暗号資産の年末の含み損益と損出しの可否|総平均法と届出の注意点

この記事の結論

  • 国税庁FAQによると、暗号資産の収入すべき時期は原則として売却等をした暗号資産の引渡しがあった日の属する年分になる。
  • したがって保有したままの含み損益は、その年の雑所得の計算には入らない。
  • 年末に売却して損失を確定させても、雑所得の損失は給与所得など他の所得と通算できない。

※本記事は国税庁「暗号資産及び電子決済手段に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」および令和8年4月1日現在のタックスアンサーにもとづく一般的な整理です。個別の判断は税務署または税理士にご確認ください。

含み損益は年末時点で課税されるのか

国税庁FAQの「2-1 暗号資産取引による所得の総収入金額の収入すべき時期」は、暗号資産取引で生じた利益について「原則として売却等をした暗号資産の引渡しがあった日の属する年分となります。ただし、選択により、その暗号資産の売却等に関する契約をした日の属する年分とすることもできます」と示しています。

つまり所得が計上されるのは売却または使用の時点であり、保有したままの評価損益がその年の雑所得の金額に直接入るという定めは、FAQには置かれていません。

年末時点の評価額は「譲渡原価」の計算に使う

ただし年末(12月31日)時点の評価額が無関係というわけではありません。FAQ「2-4 暗号資産の譲渡原価」は、譲渡原価を次のように計算するとしています。

項目内容
前年から繰り越した年初(1月1日)時点で保有する暗号資産の評価額
その年中に取得した暗号資産の取得価額の総額
年末(12月31日)時点で保有する暗号資産の評価額
譲渡原価(① + ②)− ③

③が大きくなれば譲渡原価は小さくなり、その年の所得は増えます。年末時点の評価額は「含み益への課税」ではなく、売却分の原価をいくらにするかという形で所得に効いてきます。

総平均法と移動平均法で金額はどれだけ変わるか

年末時点の1単位当たりの取得価額は、総平均法または移動平均法のいずれかで算出します。FAQが示す設例(3月1日に4BTCを1,845,000円、6月20日に2BTCを1,650,000円、9月15日に0.5BTCを542,800円で購入し、7月10日に2BTCを2,400,000円、11月30日に3BTCを2,895,000円で売却)では、結果が次のように分かれます。

評価方法年末時点の1単位当たり取得価額年末保有分の評価額譲渡原価
総平均法621,200円931,800円3,106,000円
移動平均法638,400円957,600円3,080,200円

同じ売買でも譲渡原価は25,800円ずれます。売買回数が増えるほど差は開くため、どちらの方法を選んでいるかを把握しないまま年末の損益を見積もると、実際の申告額とかみ合いません。

評価方法の届出と変更は期限が異なる

手続提出書類期限
評価方法の選定所得税の暗号資産の評価方法の届出書初めて取得した年分の確定申告期限(原則:翌年3月15日)
評価方法の変更所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書変更しようとする年の3月15日まで(承認が必要)
届出がない場合評価方法は総平均法になる

FAQは変更について、変更前の方法を採用してから相当期間(特別の理由がない場合には3年)を経過していないときなどは申請が却下される場合がある、としています。年末に「移動平均法のほうが有利だから切り替える」という対応は制度上できません。

損出しはどこまで効くのか

FAQ「2-11 暗号資産取引で損失が生じた場合の取扱い」は、雑所得の金額の計算上生じた損失について「給与所得など他の所得から差し引く(通算する)ことはできません」と明記しています。他の所得と通算できるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の損失に限られるためです。

したがって年末の売却で損失を確定させても、効果はその年の暗号資産などの雑所得の中で相殺される範囲にとどまります。給与所得や事業所得を減らす手段にはなりません。また雑所得の損失は繰越控除の対象にもなっていません。

年内に確定させておきたいこと

確認項目年内にやること
評価方法届出済みか、総平均法か移動平均法かを確認する
売却の時期引渡しがどの年分に属するかを取引記録で押さえる
損益の集計年間取引報告書と暗号資産の計算書で概算を出す
損失の扱い他の所得とは通算できない前提で判断する

よくある質問(FAQ)

年末に保有しているだけの含み益に税金はかかりますか。

国税庁FAQは、暗号資産取引による所得の収入すべき時期を原則として売却等をした暗号資産の引渡しがあった日の属する年分としています。保有を続けている状態での評価益をその年の雑所得として計上する取扱いは示されていません。個別の判断は税務署または税理士にご確認ください。

年末に売って損失を出せば給与の税金は減りますか。

減りません。国税庁FAQは、雑所得の金額の計算上生じた損失を給与所得など他の所得から差し引くことはできないとしています。通算できるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の損失に限られます。

総平均法と移動平均法はどちらが有利ですか。

一概には言えません。国税庁FAQの設例では譲渡原価が総平均法3,106,000円、移動平均法3,080,200円と分かれます。どちらを使うかは届出で選定し、変更には前年までの3月15日までの承認申請が必要で、採用から相当期間(特別の理由がない場合には3年)を経ていないと却下される場合があります。

出典(一次情報)

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言・税務助言ではありません。個別の判断は専門家や公的機関の一次情報をご確認ください。