2021年10月28日、FacebookはMetaへ社名を変え、仮想空間で人が集まり働く「メタバース」を次の主力事業に据えると宣言しました。旧版の記事は、その翌年2月に「投資額は1兆円」「アバターで会議をする姿がシュール」と紹介し、行く末を見守りたいと結んでいました。
それから4年半あまり。Metaの決算と公式発表をたどると、メタバースへの投資は累計800億ドルを超える赤字を生み、2026年には仮想会議室アプリの終了や関連部門の人員削減が進みました。この記事では、当時何が起きたのか、なぜMetaは賭けたのか、そして2026年時点でどうなっているのかを整理します。
2021〜2022年に何が起きたか
社名変更を発表した年次イベント「Connect 2021」で、マーク・ザッカーバーグCEOはメタバース開発にその年だけで約100億ドルを投じる考えを示しました。当時の為替で1兆円を少し上回る規模で、旧版の記事の「1兆円」はこの数字を指しています。紹介映像では、社員がアバター姿で仮想の会議室に集まる場面が描かれ、これは2021年8月に試験公開された「Horizon Workrooms」を下敷きにしたものでした。
2022年2月2日には2021年10〜12月期の決算が発表され、Facebookの1日あたり利用者数が19.29億人と、前の四半期の19.30億人からわずかに減りました。同社の歴史で初めての減少です。発表直後の時間外取引で株価は2割超下落し、メタバースへの巨額投資と本業の先行きの両方に市場の目が向きました。
背景:なぜMetaはメタバースに賭けたのか
Metaの主な収入源は広告です。しかし2021年、AppleがiPhoneで「App Tracking Transparency(ATT)」を導入し、アプリをまたいだ利用者の追跡に本人の許可が必要になりました。Metaは2022年2月の決算説明で、この変更による2022年の売上への影響が約100億ドルに上るとの見方を示しています。
スマートフォンの時代、Metaのアプリは他社が作ったOSとアプリストアの上で動いてきました。次の主要なコンピューティング環境を自分たちで握りたいという動機が、VRヘッドセット「Quest」と仮想空間への投資を後押ししたと広く解説されています。同時に、若い利用者の関心がTikTokなどに移っていたことも、新しい領域を求める理由のひとつでした。
2014年にVR機器メーカーのOculusを買収して以来、MetaはVRに投資を続けてきました。社名変更は、その取り組みを会社全体の看板に掲げ直した出来事でもあります。一企業の方針にとどまらず、「メタバース」という言葉そのものが2021年後半から翌年にかけて世界的な流行語になり、日本でも多くの企業が関連事業を発表しました。
数字で見るReality Labsの4年間
メタバース関連の開発を担う部門「Reality Labs」は、決算で損益が別に開示されています。年ごとの営業損失は次のとおりです。
| 年 | Reality Labsの営業損失 |
|---|---|
| 2021年 | 約102億ドル |
| 2022年 | 約137億ドル |
| 2023年 | 約161億ドル |
| 2024年 | 約177億ドル |
| 2025年 | 約192億ドル |
損失は毎年拡大し、2020年末以降の累計は800億ドルを超えたと報じられています。2025年10〜12月期だけでも約60億ドルの営業損失でした。一方で広告事業は好調で、会社全体としては利益を出し続けています。つまりメタバースは、広告で稼いだ資金で長期の実験を続けている状態だと言えます。
なお、この損失にはVRだけでなく、AR(拡張現実)グラスやスマートグラスの研究開発費も含まれています。「メタバースで800億ドルを失った」という見出しは分かりやすい一方で、部門の中身は時期によって変わっている点も押さえておくと、報道を読み違えにくくなります。
2026年の現在地:縮小とAIへの軸足移動
2026年に入ると、方針転換がはっきり見えるようになりました。1月にはReality Labsの人員の約1割、およそ1,500人の削減が報じられ、Armature Studio、Twisted Pixel、Sanzaru GamesというVRゲーム開発スタジオが閉鎖されました。
旧版の記事が「仮想ワーク」の可能性として触れた仮想会議室アプリ「Horizon Workrooms」は、2026年2月16日で提供を終了し、関連データも削除されると公式ヘルプで案内されました。会議用途では、Microsoft TeamsやZoomなど他社のアプリを使うよう促しています。
3月には、ソーシャルVR「Horizon Worlds」のVR版を6月で終える方針がいったん利用者に伝えられましたが、反発を受けて約2日後に撤回されました。Metaの経営陣は投資の重点を人工知能(AI)に移しており、Reality Labsの中でもAIを載せたスマートグラスのように、日常で使える機器へ重心が移っています。2026年1〜3月期もReality Labsは40億ドルを超える営業損失を計上しており、赤字の構造そのものはまだ続いています。
「仮想ワーク」は来たのか
2022年当時は、在宅勤務の次に「仮想空間で働く」時代が来るという予想が多く語られました。2026年時点で振り返ると、会議の主流はビデオ会議のままで、ヘッドセットを着けて毎日働く形は広がりませんでした。Workroomsの終了はその象徴的な出来事です。
ただし、VRそのものが消えたわけではありません。Questシリーズはゲームやフィットネス、教育・訓練の用途で使われ続けていますし、PC画面を仮想空間に複数並べる機能のように、特定の作業では定着した使い方もあります。「全員が仮想空間で働く」という大きな構想と、「特定の場面で便利な道具」という現実の使われ方を分けて見るのが、今の実態に近い捉え方です。
日本の読者にとっての意味
Questシリーズは日本でも販売されており、家電量販店や公式ストアで購入できます。ただし、個別のアプリやサービスが日本語や日本の地域に対応しているかは、アプリごとに異なります。Horizon Worldsのように提供方針が短期間で変わるサービスもあるため、使い始める前に公式ヘルプで提供地域と今後の予定を確認するのが確実です。
企業の立場から見ると、2022年前後に「メタバース」を掲げて立ち上がった国内の取り組みの中にも、終了したものや規模を縮めたものがあります。仮想空間でのイベントや店舗を検討するなら、特定のプラットフォームに頼り切らず、サービス終了時にデータや顧客との接点をどう移すかを最初に決めておくことが、今回のWorkrooms終了から学べる実務上の教訓です。
読者が見ておくべき指標とNFTとの関係
メタバース関連のニュースを読むときは、話題性よりも次のような数字を確認すると状況をつかみやすくなります。
- Reality Labsの四半期ごとの営業損益と売上:投資を続けるか絞るかの判断が最初に表れます。
- 各プラットフォームの月間利用者数:公式発表が止まった場合、それ自体がひとつの手がかりです。
- アプリやサービスの終了告知:公式ヘルプに先に掲載されることが多くあります。
Metaは2022年にInstagramでNFTの表示・販売機能を始めましたが、2023年3月には縮小を発表しています(Meta、NFT事業を縮小する方向へ)。「メタバース」の名前が付いた暗号資産やNFTの中には、大企業の発表をきっかけに値上がりし、その後大きく下がったものもあります。企業の構想と個別の銘柄の価値は別物として考え、購入を考える場合は発行元や使い道を自分で確かめてください。
よくある質問
Q. FacebookがMetaに社名を変えたのはいつですか?
A. 2021年10月28日です。年次イベント「Connect 2021」で発表されました。Facebookというサービス名はそのまま残っています。
Q. Metaはメタバースでいくら損失を出しましたか?
A. 担当部門Reality Labsの営業損失は2021年の約102億ドルから2025年の約192億ドルまで毎年拡大し、2020年末以降の累計は800億ドルを超えたと報じられています。
Q. アバターで会議をするHorizon Workroomsは使えますか?
A. 使えません。公式ヘルプによると2026年2月16日で提供を終了し、関連データも削除されました。PC画面を仮想空間に映すリモートデスクトップ機能は引き続き提供されています。
Q. Metaはメタバースをやめたのですか?
A. 完全にやめたわけではありません。Horizon WorldsのVR版終了は撤回されましたが、人員削減やスタジオ閉鎖が進み、投資の重点はAIとスマートグラスなどの機器に移っています。
この記事の出典
- CNBC:Facebook-parent Meta Q4 2021 earnings
- CNBC:Facebook says Apple iOS privacy change will result in $10 billion revenue hit this year
- CNBC:Meta's Reality Labs posts $6.02 billion loss in fourth quarter
- CNBC:Meta's VR layoffs, studio closures underscore Zuckerberg's pivot to AI
- CNBC:Meta's Reality Labs lost over $4 billion in first quarter
- Meta Quest Help:Meta Horizon Workrooms is being discontinued
- TechCrunch:Meta decides not to shut down Horizon Worlds on VR after all
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




