ギリシャ出身の画家ミルトス・マネタスがアサンジを描いたNFT|ヴェネチア2022

2022年6月、イタリアで開かれていた第59回ヴェネチア・ビエンナーレの期間中に、画家のミルトス・マネタス氏が、ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏の肖像を題材にしたNFTコレクション「This Cannot Be Erased(これは消せない)」111点を発表しました。

旧版の記事はマネタス氏を「コロンビアのアーティスト」と紹介していましたが、マネタス氏は1964年にアテネで生まれたギリシャ出身の画家で、南米コロンビアの首都ボゴタを拠点に活動しています。この記事では、作品とその背景を報道で確かめ直し、アサンジ氏をめぐる裁判がその後どう決着したのかもあわせて整理します。

何が起きたか:アサンジ氏の肖像111点をNFTに

「This Cannot Be Erased」は、マネタス氏が描いたアサンジ氏の肖像をデジタル化した111点のNFTです。暗号資産メディアBitcoinistの報道によると、作品は37点ずつ3回に分けて発行され、2022年6月23日に最初の発行が始まりました。キュレーターは、パリの現代美術館パレ・ド・トーキョーの共同創設者として知られるジェローム・サンス氏が務めています。

作品には、アサンジ氏の顔がいったん砕けた後に再びまとまり、消えることなく残り続ける様子が描かれています。それぞれのNFTには、英国の音楽プロデューサー、ハウイー・B氏による音楽が付けられました。ハウイー・B氏はマネタス氏と以前から共作してきた人物で、U2やビョークの作品にも関わっています。

発行の場になったのは、スペインと英国を拠点とするNFTプラットフォーム「MATERIA」で、このコレクションが同社の最初の案件でした。

旧版の記事からの訂正

最も大きな誤りは作家の国籍です。旧版の記事は見出しと本文でマネタス氏を「コロンビア人」としていましたが、英語版の百科事典や展示を紹介した記事では、アテネ生まれのギリシャの画家とされています。20歳でイタリアに移ってミラノのブレラ美術アカデミーで学び、現在はボゴタとローマを行き来しながら制作しています。コロンビアは活動の拠点であって国籍ではありません。

旧版には「中国はアサンジの引き渡し判決を阻止した国の一つ」という記述もありましたが、これを裏付ける情報は見当たりません。アサンジ氏の米国への引き渡しを審理していたのは英国の裁判所と内務省です。また「第59回映画祭の専用技術テントのスポンサー」という記述もありましたが、第59回はヴェネチア・ビエンナーレの美術展の回数で、映画祭とは別の催しです。スポンサーの件は確認できませんでした。

作品の内容についても、旧版にあった「握り拳を振り上げる姿」「護送車の上から描かれた姿」といった説明は、確認できた報道には出てきませんでした。この記事では、確かめられた説明だけを載せています。

背景:「インターネット・パビリオン」とアサンジ展

マネタス氏は1990年代の終わりから、パソコンやケーブル、ゲーム画面、ウェブサイトなどを題材にした絵画とインターネットアートで知られてきました。2000年には美術家のマイ・ウエダ氏とともに、新しい技術と芸術を結びつける運動「Neen」を立ち上げています。

2009年、マネタス氏はヴェネチア・ビエンナーレの会期に合わせて、インターネットをひとつの国に見立てた「インターネット・パビリオン」を初めて設けました。その後の回でもファイル共有サイトThe Pirate Bayの関係者をヴェネチアに招くなど、ネット上の自由をテーマにした活動を続けてきました。

2022年の第7回パビリオンは「AIIA(アサンジはインターネットであり、インターネットはアサンジである)」と題され、6月12日から11月27日まで、ヴェネチアのジェルヴァズーティ財団で「Assange in Prison(獄中のアサンジ)」展が開かれました。会場には手描きのアサンジ氏の肖像222点が並びました。マネタス氏は、2020年にローマの展示館、2021年にはベルギーの美術館でもアサンジ氏を題材にした展示を行っています。

NFTの売上はどこに使われたのか

報道によると、NFTを買った人は「AIIA」の受託者(トラスティ)という立場になり、売上はインターネット・パビリオンのDAO(分散型自律組織)に入る仕組みでした。保有者は、パビリオンが今後どの芸術活動に資金を出すかに意見を言えるとされ、特にネット上の自由に関わる作品を支えることが掲げられていました。

同じ2022年には、NFTを使ったもう一つの大きな支援がありました。2月、作家Pakとアサンジ氏が共同で出品したNFT「Clock」を、1万人規模の支援者が資金を出し合った「AssangeDAO」が1万6,593ETH(当時約5,300万ドル)で落札し、売上はアサンジ氏の弁護費用を支える団体に寄付されました。Bitcoinistは、マネタス氏がこのPakとアサンジ氏を結びつけた人物だと伝えています。

ただし、マネタス氏のNFTの販売総額や、DAOが実際にどのような資金配分を行ったのかについては、公表された数字を確認できませんでした。

その後どうなったか:アサンジ氏の釈放

NFTが発表される直前の2022年6月17日、英国のプリティ・パテル内務相(当時)はアサンジ氏の米国への引き渡しを承認していました。2021年1月には英国の地方裁判所が自殺の危険などを理由に引き渡しを認めない判断を示していましたが、米国側の上訴を受けて2021年12月に覆っています。アサンジ氏は米国でスパイ活動法違反など18の罪に問われ、弁護団は最長で175年の刑になりうると訴えていました。

その後、2024年5月に英高等法院がアサンジ氏に上訴を認め、同年6月に米司法省との司法取引が成立しました。アサンジ氏は英国のベルマーシュ刑務所を出て、6月26日に米自治領北マリアナ諸島のサイパンの連邦地裁で、国防情報の入手と公開を共謀した1つの罪を認めました。言い渡された刑は、英国での勾留期間と同じ62か月で、同日にオーストラリアへ帰国しています。

つまり、旧版の記事が書かれた時点で続いていた引き渡しをめぐる争いは、約2年後に司法取引という形で終わりました。一方でインターネット・パビリオンはその後も続き、2026年にはマネタス氏の主導で第10回が開かれています。

政治や社会運動をテーマにしたNFTの見方

アサンジ氏への支持を掲げたNFTは、作品の購入が特定の人物や主張への支援につながるという性格を持っていました。こうしたNFTは、ウクライナへの支援を目的としたコレクションや、検閲に抗う記録としてのNFTと同じく、2022年に目立った「目的のあるNFT」の一例です。検閲下で市民の声を残そうとした例は、上海ロックダウンとNFTの記事で紹介しています。

アサンジ氏の活動の評価は立場によって大きく分かれます。支持者は報道の自由の問題として訴追を批判してきましたが、米政府は機密情報の大規模な流出として扱ってきました。NFTの購入は、作品を手に入れることと、特定の主張を支持することが重なる行為であり、その点を理解したうえで判断する必要があります。

また、売上がDAOに入る仕組みの場合、誰が資金を管理し、どのように使い道を決めるのかは、プロジェクトごとに大きく違います。購入前に、資金の流れや運営者の情報が公開されているかを確かめることが大切です。

日本の読者が知っておきたいこと

日本からも海外のNFTプラットフォームで作品を買うことはできますが、MATERIAのような小規模なプラットフォームは、日本語での案内や国内の窓口がないことがほとんどです。MATERIAの2026年時点の運営状況は確認できませんでした。サービスが終わった場合に作品の画像や音楽をどこで見られるのかも、事前に確かめておきたい点です。

支援を目的としたNFTでも、購入は対価のある取引です。一般的な寄付とは扱いが異なり、寄付金控除の対象になる寄付とは考えにくいため、税の扱いに迷う場合は税務署や税理士に確認してください。暗号資産で支払った場合は、その暗号資産を手放した時点の損益も計算の対象になります。

寄付や支援を目的にしたNFTのほかの例は、香港の企業によるチャリティNFTの記事で、同じ時期のアート系NFTの動きは2022年のNFTアワードの記事で紹介しています。

よくある質問

Q. ミルトス・マネタス氏はどこの国のアーティストですか?

A. 1964年にアテネで生まれたギリシャ出身の画家です。イタリアで美術を学び、現在はコロンビアのボゴタとイタリアのローマを拠点に活動しています。旧版の記事の「コロンビア人」という記述は誤りでした。

Q. 「This Cannot Be Erased」はどんなNFTですか?

A. アサンジ氏の肖像を描いた111点のNFTで、37点ずつ3回に分けて発行されました。各作品にはハウイー・B氏の音楽が付き、NFTプラットフォームMATERIAで2022年6月23日から発行が始まりました。

Q. NFTの売上はアサンジ氏に渡ったのですか?

A. 報道では、売上はマネタス氏が主宰するインターネット・パビリオンのDAOに入り、ネット上の自由に関わる芸術活動の支援に使うとされていました。アサンジ氏の弁護費用に充てられたのは、2022年2月に別途行われたPakとの「Clock」のオークションです。

Q. アサンジ氏はその後どうなりましたか?

A. 2024年6月、米司法省との司法取引が成立し、サイパンの連邦地裁で1つの罪を認めました。英国での勾留期間と同じ62か月の刑を言い渡され、そのままオーストラリアへ帰国しています。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。