エリザベス女王の死去とNFT・ミームコイン|QueenE DAOと便乗トークンの顛末

2022年9月8日、英国のエリザベス2世女王が96歳で亡くなりました。在位70年という英国史上最長の君主の死は世界中で報じられましたが、暗号資産とNFTの世界ではもうひとつの動きが起きていました。女王を題材にしたNFTコレクションとミームコインが、数時間から数日のうちに次々と作られたのです。

旧版の記事はこの現象を短く紹介していましたが、一部の数字に誤りや取り違えがありました。この記事では報道で確認できる数字に直したうえで、追悼を掲げたNFTプロジェクト「QueenE」と便乗トークンがどうなったのか、そして著名人の訃報や話題に合わせて現れるトークンをどう見ればよいのかを整理します。

何が起きたか:QueenEの最終オークション

QueenEは2022年7月上旬に始まったイーサリアム上のNFTプロジェクトです。女王が存命のあいだ、ドット絵の肖像画を1日1枚生成してオークションにかける、という設計を最初から公表していました。開始直後は数時間ごとにオークションが開かれ、その後は1日1回のペースに落ち着いています。

Decryptの報道によると、女王の死去が伝えられた9月8日の時点で進行していた73番目のオークションが第1世代(Gen1)の最後となり、作品数は計73点で打ち止めになりました。最後の1点には報道時点で0.5ETH(当時約825ドル)の入札があり、それまでの最高落札はQueenE #23の1.9ETHでした。売上はDAO(分散型自律組織)が管理する金庫に入る仕組みで、金庫の残高は当時10.10ETH程度と報じられています。

この設計は、1日1体のNFTを競売にかけて売上をDAOの金庫に入れる「Nouns」のコードと形式を借りたものです。制作者は開発者4人で、追悼のために急造された作品ではなく、女王の存命中から続いていた企画だった点は押さえておきたいところです。

数字で見ると、QueenEの規模は大きくありません。73点の作品と10ETH前後の金庫は、同じ年に数千ETH規模の資金を動かしていたNFTコレクションと比べればごく小さなものです。それでも、最初に決めたルール(女王の存命中だけ作品を出す)を守って終えたという点で、話題に合わせて作られたコレクションとは区別して見る必要があります。

便乗して作られたミームコインとNFT

QueenEとは性質の違う動きもありました。Cointelegraphは9月9日、女王にちなんだミームトークンが40種類以上作られたと報じています。名前には「Queen Elizabeth Inu」「Save the Queen」「QueenDoge」「London Bridge is Down」などが並びました。

なかでもBNBチェーン上の分散型取引所PancakeSwapで取引された「Queen Elizabeth Inu」は、24時間で28,506%上昇したと伝えられました。ただし、このトークンの背後にある流動性は約1万7,000ドルにすぎませんでした。流動性が小さいトークンは、少額の買いで価格が何百倍にも跳ねる一方、まとまった売りが出ると一気に崩れます。上昇率の数字だけでは、実際にいくら売買できたのかは分かりません。

NFTでは、死去から数時間でOpenSeaに「RIP Queen Elizabeth」というコレクションが現れました。旧版は「約579点・約0.58ETH」と書いていましたが、Cointelegraphの報道では520点、売買総額は0.06ETH(約101ドル)です。話題性のわりに、買い手はほとんどいなかったことになります。

背景:なぜ訃報や話題にトークンが群がるのか

2022年当時、イーサリアムやBNBチェーンでは、誰でも数分で新しいトークンを発行し、分散型取引所に流動性を置いて売買を始められました。審査や上場手続きはありません。検索やSNSで名前が急に注目されると、その名前を冠したトークンが「話題の受け皿」として作られるのはこのためです。

同じ年の3月には、アカデミー賞授賞式でウィル・スミス氏がクリス・ロック氏を平手打ちした翌日に「Will Smith Inu」というトークンが作られています。ワシントン・ポストによると、作成者は契約の作成と初期の流動性に約4ETHを使い、約10ETHを手にしたとされ、トークンはその後大半の価値を失いました。旧版はこの件の数字を女王関連トークンの流動性と混同していたため、ここで分けて記しておきます。

こうしたトークンでは、最初に流動性を置いた作成者や早く買った人が、後から来た買い手に売り抜ける構図になりやすいと指摘されています。

その後どうなったか

QueenEは最終オークションの後、第2世代(Gen2)の計画をX(旧Twitter)で予告していました。ただ、Gen2がいつどのような形で始まったのか、DAOの金庫がどう使われたのかは、2026年時点で公表資料から確認できませんでした。

便乗トークンについて、個別の価格推移を追える一次資料は見つかりませんでした。流動性が数万ドル規模のトークンは取引がすぐに細り、価格情報の提供も止まることが多いため、「その後」をたどれないこと自体がこの種のトークンの性質を表しています。

英国政府との関係でいえば、当時のスナク財務相が2022年4月に王立造幣局(Royal Mint)によるNFTの発行を指示していましたが、財務省は2023年3月に計画を進めないと発表しました。報道では、投機性への懸念が理由のひとつとして挙げられています。国家がNFTで記念を残す構想も、実現しないまま終わりました。

話題便乗トークンを見るときの確認点

訃報や事件、流行語に合わせてトークンやNFTが現れたとき、少なくとも次の点を確かめると実像が見えやすくなります。

  • 流動性の大きさ:上昇率より、取引所のプールにいくら置かれているかを見る。数万ドル規模なら、少しの売りで価格は崩れます。
  • 発行者と保有の偏り:作成者のアドレスが供給の大半を持っていないか、流動性がロックされているかをブロックエクスプローラーで確認する。
  • 売買の実績:NFTなら出品数ではなく実際の売買総額と買い手の数を見る。
  • 名称と権利:実在の人物の名前や肖像を使っていても、本人や関係者と関係があるとは限りません。

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日本の読者が知っておきたい制度

日本の居住者が海外の分散型取引所で無名のトークンを売買しても、日本の暗号資産交換業者のような利用者保護(分別管理や登録審査)は受けられません。金融庁は無登録で日本向けに営業する業者への警告を公表していますが、発行者が特定できないトークンそのものを止める仕組みはありません。

また、ミームコインやNFTで利益が出た場合は、日本円に換えていなくても、別の暗号資産に交換した時点で課税の対象になりえます。短期間に多数の売買をした場合、取引履歴の記録が後から追えなくなる例も多いため、取引のたびに記録を残しておくことが大切です。NFTの税務上の区分はNFTの税金|制作者の一次流通と転売の課税区分で詳しく扱っています。

人物の肖像や名前を使ったNFTの販売には、肖像権やパブリシティ権の問題が生じる可能性もあります。追悼の気持ちを表す方法として作品を買うかどうかは個人の判断ですが、「話題だから値上がりする」とは限らないことを、QueenEと便乗トークンの数字が示しています。

よくある質問

Q. QueenEは女王の死去に便乗したNFTだったのですか?

A. Decryptの報道によると、QueenEは2022年7月から女王存命中に1日1枚の肖像を出す企画として続いており、死去を受けて73点目で第1世代を締めくくりました。死去の後に作られた便乗コレクションとは経緯が異なります。

Q. Queen Elizabeth Inuが2万8,000%以上も上がったのは本当ですか?

A. Cointelegraphは24時間で28,506%上昇したと報じています。ただし背後の流動性は約1万7,000ドルと小さく、少額の売買で価格が大きく動く状態でした。上昇率だけで需要の大きさは判断できません。

Q. 英国の王立造幣局のNFTは発行されたのですか?

A. 発行されていません。2022年4月に当時のスナク財務相が発行を指示しましたが、英財務省は2023年3月に計画を進めないと発表しました。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。