全同態暗号(FHE):定義、技術原理、応用範囲、そして関連プロジェクト

1. 全同態暗号(FHE)とは?

全同態暗号(FHE:Fully Homomorphic Encryption)とは、特定の形式で暗号化されたデータを操作でき、データやプライバシーが露出することなく計算ができる技術です。これにより、クラウド上でのデータ分析やAIトレーニング、金融トランザクションのセキュリティを確保したまま処理することが可能です。

ZKP(Zero-Knowledge Proofs)がデータの暗号化とその整合性の確認を可能にするのに対し、FHEは多対多の暗号化計算を可能にする多用途の暗号化スキームと見なされています。

2. 技術原理

通常の計算では、暗号化されたデータは一度解読されてから計算されますが、FHEは暗号化された状態のまま計算を行います。暗号文と平文の間には規則があり、平文での加算操作は暗号文では乗算操作に相当します。これにより、暗号文の状態で計算しても、平文と同じ結果を得ることができます。

3. 応用範囲

全同態暗号の応用範囲は非常に広く、以下のような分野での利用が期待されています。

  • クラウドストレージ:
    暗号化された状態でデータを処理可能。
  • 生体認証:
    指紋や虹彩などの生体データを暗号化状態で認証できる。
  • 医療・健康:
    機密性の高い医療データを共有せずに分析可能。
  • 金融:
    金融取引のトランザクションをセキュアに処理。
  • 広告投資:
    顧客データを公開せずに広告ターゲティングが可能。
  • 遺伝子シーケンス:
    遺伝子データを保護しながら分析可能。

暗号通貨やブロックチェーンの分野でも、FHEはゲーム、DAO投票、MEV(Maximal Extractable Value)保護、プライバシー取引、コンプライアンス取引など、様々なシーンで活用できます。

4. 現状の課題

FHEには計算負荷の課題があり、暗号化されたデータの計算は平文での計算よりもはるかに複雑です。そのため、性能向上のためのアルゴリズムやハードウェアの最適化が求められます。

5. 関連プロジェクト

  • IBM: FHEをサポートするためのオープンソースライブラリを開発。
  • Microsoft: SEAL(Simple Encrypted Arithmetic Library)を提供。
  • Google: 全同態暗号のオープンソースプロジェクトを推進。

結論

FHEはまだ成熟した技術ではありませんが、ZKP技術を補完し、AIモデルのプライバシー計算、AIデータの共同モデル化、AIコラボレートトレーニング、仮想通貨プライバシーコンプライアンス取引など、将来的に多くの分野での応用が期待されます。

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