2022年4月の旧版記事は「NFTメタバースの家が600万元で売れる?」という見出しで、仮想住宅や仮想の土地が高値で取引されている様子を紹介し、土地の転売や仮想空間の建築、仲介を「商機」として挙げていました。
しかし、紹介された事例には事実関係の誤りがいくつかありました。また、その後の数年で仮想の土地の価格は大きく下がっています。この記事では、当時話題になった事例を一次情報で確かめ直し、なぜ値上がりしたのか、2026年時点でどうなっているのか、そして同じような売り込みを見かけたときに確認すべき点を整理します。
288ETHの仮想住宅「Mars House」とは
旧版で「288ETHで販売されている」と紹介された家は、カナダ出身のアーティスト、クリスタ・キム氏の3D作品「Mars House」です。2021年3月にNFTマーケットプレイスのSuperRareで288ETH(当時約51万2,000ドル)で落札され、「世界初のNFTデジタルハウス」として報じられました。旧版の「600万元」は販売価格ではなく、ETHを人民元に換算した概算とみられます。
Mars Houseは実際に住む家ではなく、VRで中に入って眺めることができるデジタル作品です。光や色がゆっくり変化する内装と環境音が特徴で、瞑想的な空間として作られました。
その後、作品の制作に関わった別のクリエイターとの間で権利をめぐる争いが起きましたが、カナダの裁判所は2024年、キム氏を作品の唯一の著作者と認める判断を示しています。高額なNFTでも、作品の権利関係が後から争われることがあるという例です。
有名人の土地購入:事実関係の訂正
旧版の記事が挙げた有名人の事例には誤りがありました。確認できた事実は次のとおりです。
| 事例 | 旧版の記述 | 確認できた事実 |
|---|---|---|
| スヌープ・ドッグ氏 | 本人が45万ドルで土地を購入 | 2021年12月、The Sandbox内の本人の仮想空間「Snoopverse」の隣の区画を、別の購入者が約45万ドルで買った |
| 新世界発展の鄭志剛(エイドリアン・チェン)氏 | 最大級のデジタル土地に投資 | The Sandboxで最大級の区画を個人として購入し、広東・香港・マカオ大湾区の新興企業を紹介する空間を計画 |
| 歌手のJJ・リン(林俊傑)氏 | Decentralandの土地を保有 | 2021年11月にDecentralandの区画を3つ、合計約12万3,000シンガポールドルで購入したと公表 |
特にスヌープ・ドッグ氏の件は、「有名人の隣に住める」ことに高値が付いた取引で、有名人本人が高額で買ったわけではありません。
なぜ仮想の土地に高値が付いたのか
The SandboxやDecentralandでは、仮想空間の地図があらかじめ決まった数の区画に分けられ、それぞれがNFTとして発行されています。区画の数が増えないため、「限られた土地」として希少性が語られました。
2021年10月にFacebookがMetaへ社名を変えると、メタバースへの関心が一気に高まり、仮想の土地の取引額も急増しました。同年11月には、カナダのTokens.comの子会社Metaverse GroupがDecentralandの「ファッション地区」にある116区画のまとまった土地を61万8,000MANA(約243万ドル)で購入し、当時の同プラットフォーム最大の土地取引と報じられました。同社はそこでファッションショーやブランドとの共同企画を行う計画を示し、実際に2022年には仮想空間でのファッションウィークが開かれています。企業や有名人が次々と参入したことで、「人が集まる場所の近くの土地は値上がりする」という現実の不動産に似た考え方が広まりました。
ただし、現実の土地と違って、仮想の土地の価値はそのプラットフォームに人が集まり続けることが前提です。利用者が減れば、立地の良さも意味を持たなくなります。
その後どうなったか:価格は大きく下落
2022年以降、暗号資産市場の下落とメタバースへの関心の低下が重なり、仮想の土地の価格は大きく下がりました。暗号資産データサイトCoinGeckoの調査では、2022年の平均最低価格と比べて、2024年にはThe Sandboxの土地が約95%、Decentralandが約89%下落したとされています。
JJ・リン氏が購入した区画についても、その後の評価額が購入時から約9割下がったと報じられました。旧版で紹介したような「価格がピークに達したところで売却する」という考え方は、実際には多くの購入者にとって実現しませんでした。
Mars Houseのその後の転売や現在の評価額については、公式な情報は確認できませんでした。一点物の作品は取引自体が少なく、価格が付かない期間が長く続くこともあります。
プラットフォーム自体は2026年時点でも運営が続いていますが、土地の売買は一部の熱心な利用者や企業に限られ、2021年のように新規の買い手が次々に現れる状況ではありません。企業の中には、仮想空間での出店をやめて別の施策に移ったところもあります。価格の下落は、土地の「立地」よりも、プラットフォーム全体の人の流れが価値を決めていたことを示しています。
旧版が挙げた「3つの商機」を今から見直す
旧版は、①土地を買って値上がりを待つ、②仮想空間の建築家・デザイナーになる、③土地の仲介業者になる、という3つの道を紹介していました。2026年時点で振り返ると、それぞれ次のように整理できます。
- 土地の転売:値上がりを前提にした購入は、価格下落で損失が出た例が多くあります。価格の予想に基づく購入はここではすすめません。
- 空間の制作:企業向けにイベント会場やショールームを作る仕事は今も存在します。ただし特定のプラットフォームに依存するため、利用者数の動向に左右されます。
- 仲介:取引量が減ると成り立ちにくいうえ、日本で暗号資産の売買を仲介する場合は法律上の登録が必要になり得ます。
いずれも、ブームの時期の数字だけを根拠に始めるのは危険だと言えます。
仮想の土地や家のNFTを検討する前の確認点
同じような売り込みやSNSの投稿を見かけたときは、次の点を確かめてください。
- プラットフォームの利用者数:公式に毎月の利用者数を公表しているか。累計の登録者数だけでは実態が分かりません。
- 取引の実績:直近に実際に売買が成立しているか。出品価格と成約価格は別物です。
- 購入するもの:区画の所有権だけか、建物のデータや利用の権利まで含むのか。
- 販売元の確かさ:公式マーケットや本物のコントラクトか。偽サイトへの誘導は典型的な詐欺の手口です(NFT詐欺の手口と見分け方)。
日本の居住者がNFTの土地を売って利益が出た場合、暗号資産などと交換できるものであれば所得税の対象になります。また、中国本土では暗号資産の取引が禁じられ、NFTの二次流通にも厳しい制限があります。旧版の記事は中国の住宅市場と比べていましたが、同じ感覚で投資先として考えられる状況ではありません。
日本から仮想の土地を買う場合、多くは海外のマーケットプレイスで、ETHやプラットフォーム独自の暗号資産(The SandboxのSAND、DecentralandのMANAなど)を使って支払います。これらの暗号資産を国内で手に入れるときは、金融庁・財務局に登録された暗号資産交換業者を使っているかを金融庁の登録業者一覧で確かめてください。SNSで知り合った相手から「土地の共同購入」や「運用代行」を持ちかけられた場合は、特に慎重な確認が必要です。
よくある質問
Q. 288ETHで売れた仮想の家は何ですか?
A. アーティストのクリスタ・キム氏による3D作品「Mars House」です。2021年3月にSuperRareで288ETH(当時約51万2,000ドル)で落札されました。VRで体験するデジタル作品で、実在の建物ではありません。
Q. スヌープ・ドッグ氏は45万ドルで仮想の土地を買ったのですか?
A. いいえ。2021年12月に約45万ドルを払ったのは、The Sandbox内の本人の仮想空間の隣の区画を買った別の購入者です。
Q. 仮想の土地の価格は今どうなっていますか?
A. CoinGeckoの調査では、2024年時点でThe Sandboxの土地が2022年比で約95%、Decentralandが約89%下落しました。購入を検討する場合は、直近の成約価格と利用者数を確認してください。
Q. NFTの土地を売った利益に税金はかかりますか?
A. 日本に住む人が売却益を得た場合、そのNFTが暗号資産と交換可能なら課税されます。継続的な売買かどうかで区分が変わるので、国税庁のタックスアンサーや税理士で確かめてください。
この記事の出典
- Dezeen:Artist Krista Kim sells first NFT digital house for over $500,000
- Dezeen:Canadian court declares Krista Kim copyright owner of Mars House
- Decrypt:Someone Paid $450K to Be Snoop Dogg's Metaverse Neighbor
- South China Morning Post:New World's Adrian Cheng enters metaverse investment
- Tatler Asia:Singer JJ Lin Has Purchased Virtual Real Estate on Decentraland
- AsiaOne:JJ Lin loses nearly 91% in NFT real estate
- Tech Times:Metaverse Group Buys Digital Land in Decentraland for $2.43 Million
- CoinGecko Research:Metaverse Land Prices
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




