Binance5周年のBTC手数料ゼロ取引(2022年7月)|終了までの経緯と出来高への影響

2022年7月8日14時(日本時間23時)、世界最大級の暗号資産取引所Binance(バイナンス)は、創業5周年を記念して、ビットコイン(BTC)の現物取引13ペアでメイカー・テイカーの両方の手数料をゼロにするキャンペーンを始めました。終了日は「追って通知するまで」とされ、実際には約8か月半続きました。

旧版の記事は発表の翌日時点の情報で、終了時期は未定のままでした。この記事では、キャンペーンの条件を正確に整理したうえで、2023年3月の縮小で取引高がどう変わったか、手数料ゼロが取引量の数字に与える影響、そして日本の利用者が押さえておくべき点をまとめます。

何が始まったか:BTC現物13ペアの手数料ゼロ

Binanceの公式告知によると、対象はBTCと法定通貨またはステーブルコインを組み合わせた13ペアでした。具体的には、BTC/AUD、BTC/BIDR、BTC/BRL、BTC/BUSD、BTC/EUR、BTC/GBP、BTC/RUB、BTC/TRY、BTC/TUSD、BTC/UAH、BTC/USDC、BTC/USDP、BTC/USDTです。すべての利用者が、注文を出す側(メイカー)も約定させる側(テイカー)も手数料なしで取引できました。

一方で、これらのペアは、BNBでの手数料割引や紹介報酬、そのほかの手数料優遇の対象から外されました。また、自分同士で売買を繰り返す取引や、不正に大量登録したアカウントによる取引、相場操縦にあたる取引は対象外と明記されていました。

旧版の記事には「BTC/BDR」とありましたが、正しくはインドネシア・ルピアに連動するトークンとの「BTC/BIDR」です。また「未決済注文および未決済手数料を無料にできる」という訳は意味が通らず、実際はメイカー手数料とテイカー手数料がともにゼロになるという内容でした。

背景:下落相場と取引所どうしの手数料競争

Binanceは2017年7月にサービスを始めた取引所で、2022年には現物取引高で世界最大の規模になっていました。ただ、このキャンペーンが始まった2022年夏は、TerraUSDの崩壊や大手レンディング企業の破綻が相次ぎ、市場全体の取引高が大きく落ち込んでいた時期です。

先行したのは米国の関連会社Binance.USで、2022年6月に一部のBTCペアで手数料ゼロを導入していました。米CoinDeskによると、この発表があった6月22日には、競合の米Coinbaseの株価が1日で9.7%下落しています。手数料を主な収益源とする取引所にとって、手数料ゼロは大きな脅威と受け止められました。

Binanceの世界版は、この取り組みを翌月に全世界へ広げた形です。取引手数料を捨ててでも、流動性(売買の厚み)を集めて利用者を呼び込み、他の取引所との差を広げる狙いがあったと考えられます。

キャンペーン中に何が起きたか:出来高の大部分が手数料ゼロに

暗号資産の市場データ企業Kaikoの分析によると、手数料ゼロのペアがBinanceの取引高に占める割合は、2022年9月には週ベースで85%に達し、2023年3月まで70%を超える水準が続きました。Binanceの市場シェアも、キャンペーン期間中に約10ポイント上がったとしています。

取引高が手数料ゼロのペアに集中したのは、同じBTCを売買するなら手数料のかからない市場を選ぶのが合理的だからです。特に、高頻度で売買を繰り返すトレーダーやマーケットメイカーにとって、手数料の有無は収益に直結します。

その結果、Binanceの取引高の数字は大きく膨らみました。ただし、この増加がどれだけ実需によるもので、どれだけ手数料ゼロだから成り立った売買なのかは、外から見分けにくいという問題が残りました。

その後:2023年3月の縮小と取引高の急減

Binanceは2023年3月22日0時(UTC)をもって、13ペアのうちBTC/TUSD以外の手数料ゼロを終了しました。BTC/USDTなど主要なペアには通常の手数料が戻りました。米国の規制対応でBUSDの新規発行が止まったこともあり、Binanceは代わりのステーブルコインとしてTUSDを前面に出したとみられています。

影響はすぐに表れました。CoinDeskがKaikoのデータをもとに報じたところでは、BTC/USDTの平均取引高は約90%減り、Binanceのビットコイン取引高は約8か月ぶりの低さになりました。世界の取引高に占めるBinanceのシェアも、70%を超えていた水準から約58%へ下がったとされています。

この動きは、取引高の多くが手数料の条件に強く左右されていたことを示しています。手数料ゼロの終了から5日後の3月27日には、米商品先物取引委員会(CFTC)がBinanceと創業者を提訴しており(CFTCによるBinanceの告発)、同社をめぐる環境は大きく変わっていきました。

手数料ゼロの対象はTUSDからFDUSDへ

その後も、Binanceは対象を変えながら手数料ゼロの仕組みを続けました。2023年8月4日には新しいステーブルコインFDUSDとのペアBTC/FDUSDを追加し、メイカー・テイカーともに手数料ゼロとしました。同年9月7日からは、BTC/TUSDのテイカー手数料が通常に戻り、手数料ゼロの中心はFDUSDのペアに移りました。

さらに2024年4月25日からは、一般利用者とVIP1の利用者について、FDUSDペアでもテイカー手数料がかかるようになりました。メイカー手数料のゼロは残り、上位のVIPや流動性提供者は引き続き手数料ゼロという、利用者の層で条件を分ける形に変わっています。

つまり、2022年7月に始まった「誰でもBTCを手数料ゼロで」という形は、2023年3月でほぼ終わり、以後は特定のステーブルコインを広めるための優遇へと性格を変えました。キャンペーンの条件は頻繁に変わるため、最新の内容は公式告知で確認する必要があります。

手数料ゼロが取引量の数字に与える影響

手数料がかからない市場では、同じ参加者が売りと買いを繰り返す取引、いわゆるウォッシュトレード(仮装売買)のコストもゼロに近づきます。Binanceは規約でこうした取引を対象外としていましたが、外部からは、取引所が公表する取引高のどこまでが実際の売買需要を反映しているかを判断しにくくなります。

取引高は、取引所の規模やトークンの人気を測る指標としてよく使われます。しかし、手数料ゼロの期間の数字は、キャンペーンがない時期や他の取引所と単純に比べられません。Kaikoが手数料ゼロのペアの取引高を切り分けて分析しているのも、この違いを踏まえたものです。

読者が取引所のデータを見るときは、取引高だけでなく、板の厚み(一定の価格幅に並ぶ注文量)や、売買の価格差(スプレッド)もあわせて確認すると実態に近づけます。手数料や報酬の条件が変わった前後で数字が急変していないかを見るのも有効です。

日本の利用者が知っておきたいこと

Binanceの海外版は、日本の暗号資産交換業の登録を受けていません。同社は日本で登録済みの交換業者を買収し、2023年8月から金融庁に登録されたBinance Japanとして国内向けサービスを提供しています。日本の居住者が使えるのはこちらで、取り扱う銘柄や手数料、キャンペーンは海外版とは別物です。

2023年11月には、Binanceが米司法省などと総額40億ドルを超える和解に合意し、創業者は経営から退きました。取引所の規模が大きいことと、規制上の位置づけが安定していることは別の問題だといえます。利用する業者が日本の登録を受けているかは、金融庁の一覧で登録業者を確かめる方法で確認できます。

税金の面では、日本では暗号資産どうしの交換も、円に換えたときと同様に利益の計算対象になります。手数料がかからないからといって短期売買を重ねると、取引の件数が増えて損益計算が複雑になります。取引履歴は年ごとに保存しておきましょう。

よくある質問

Q. Binanceの手数料ゼロキャンペーンはいつ始まり、いつ終わりましたか?

A. 2022年7月8日14時(UTC)に始まり、2023年3月22日にBTC/TUSD以外の12ペアで終了しました。その後はBTC/TUSD、次いでBTC/FDUSDなど対象を絞った形で続き、条件は段階的に変更されています。

Q. 対象はどのペアでしたか?

A. BTC/AUD、BTC/BIDR、BTC/BRL、BTC/BUSD、BTC/EUR、BTC/GBP、BTC/RUB、BTC/TRY、BTC/TUSD、BTC/UAH、BTC/USDC、BTC/USDP、BTC/USDTの13ペアです。

Q. キャンペーン終了で何が変わりましたか?

A. Kaikoのデータを引用した報道によると、BTC/USDTの平均取引高は約90%減り、世界の取引高に占めるBinanceのシェアは70%超から約58%へ下がりました。

Q. 日本からBinanceの海外版を使えますか?

A. 海外版は日本の登録を受けていません。日本の居住者向けには、金融庁に登録されたBinance Japanがあり、サービス内容は海外版と異なります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。