2022年6月1日、世界最大級の暗号資産取引所Binanceの投資部門Binance Labsは、Web3やブロックチェーン関連の企業に投資する5億ドル(当時約640億円)のファンドを設立したと発表しました。同部門のファンドとして初めて外部の投資家から資金を受け入れた点が注目されました。
旧版の記事は、この金額を見出しで「500億ドル」、本文で「500億円」と書いており、どちらも誤りでした。この記事では、発表の正確な内容を確認したうえで、その後にファンドとBinanceに何が起きたのか、そして日本の読者が押さえておくべき点を整理します。
何が発表されたか:初めて外部資金を入れた5億ドルのファンド
Binance Labsは2018年に設立された、Binanceのベンチャー投資とインキュベーション(起業支援)を担う部門です。それまでは主にBinance自身の資金で投資していましたが、2022年6月に発表した「Binance Labs Fund II」では、外部の機関投資家を迎えました。
参加が公表された投資家は、DST Global Partners、米国のベンチャーキャピタルBreyer Capital、そしてWhampoa Groupなどです。ただし、報道によると5億ドルの大部分はBinance自身が出資していました。
ファンドは、事業の立ち上げ段階を支えるインキュベーション、初期段階の投資、成長段階の投資という3つの段階に分けて資金を投じるとされ、分散型金融(DeFi)、NFT、ゲーム、メタバース、ソーシャルメディアなど、Web3の幅広い分野が対象に挙げられていました。
背景:暗号資産の下落局面での大型ファンド
発表の時期、暗号資産市場は大きく下げていました。ビットコインは2021年11月に付けた約6万9,000ドルの最高値から半値以下になり、同年5月にはステーブルコインTerraUSDの崩壊も起きていました。暗号資産関連の上場企業の株価も大きく下落していました。
それでも、ベンチャーキャピタル各社はWeb3への大型投資を続けていました。旧版の記事が触れた米アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は、2022年5月に暗号資産分野のファンドとして45億ドルを集めています。旧版はこれを「4.5億ドル」と書いていましたが、正しくは45億ドルで、Binance Labsのファンドの9倍にあたる規模でした。
下落局面でも資金を集めたのは、価格が下がった時期にこそ有望な企業に安く投資できるという考え方によるものです。ただし、それが実際に成果につながるかどうかは、その後の市場環境に大きく左右されました。
その後どうなったか:資金の返還とBinanceの転機
ファンドの設立から1年あまりで、状況は大きく変わりました。米メディアThe Blockは2023年、外部の投資家が出資した約1億5,000万ドルのうち、半分近くが同年夏に返還されたと報じています。
同じ2023年の11月21日、Binanceは米司法省との間で、マネーロンダリング対策の不備や制裁違反などをめぐり、43億ドルを支払うことで合意しました。創業者で最高経営責任者(CEO)だったチャンポン・ジャオ(CZ)氏は罪を認めてCEOを退任し、2024年に4か月間服役しています。
その後、2025年1月にはBinance Labsが「YZi Labs」に名称を変え、取引所の投資部門から、ジャオ氏と共同創業者のイー・ハー氏の資産を運用するファミリーオフィスへと性格を変えました。投資の対象も、Web3に加えて人工知能(AI)やバイオテクノロジーに広がっています。ジャオ氏は2025年10月23日、トランプ米大統領から恩赦を受けました。
こうした経過を見ると、2022年のファンド設立はBinanceが最も勢いのあった時期の出来事で、その後は規制当局との関係の立て直しが経営の中心課題になったことが分かります。取引所の信用や規制上の立場は、関連する投資部門の活動にも直接影響します。
旧版の記述で訂正が必要な点
旧版の記事には、金額以外にも確認できない記述や誤りが含まれていました。主な点を整理します。
| 旧版の記述 | 確認できた事実 |
|---|---|
| 500億ドル(見出し)/500億円(本文)の資金調達 | ファンドの規模は5億ドル |
| 「3大ベンチャーキャピタル」が参加 | DST Global Partners、Breyer Capitalなどが参加。「3大」という位置づけの根拠は確認できない |
| a16zが4.5億ドルを調達 | 2022年5月に45億ドルの暗号資産ファンドを設立 |
| 30万〜50万人の技術者がBinanceのWeb3に取り組む | この数字を裏付ける公式の資料は確認できなかった |
また旧版は、Binanceが「投資家やユーザーの期待を裏切ることはないだろう」と結んでいましたが、これは運営側の見通しを紹介したもので、実際にはその後、米国での刑事和解という大きな出来事が起きています。企業の自己評価をそのまま伝えるのではなく、事実の経過で確かめることが大切です。
Fund IIの投資先はどうなったか
Binance Labsは設立以来、多くのプロジェクトに投資してきました。その中には、後に大手取引所に上場して大きな時価総額を持つようになったものもあれば、開発が止まったものもあります。個別の投資先のその後を一つひとつ追うことはここではしませんが、Fund IIがどの程度の成果を上げたかについて、まとまった公式の開示は確認できませんでした。
ベンチャー投資では、多くの投資先のうち一部が大きく成功し、残りは失敗することが前提になっています。「大手の投資部門が出資した」という事実は、そのプロジェクトの将来を保証するものではありません。投資部門が出資したトークンが、後に同じグループの取引所に上場することもあり、利益相反の観点から議論になることもあります。
日本の読者が押さえておきたいこと
Binanceは長く日本の登録を受けないまま日本の利用者にサービスを提供していたとして、2018年と2021年に金融庁から警告を受けていました。その後、2022年に日本の登録業者であるサクラエクスチェンジビットコインを買収し、2023年8月に「Binance Japan」として国内向けのサービスを始めています。
日本の居住者が利用できるのは、金融庁に登録されたBinance Japanのサービスです。海外版のBinanceとは取り扱う銘柄やサービスが異なります。2025年にはPayPayとの資本業務提携も発表されました(Binance Japan×PayPayの資本提携)。取引所を選ぶときは、登録業者の確認方法に沿って、利用するサービスが日本の登録を受けているかを必ず確かめてください。
大型ファンドのニュースを読むときの視点
- 金額の単位を確かめる:旧版のように「億円」と「億ドル」を取り違えると、規模の印象が100倍以上変わります。一次情報の数字と単位を確認しましょう。
- 誰の資金か:外部の投資家の資金か、運営会社自身の資金かで、ファンドの性格は変わります。
- 発表と実行は別:設立時に発表された金額が、その後すべて投資されるとは限りません。今回のように資金が返還されることもあります。
- 関連トークンへの影響:大手の投資が発表されると、関連するトークンの価格が短期的に動くことがありますが、長期的な価値を示すものではありません。
いずれも、ニュースの見出しだけで判断せず、発表の中身とその後の経過をあわせて見ることの大切さを示しています。
よくある質問
Q. Binance Labsのファンドの規模はいくらでしたか?
A. 5億ドルです。2022年6月1日に発表されました。旧版の記事の「500億ドル」「500億円」はいずれも誤りです。
Q. どんな投資家が参加しましたか?
A. DST Global Partners、Breyer Capital、Whampoa Groupなどが参加しました。ただし資金の大部分はBinance自身が出したと報じられています。
Q. Binance Labsは今どうなっていますか?
A. 2025年1月にYZi Labsへ名称を変え、創業者のジャオ氏らの資産を運用するファミリーオフィスになりました。AIやバイオテクノロジーにも投資しています。
Q. 日本でBinanceを使えますか?
A. 金融庁に登録されたBinance Japanが2023年8月から国内向けにサービスを提供しています。海外版とは取扱銘柄やサービスが異なります。
この記事の出典
- CoinDesk:Binance Labs Raises $500M Fund for Web 3, Blockchain Investments
- The Block:Binance's VC arm raises $500 million fund — its first with outside capital
- TechCrunch:Amid crypto market turmoil, Andreessen Horowitz announces $4.5 billion web3 fund
- The Block:Binance Labs returned external investors' capital over summer
- CoinDesk:Binance to Pay $4.3B to Settle U.S. Criminal Case
- Cointelegraph:Binance Labs rebrands, dives into AI as CZ returns as mentor
- Axios:Trump pardons convicted Binance founder Changpeng Zhao
- CoinDesk:Binance to Reenter Japan in August 2 Years After Regulator's Warning
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




