時に作品がどうなるか、外部のウォレットに移せるかを利用規約で確かめておくことが大切です。

中国のSNSでの規制の動きはWeChatが暗号資産やNFTの公式アカウントを禁じた件の記事で、テンセントの幻核で売られた作品の事例は呉昌碩のデジタル収蔵品を扱った記事で詳しく紹介しています。

よくある質問

Q. 旧版記事の「NFTチェーン」とはブロックチェーンのことですか?

A. いいえ。中国語の「産業チェーン」を訳したもので、きわどい写真を売るビジネスの連なりを指していました。なお、紹介されたサイトの名前や取引額は報道で確認できませんでした。

Q. BSN-DDCとは何ですか?

A. 国家信息中心などが立ち上げたブロックチェーン基盤BSNが、2022年1月25日に公開したNFT発行用の仕組みです。都市名を付けた複数の許可型チェーンから選んで使い、費用は人民元で支払います。

Q. 中国の数字藏品はイーサリアムなどに移せますか?

A. 原則としてできません。アプリのアカウントに紐づいて管理され、運営者が認めた範囲でしか譲渡できません。公開型チェーンのNFTのように自分のウォレットで自由に扱うことはできない設計です。

Q. 日本から鯨探などのサービスを使えますか?

A. 中国本土の実名認証と人民元決済が前提で、日本の利用者は想定されていません。代理購入などの勧誘は公式の仕組みの外の取引になるため、トラブルになっても保護されにくい点に注意が必要です。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。