「2022年にNFTへ1,200億ドル投資」の真相|正しくはメタバース投資の数字

2022年7月の旧版記事は「2022年にはNFTに1,200億ドル以上が投資されており、2021年の570億ドルの2倍をはるかに超える」と紹介していました。しかしこの数字は、NFTへの投資額ではありません。

元になったのは、コンサルティング会社McKinsey & Companyが2022年6月に公表した報告書「Value creation in the metaverse(メタバースにおける価値創造)」です。そこで示されていたのは、2022年1〜5月に企業や投資ファンドがメタバース関連に投じた金額の推計で、しかもその半分以上は、マイクロソフトによるゲーム会社の大型買収1件が占めていました。この記事では、数字の本当の意味と、同じ時期のNFT市場の実際の規模、そして2026年までにどうなったかを確かめ直します。

旧版記事の誤り:NFTではなくメタバースへの投資

旧版の記事は報告書のタイトルを「仮想世界の価値創造」と訳しつつ、中身を「NFTへの投資」と書いていました。McKinseyの報告書が扱っているのは、仮想空間での交流やゲーム、買い物などを含むメタバース全体への投資で、NFTはその一部にすぎません。

報告書によると、企業、ベンチャーキャピタル(VC)、プライベートエクイティ(PE)がメタバースに投じた金額は、2022年の最初の5か月で1,200億ドルを超え、2021年通年の約570億ドルの2倍以上になっていました。旧版は「2022年に」と書いていましたが、正確には1〜5月の集計であり、通年の数字ではありません。

もう一つの誤りは、この1,200億ドルを「NFTにお金が流れ込んでいる証拠」として紹介した点です。実際には、次の見出しで見るように大半が既存のゲーム会社の買収で、NFTの売買やNFT事業への出資の規模を示すものではありませんでした。

1,200億ドルの半分以上はActivision Blizzardの買収

報告書や当時の報道が指摘しているとおり、2022年のメタバース投資額を押し上げた最大の要因は、マイクロソフトが2022年1月18日に発表したActivision Blizzardの買収でした。買収額は約687億ドル(報道では約690億ドル)で、これだけで1,200億ドルの半分を超えます。

Activision Blizzardは「コール オブ デューティ」などで知られるゲーム会社で、マイクロソフトは発表の中でこの買収をメタバースの基盤づくりにもつながるものと位置づけていました。McKinseyが集計の対象にしたのは、このようにメタバースに関連するとみなせる企業買収や出資で、ブロックチェーンやNFTを使うかどうかは条件になっていません。

買収は各国の競争当局の審査に時間がかかり、手続きが完了したのは2023年10月13日です。つまり「1,200億ドルが投資された」と書かれた2022年前半の時点では、最大の案件はまだ発表段階にあり、実際にお金が動いていたわけでもありませんでした。

報告書が挙げた3つの投資主体

McKinseyは、メタバースにお金を投じている主体を大きく3つに分けています。1つ目はMeta、マイクロソフト、Nvidia、Apple、Googleといった大手テクノロジー企業、2つ目はVCやPEなどの投資ファンド、3つ目はテクノロジー業界以外の企業やブランドです。

投資ファンドの例として挙げられていたのが、NFTマーケットプレイスのOpenSeaが2022年1月に評価額133億ドルで3億ドルを調達した件と、BAYCを運営するYuga Labsが同年3月に評価額40億ドルで4億5,000万ドルを調達した件です。旧版は「OpenSeaがCoatueとYuga LabsとParadigmに40億ドルの評価額で4億5,000万ドルの資金調達」と書いていましたが、これは2つの別々の調達を混同したもので、OpenSeaの調達を主導したのはParadigmとCoatue、Yuga Labsの調達を主導したのはa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)です。

3つ目のブランドの例では、PradaやGucciのNFT、ゲームのフォートナイトとBalenciagaの協業などが話題になっていました。歌手のマドンナも2022年5月にデジタルアーティストのBeepleと組み、3点組のNFT「Mother of Creation」を発表し、NFTマーケットプレイスのSuperRareを通じて売り出して、売上を女性や子どもを支援する3つの非営利団体に寄付しています。

同じ時期のNFT市場の実際の規模

では、NFTの売買にはどれくらいのお金が動いていたのでしょうか。データ分析会社DappRadarが2023年1月にまとめた集計では、自作自演の取引(ウォッシュトレード)と疑われるものを除いた2022年のNFT取引額は約247億ドルで、2021年の約251億ドルとほぼ同じ水準でした。

ただし月ごとに見ると、2022年1月をピークに5月以降は急速に縮んでいます。5月に約33億ドルあった月間取引額は6月には10億ドル強まで落ち込み、その後の月は10億ドルに届きませんでした。旧版記事が出た2022年7月は、まさにNFT市場が冷え込んでいく途中でした。

DappRadarは後の集計で、疑わしい取引も含めた2022年の取引額を572億ドルとしています。どちらの数字を使うかで印象は大きく変わりますが、いずれにしても「投資額」ではなく「売買された金額」であり、メタバース投資の1,200億ドルと単純に比べられるものではありません。

その後どうなったか:メタバース熱の冷却

2022年後半以降、メタバースへの期待は大きく後退しました。社名まで変えてメタバースに力を入れたMetaは、関連事業を担うReality Labs部門で2022年に約137億ドルの営業損失を計上し、その後も赤字が続いたと報じられています。

McKinseyは同じ報告書で、メタバースが2030年までに最大5兆ドルの価値を生む可能性があると見積もっていましたが、これはあくまで条件付きの予測です。2026年時点で、その見通しに沿って市場が育っているかどうかを判断できる公的な統計は確認できませんでした。

NFT市場も縮小が続きました。DappRadarによると、2024年のNFT取引額は約137億ドル、売買件数は約4,980万件で、2020年以来の低い水準だったとされています。2022年前半の華やかな数字は、その後の数年と比べるとかなり特殊な時期のものだったと言えます。

市場の数字を読むときのチェックポイント

今回の取り違えから学べるのは、「いくら動いたか」を示す数字には種類があるということです。企業の買収や出資の額、マーケットプレイスでの売買額、トークンやコレクションの時価総額は、それぞれまったく別のものを測っています。見出しに大きな金額が出てきたら、まずどの種類の数字なのかを確かめましょう。

次に確認したいのが、集計の期間と対象です。今回のように「2022年」とあっても実際は1〜5月だけだったり、「NFT」とあっても実際はメタバース全体だったりすることがあります。対象を広く取れば数字は大きくなるため、定義を読まずに他の数字と比べると誤解のもとになります。

最後に、誰が集計したかも大切です。コンサルティング会社の推計、データ会社のオンチェーン集計、プロジェクト自身の発表では、集め方も目的も異なります。可能であれば元の報告書やデータ提供元のページまでたどり、元の文章で確かめる習慣をつけると、誤った数字に振り回されにくくなります。

関連する記事

OpenSeaが高い評価額で資金を集めた後、市場の冷え込みの中でどう動いたかは、評価額130億ドルとされたOpenSeaの戦略を扱った記事で取り上げています。

また、2022年夏のNFT市場で取引件数が増える一方、人気コレクションの最低価格が下がっていった様子は、取引量とフロア価格の動きを伝えた記事で確認できます。

なお、この記事は市場の数字の読み方を説明するもので、特定のNFTや暗号資産の売買をすすめるものではありません。NFTを売買する際は、価格が大きく変動することや、取引所・マーケットプレイスによって手数料や利用条件が異なることを理解した上で判断してください。

よくある質問

Q. 2022年に本当に1,200億ドルがNFTに投資されたのですか?

A. いいえ。この数字はMcKinseyが推計した2022年1〜5月のメタバース関連への投資額で、NFTに限った数字ではありません。しかも半分以上はマイクロソフトによるActivision Blizzardの買収1件が占めていました。

Q. 2022年のNFTの取引額はどれくらいでしたか?

A. DappRadarの集計では、ウォッシュトレードと疑われる取引を除いて約247億ドルで、2021年とほぼ同じ規模でした。ただし5月以降は月間取引額が急減しています。疑わしい取引を含めた別の集計では572億ドルとされています。

Q. 旧版記事にあったOpenSeaの資金調達の説明は正しいですか?

A. 2つの調達が混ざっていました。OpenSeaは2022年1月に評価額133億ドルで3億ドルを調達し、Yuga Labsは同年3月に評価額40億ドルで4億5,000万ドルを調達しています。

Q. メタバース投資はその後どうなりましたか?

A. 2022年後半から期待は後退し、MetaのReality Labs部門は2022年に約137億ドルの営業損失を出しました。Activision Blizzardの買収は2023年10月に完了しています。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。