ニューヨークを拠点に活動するインド出身のシェフ、ヴィカス・カンナ(Vikas Khanna)氏が、NFTと結びついた限定版の料理本「Sacred Foods of India」を発表しました。紙の本とデジタルの所有証明をセットにした、いわゆる「フィジタル(物理+デジタル)」の商品です。
旧版の記事(2022年9月)は、この本を「最も高価な限定レシピNFT」として紹介していましたが、発表の時期や価格、慈善オークションの話など、主要紙で確かめられない記述も含まれていました。この記事では、報道で確認できる事実とできない点を分け、販売の仕組みと、2026年時点でのプラットフォームやシェフ本人のその後を整理します。
何が発表されたか:2022年6月、ドバイで
UAEの英字紙Gulf NewsやThe Nationalによると、「Sacred Foods of India」はカンナ氏の38冊目の著書で、2022年6月23日にドバイにある同氏のレストラン「Kinara」で発表されました。旧版記事は9月の話題として扱っていましたが、発表は6月です。
カンナ氏は、マンハッタンのインド料理店「Junoon」の料理長として、同店が2011年から2017年まで6年続けてミシュランの星を得たことで知られます。ドバイでもKinaraとEllora(エローラ)を手がけています。
本の販売には、インドのNFTプラットフォーム「Akshaya.io(アクシャヤ)」が協力しました。本にはチップが埋め込まれ、イーサリアム上のNFTとひも付けられています。NFTが「この1冊の正当な持ち主」を示す証明書の役割を担う設計です。
本の中身と価格
報道で確認できる主な仕様は次のとおりです。媒体によって細部が異なる点は併記します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ページ数 | 420ページ |
| レシピ数 | 108品(Gulf News)。インド各地の寺院などで供えられてきた料理を集めたもの |
| 部数 | 250部(The National)、252部(Gulf News) |
| 装丁 | クルミ材とメープル材の箱にスワロフスキーのクリスタルや宝石をあしらう。上位版は白檀の箱 |
| 価格 | 2万〜5万ドル(Gulf News)、標準2万5,000ドル・白檀版5万ドル(The National) |
UAEの日刊紙Khaleej Timesは、最初の1冊が5万ドルで売れたと伝えています。旧版記事は「NFTはイーサリアムに格納され、現存するのは250部」と書いていましたが、部数には2つの数字があるため、ここでは両方を示しました。
報道の食い違いと、確認できなかった点
旧版記事には、今回の調査では裏付けが取れなかった記述がいくつかありました。
- ドバイ皇太子による発表:インドの経済誌Business Todayは、シェイク・ハムダン皇太子が本を披露したと報じています。一方、Gulf NewsやThe Nationalなど地元紙の記事では、この点は確認できませんでした。
- サザビーズでの競売と全額寄付:「Sacred Foods of India」がサザビーズで競売にかけられたという報道は見つかりませんでした。売上の寄付については、暗号資産メディアのDailyCoinが「インドの農村の飢餓対策に充てる」と書いていますが、他の報道では確認できませんでした。
- 前作「Utsav」の価格:旧版は「重さ16キロ、販売価格1万3,000ドル」としていました。重さ約16キロ・1,200ページ超という点は複数のインド紙で確認できますが、価格は報道ごとに食い違います。確認できた実売の記録は、2017年2月のオークションで300万ルピー(30ラーク)で落札されたというもので、収益は子どもたちの食事支援に充てるとされていました。
著名人の好物にまつわる逸話など、料理本と関係の薄い話題はこの改訂で省きました。
フィジタルNFTの仕組み:モノと証明書をどうつなぐか
フィジタル商品では、実物(ここでは本)とNFTを結びつける方法が要になります。今回の本はチップを埋め込み、チップの情報とNFTを対応させることで「この本が正規品で、持ち主は誰か」を確かめられるようにしていました。
この仕組みには利点と弱点があります。
- 利点:限定品の真贋や来歴(誰から誰へ渡ったか)を記録として残せます。高額な美術品や工芸品で偽物対策として期待されてきた使い方です。
- 弱点1:モノとNFTが別々に動く:NFTだけを他人に送ったり、本だけを売ったりすることが技術的にはできてしまいます。ずれが生じたときにどちらを「本物の持ち主」とみなすかは、販売者の規約次第です。
- 弱点2:確認の仕組みが運営に依存する:チップを読み取るアプリや照合サービスが止まると、証明の手段が失われるおそれがあります。
高額なフィジタル商品ほど、ブロックチェーンの記録そのものより、それを支える事業者が続くかどうかが価値を左右します。
その後:Akshaya.ioとカンナ氏の2026年
起業家向けメディアの記事によると、Akshaya.ioはガネーシュ・ラジュ氏が創業し、「インド初のNFT・メタバースのフィジタル市場」をうたっていました。旧版記事は「インド、バングラデシュ、ネパールの45都市に実店舗」と書いていましたが、同社自身の説明は「45都市に拠点(オフィス)」であり、店舗ではありません。これも会社側の発表で、第三者による確認は取れていません。
2026年9月時点で、Akshaya.ioのサイトは公開されていますが、「AI・ブロックチェーン・メタバースのプラットフォーム」へと看板を掛け替えており、掲載されている最新のプレス情報は2023年12月のものでした。2024年以降に同社を取り上げた独立した報道は確認できませんでした。料理本のNFTの照合サービスが現在も動いているかどうかも、公開情報からは確認できていません。
カンナ氏本人は料理人としての活動を続けており、2024年3月にニューヨークのイーストビレッジでレストラン「Bungalow」を開いています。同店は2024年にニューヨーク・タイムズの批評で三つ星を得て、ミシュランガイドのビブグルマンにも選ばれました。
フィジタル商品を買う前に確かめたいこと
本やスニーカー、ワインなど、実物とNFTを組み合わせた商品は今も各地で販売されています。購入を考える場合は、次の点を確認しておくと安心です。
- NFTと実物のどちらが「本体」か:片方だけを譲渡した場合の扱いが規約に書かれているか。
- 照合の仕組みを誰が運営しているか:事業者が撤退した場合に、記録をどう確認できるか。
- 転売のルール:二次流通でNFTを移すと実物の引き渡しはどうなるか、送料や関税は誰が負担するか。
- 日本への発送や日本からの購入の可否:海外の限定品は日本に発送されない場合があります。
- 「限定」の約束がどこに書かれているか:部数の上限がスマートコントラクトで決められているのか、販売者の約束にとどまるのか。
とくに最後の点は見落とされがちです。発行上限がコードで固定されていれば後から増やすことはできませんが、販売者の宣言だけであれば、追加発行や別の版の販売を技術的に止める仕組みはありません。今回の料理本のように報道によって部数が2通りあるケースでは、公式の発行記録を自分で確かめる姿勢が大切です。
NFTを転売して利益が出た場合、日本では国税庁のFAQに沿って所得区分を判断します(NFTの税金の解説)。NFTそのものの基本はNFTとは何かで説明しています。
よくある質問
Q. 「Sacred Foods of India」はいつ発表されましたか?
A. 2022年6月23日に、ドバイにあるカンナ氏のレストラン「Kinara」で発表されました。2022年9月の話題として扱われることがありますが、発表は6月です。
Q. 価格と部数はいくらですか?
A. 報道により差があり、価格は2万〜5万ドル、標準版2万5,000ドル・白檀版5万ドルなどと伝えられています。部数は250部と252部の2つの報道があります。最初の1冊は5万ドルで売れたと報じられました。
Q. 売上はサザビーズの競売で全額寄付されたのですか?
A. この本がサザビーズで競売にかけられたという報道は確認できませんでした。寄付については一部メディアが飢餓対策に充てると伝えていますが、他の報道では確認できていません。
Q. 日本からこの本を買えますか?
A. 限定部数の商品で、2026年時点で日本から購入できる窓口は確認できませんでした。フィジタル商品は発送地域が限られることが多いため、販売元の案内で確かめてください。
この記事の出典
- Gulf News:Michelin-starred chef Vikas Khanna launches first Indian phygital cookbook in Dubai
- The National:Celebrity chef Vikas Khanna launches limited-edition book starting at $25,000
- Khaleej Times:What is India's first phygital cookbook all about
- Business Today:Michelin star chef Vikas Khanna rolls out his first NFT collection
- Luxury Launches:Vikas Khanna auctions world's most expensive cookbook
- Entrepreneur India:Akshaya.io is set to become India's first NFT metaverse
- Akshaya.io 公式サイト
- American Bazaar:Vikas Khanna's NYC Bungalow wins award
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




