暴落時にNFTの取引量が急増したのはなぜか|2022年6月の相場を検証

2022年6月中旬、暗号資産市場が急落する中で、NFT市場では一見矛盾した動きが起きました。人気コレクションの最低価格(フロア価格)が大きく下がる一方で、24時間の取引量は倍以上に増えたのです。データサイトCryptoSlamの集計をもとにした報道によると、取引額の上位10コレクションのうち8つで、取引量が少なくとも115%増えました。

旧版の記事はこの動きを「安くなったNFTを買おうとする投資家が増えた」と紹介していました。この記事では、当時の数字を確かめ直したうえで、下落局面で取引が増える仕組み、その後に起きたNFT担保ローンの危機、そして2026年までの推移を整理し、こうした数字を読むときの注意点をまとめます。

何が起きたか:最低価格の急落と取引量の急増

2022年6月12日、暗号資産を預かって運用する米国の貸付業者Celsiusが、利用者からの引き出しを突然止めました。これをきっかけに市場全体で売りが広がり、ビットコインやイーサリアムの価格は大きく下がりました。NFTの多くはETHで売買されるため、この下落はNFT市場にも直接響きました。

当時の報道によると、直近24時間で取引額が最も多かったのはBored Ape Yacht Club(BAYC)で、取引量は前日比262.79%増の約710万ドルでした。続くMutant Ape Yacht Club(MAYC)、Otherdeed、CryptoPunksも、それぞれ173.49%、157.88%、122.69%増えています。上位10件のうち増加率が115%を下回ったのは、Goblintown(35.54%増)とMoonbirds(64.11%増)だけでした。

一方で最低価格は大きく下がり、BAYCは過去最高の153.7ETHから82.5ETHへ、CryptoPunksも大きく値を下げていました。

取引額は増えたのに、取引する人は減っていた

このときの数字で見落とせないのが、取引に参加した人数です。DappRadarの集計では、最大手の取引所OpenSeaで24時間の取引額が173.43%増えて約2,388万ドルに達した一方、取引した人の数は15.39%減って約2万9,300人でした。

つまり、多くの人が一斉に買いに走ったのではなく、比較的資金に余裕のある少数の参加者が、まとまった額の売買をしていたことになります。旧版の記事も「比較的資金力のある少数の投資家しか行動を起こしていない」と指摘していましたが、取引額の増加だけを見ると市場が盛り上がっているように見えてしまうため、参加者数とあわせて見ることが欠かせません。

同じ期間には、CryptoPunksの2点がそれぞれ275ETH、BAYCの2点が118ETHと105ETHで売れるなど、最低価格を大きく上回る取引もありました。希少な特徴を持つ作品は、最低価格とは別の値動きをすることがあります。

なぜ下落局面で取引量が増えるのか

価格が下がっているときに取引が増える理由は、いくつか考えられます。

  • 手放す人が増える:暗号資産の下落で資金が必要になった保有者や、これ以上の値下がりを避けたい保有者が売りに出します。
  • 安くなったところを買う人がいる:以前は手が届かなかった価格まで下がったことで、買いに入る人も現れます。
  • 担保の処分:NFTを担保にお金を借りている人は、価格が下がると担保不足になり、NFTを売らざるを得なくなることがあります。
  • 表示通貨の影響:ETHの価格が大きく動くと、ドル建ての取引額は、ETH建ての取引数量とは違う動きをします。

売りたい人と買いたい人の両方が増えると、価格が下がりながら取引量が膨らむという現象が起きます。これは市場が健全に拡大しているというより、価格の見直しが急速に進んでいる状態と見るべきでしょう。

株式市場でも、急落した日に売買代金が膨らむことはよく知られています。NFTも同じで、取引量の急増は「関心の高まり」ではなく「持ち手の入れ替わり」を示していることが多いのです。とくにNFTは1点ごとに買い手を探す必要があるため、売り急ぐ人が増えると、最低価格は株式以上に大きく下がりやすい性質があります。

その後どうなったか:NFT担保ローンの危機

価格の下落は6月で終わりませんでした。2022年8月には、BAYCなどのNFTを担保にETHを貸し借りできるサービスBendDAOで、担保価値の低下により多くのローンが清算の危機に陥りました。貸し手が資金を引き出そうとしても、貸し出し用の資金がほぼすべて使われていて引き出せない状態になり、預け入れられた資産は週末の間に約半分に減ったと報じられています。

BendDAOは利用者の投票で仕組みを変更し、借り手に返済を促すなどして、9月には連鎖的な清算の危機を脱しました。しかし、この出来事は、NFTを担保にした借り入れが価格下落を加速させる可能性を示すものになりました。

NFTを担保にした貸し借りは、2022年以降も形を変えて続きました。借り手にとっては手元のNFTを売らずに資金を得られる便利な仕組みですが、担保の価格が急に下がると、自分の意思とは関係なくNFTを失うことがあります。価格の変動が大きい資産を担保にするときは、どこまで下がると清算されるのかを事前に確認しておくことが欠かせません。

BAYCの最低価格はその後も下がり続け、2023年7月には27.4ETHと、2021年10月以来初めて30ETHを割り込みました。

2026年の状況:一部の高額作品に取引が集中

2026年に入ると、BAYCの最低価格は春に5ETH前後まで下がった後、5月には約10ETHまで戻したと報じられています。一方で、CryptoSlamのデータでは、NFT市場全体の月間売上は2026年2月の約3億400万ドルから4月には約1億7,500万ドルに減り、取引件数と利用者数もほぼ半減しました。

平均の取引価格は上がっていますが、これは少数の高額な取引に資金が集中した結果で、市場全体に買い手が戻ってきたことを意味するものではないと分析されています。取引額のうち約半分は依然として自己売買(ウォッシュトレード)と推定されている点も見逃せません。2022年6月と同じく、取引額の増減だけでは市場の実態は分からないということです。

NFT市場の数字を読むときのチェックポイント

  1. 取引額と参加者数をセットで見る:取引額が増えても、参加者が減っていれば少数の大口取引による一時的な動きの可能性があります。
  2. ETH建てとドル建てを区別する:暗号資産の価格変動で、ドル建ての数字は大きく変わります。
  3. 最低価格と成約価格の違い:最低価格は出品中の最安値で、実際に売れた価格とは限りません。
  4. 自己売買の割合:データサイトが示す調整後の数字を確認します。
  5. 借り入れのリスク:NFTを担保にした借り入れは、価格下落時に強制的な売却につながることがあります。

NFTの売上ランキングの読み方はNFT売上ランキングの読み方でも詳しく扱っています。

日本の読者が押さえておきたいこと

下落局面で「安くなったから買い時」と考えるのは自然な発想ですが、2022年6月の例では、そこからさらに大きく値下がりしました。価格の底を見極めることは専門家でも難しく、ここでは売買の時期を助言することはしません。

日本の居住者が、値下がりしたNFTを売って損失が出た場合、その損失をほかの所得と差し引きできる範囲には制限があります。暗号資産の取引で生じる雑所得の損失は、給与所得などとは相殺できません。また、NFTを担保にした海外のレンディングサービスは日本の規制の外にあることが多く、トラブル時の保護は期待しにくい点にも注意してください。

よくある質問

Q. 2022年6月にNFTの取引量が急増したのはなぜですか?

A. 暗号資産市場の急落で、手放す保有者と、値下がりしたNFTを買う人の双方が増えたためです。担保になっていたNFTの売却も加わりました。ただし取引した人数はむしろ減っていました。

Q. BAYCの最低価格はどう推移しましたか?

A. 2022年4月の153.7ETHが最高で、2022年6月には82.5ETH、翌2023年7月に27.4ETHの安値を付け、2026年5月時点では約10ETHと伝えられています。

Q. BendDAOの危機とは何ですか?

A. 2022年8月、NFTを担保にETHを貸し借りするBendDAOで、担保価値の下落により多くのローンが清算の危機に陥り、資金の引き出しも難しくなった出来事です。

Q. 取引量が多いNFTは人気があると言えますか?

A. 一概には言えません。参加者数、ドル建てかETH建てか、自己売買の割合をあわせて確認する必要があります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。