2022年6月14日、米マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ氏は、米TechCrunchが開いたイベントで、暗号資産とNFTについて「100%、より大きな愚か者理論(greater fool theory)に基づいている」と述べました。人気のNFTコレクションBored Ape Yacht Club(BAYC)を念頭に、「猿の高価なデジタル画像が世界を大きく良くするのは明らかだ」と皮肉も口にしています。
旧版の記事はこの発言を紹介していましたが、発言の中身が正確に伝わっていない箇所や、根拠の確認できない記述が含まれていました。この記事では、発言の内容と背景を確かめ直し、その後のNFT市場の推移と照らし合わせながら、この批判から何を学べるのかを整理します。
何を言ったのか:発言の中身
ゲイツ氏の発言は、気候変動をテーマにしたTechCrunchのイベントで、暗号資産について問われた際のものでした。報道によると、同氏は暗号資産とNFTを「100%、より大きな愚か者理論に基づく資産」だと表現し、自分はこうした資産に関わっていないと説明しています。自分より高い値段で買ってくれる人がいることだけを前提に価格が成り立っている、という見方です。
また同氏は、BAYCを念頭に「猿の高価なデジタル画像が、世界を大きく良くするのは明らかだ」と皮肉を述べました。旧版の記事は発言を「暗号資産市場に手を出すのはイーロン・マスク氏のような資金力のある人だけでいい」という趣旨でまとめていましたが、この表現は同氏の過去の別の発言と混ざったものとみられます。同氏は2021年2月の米Bloombergのインタビューで、ビットコインについて「イーロン(マスク氏)より資金が少ない人は、気をつけたほうがいい」と語っており、旧版はこの発言と混同したと考えられます。この言葉は、大富豪なら値動きに耐えられても、余裕資金の少ない人が熱狂に巻き込まれると大きな損失を被りかねない、という警告でした。
旧版の冒頭にあった「世界一の金持ち」という紹介も、2022年当時の富豪ランキングでは正確ではありませんでした。
「より大きな愚か者理論」とは何か
より大きな愚か者理論とは、ある資産の価格が、その資産そのものが生み出す価値ではなく、「もっと高い値段で買ってくれる人(より大きな愚か者)がいるはずだ」という期待だけで支えられている状態を指す言葉です。
株式であれば、企業が生み出す利益や配当が価格の裏付けになります。不動産であれば、家賃収入や住むという使い道があります。これに対し、配当も使い道もない資産は、次に買う人の存在だけが価格の支えになるため、買い手がいなくなった瞬間に価格が大きく崩れやすい、というのがこの理論の要点です。
ゲイツ氏の批判は、多くのNFTがこの構造に当てはまるという指摘でした。一方で、NFTの支持者は、所有の証明や作品の表現、コミュニティへの参加権などに価値があると反論しています。
ゲイツ氏が評価するデジタル決済との違い
旧版の記事も触れていたとおり、ゲイツ氏は暗号資産には否定的ですが、デジタル技術で金融サービスを広げることには積極的です。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、銀行口座を持たない人々が携帯電話で送金や支払いをできるようにする取り組みを長く支援してきました。
その代表例が、財団の支援で開発され、2017年に公開されたオープンソースの決済ソフトウェア「Mojaloop」です。各国の政府や金融機関が、誰でも使える即時決済の仕組みを低コストで作れるようにすることを目的としており、アフリカやアジアの国々で導入が進められています。
ゲイツ氏が問題視しているのは「デジタル」そのものではなく、価値の裏付けが乏しいまま投機の対象になる資産だと整理できます。旧版の記事にあった「暗号資産は匿名なので税金や規則を回避できる」という記述は発言内容として確認できず、日本を含む多くの国で暗号資産の取引は課税と規制の対象です。
発言が市場を動かしたのか
旧版の記事は、ゲイツ氏の発言で多くの投資家がパニックに陥り、BAYCの最低価格が14日間で76%近く下落したと書いていました。しかし、発言とBAYCの価格下落を直接結びつける根拠は確認できませんでした。
発言があった2022年6月中旬は、暗号資産の貸付業者の出金停止などをきっかけに、市場全体が急落していた時期です。BAYCの最低価格は2022年4月の最高値153.7ETHからすでに下落が続いており、6月には80ETH台まで下がっていました。価格の下落は、市場全体の資金の流出によるところが大きいと考えられます。
著名人の発言は話題になりやすく、値動きの原因として語られがちですが、同じ時期に何が起きていたかを確かめないと、原因を取り違えるおそれがあります。
その後どうなったか:NFT価格の4年間
発言から4年あまりの間に、NFT市場は大きく縮小しました。BAYCの最低価格は2023年7月に27.4ETHまで下がり、2026年の春先には一時5ETH程度に落ち込み、その後は10ETH前後まで回復した、という報道が出ています。2022年初めに約130万ドルで購入された有名人の1点が、2026年には約1万2,000ドル相当になったという報道もありました。
こうした推移は、少なくとも2021〜2022年の高値の多くが、ゲイツ氏の言う「次の買い手」への期待に支えられていたことを示しています。
一方で、NFTの仕組みそのものは、イベントの参加証、ゲームのアイテム、会員証などとして使われ続けています。高値で転売することを前提にした使い方と、証明や記録として使う使い方を分けて考えると、ゲイツ氏の批判がどの部分に当てはまるのかが見えやすくなります。
また、ゲイツ氏のような著名な懐疑論者がいる一方で、NFTの価値を強く信じる著名人や企業も多くいました。どちらの立場の発言も、それだけで価格の先行きを示すものではありません。4年間の推移は、発言の主が誰であれ、価格は最終的に買い手の数と資金の量で決まることを改めて示したと言えます。
批判から学べる、NFTを評価するときの問い
ゲイツ氏の発言は辛辣ですが、NFTを検討するときに自分に問うべき点を示しています。
- 次の買い手がいなくても価値があるか:持っているだけで得られる権利や体験は何か。
- 価値の源泉は何か:作品への愛着、会員としての特典、実用的な機能など、転売以外の理由があるか。
- その権利は続くか:特典を提供する運営が続かなければ、価値も失われます。
- 失っても困らない金額か:価格がゼロに近づく可能性も考えておく必要があります。
これらに答えられないまま購入するなら、それは転売を前提にした投機に近いと言えます。NFTの基本はNFTの基礎解説で整理しています。
日本の読者が押さえておきたいこと
日本では、暗号資産の売買は金融庁に登録された業者を通じて行うことが前提で、取引で得た利益は原則として雑所得として課税されます。「匿名だから税金がかからない」ということはなく、取引所の記録や送金の履歴から取引は把握されます。
著名人の肯定的な発言も否定的な発言も、SNSでは切り取られて広まりがちです。発言の全文や一次報道にあたり、その人がどんな場で、何について話したのかを確かめる習慣をつけると、情報に振り回されにくくなります。
よくある質問
Q. ビル・ゲイツ氏はNFTについて何と言ったのですか?
A. 2022年6月14日、暗号資産とNFTは「100%、より大きな愚か者理論に基づく」と述べ、猿の高価なデジタル画像が世界を良くするのは明らかだと皮肉りました。
Q. より大きな愚か者理論とは何ですか?
A. 資産の価格が、その資産自体の価値ではなく、もっと高く買ってくれる人がいるという期待だけで支えられている状態を指す言葉です。
Q. ゲイツ氏の発言でBAYCの価格は暴落したのですか?
A. そうした因果関係を裏付ける資料は確認できませんでした。当時は暗号資産市場全体が急落しており、BAYCの価格も4月の最高値から下落が続いていました。
Q. ゲイツ財団はデジタル決済をどう支援していますか?
A. 銀行口座を持たない人が携帯電話で決済できるよう、オープンソースの決済ソフトウェアMojaloopの開発を支援し、2017年に公開しました。
この記事の出典
- CNBC:Bill Gates says crypto and NFTs are 100% based on greater fool theory
- Decrypt:Bill Gates: Crypto and NFTs 100% Based on Greater Fool Theory
- CNBC:Why Bill Gates warns against investing in Bitcoin: If you have less money than Elon, watch out
- Gates Foundation:Bill & Melinda Gates Foundation Releases Open-Source Software to Support Efforts that Expand Access to Financial Services
- Mojaloop:Background
- CoinDesk:Bored Ape Yacht Club NFT Floor Price Sinks to 20-Month Low
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




