2022年6月29日、ブロックチェーン企業の支援を手がける米Mouse Belt Labsが、Bored Ape Yacht Club(BAYC)のNFTを企業に貸し出すためのサイト「Boredjobs」を公開しました。Cointelegraphなどによると、公開から24時間で200件を超える保有者が所有確認の申請を出したといいます。旧版の記事はこの動きを「ホルダーにとって大きなチャンス」として紹介していました。
ただ、ここでいう「レンタル」は、NFTそのものを相手のウォレットに預けることではなく、Apeの絵柄を広告などに使う権利(ライセンス)を企業に与える話でした。この記事では、Boredjobsの仕組みと当時の背景、同じ時期に整った「貸せるNFT」の技術規格との違い、その後の状況、そしてNFTの権利を扱うときに気をつけたい点を整理します。
2022年6月末に何が始まったか
Boredjobsは、1万体あるBAYCのNFTをすべてサイト上に並べ、企業やマーケターが広告キャンペーンなどに使いたいApeを探せるようにしたサービスです。気に入ったApeがあれば、企業は横にある「HIRE」ボタンを押して関心を伝えます。所有者として登録しているホルダーにその話が届き、双方が合意した場合だけ取引が進む流れでした。
ホルダー側は、サイトに登録して自分がそのApeを持っていることを確認してもらう必要があります。報道によると、公開初日だけで200件以上の申請が集まり、所有確認は1日程度で処理されていました。Mouse Beltの共同創業者Patrick McLain氏は、ブランドが有名なNFTとつながり、条件を当事者同士で交渉できる新しい方法だと説明しています。
一方で、料金や契約の中身についてBoredjobsが標準の型を用意していたわけではありません。取引条件やライセンスの範囲、期間などはすべて企業とホルダーの話し合いに任されていました。旧版の記事も触れていたとおり、当初はホルダー向けの手引きもなく、仲介の場を用意しただけの段階だったといえます。
背景:BAYCの「商用権」とは何か
このサービスが成り立った前提は、BAYCの保有者に自分のApeを商業利用できる権利が認められていたことです。発行元のYuga Labsは、保有者がApeを映画や音楽、本、商品などに使って収益を得ることを認める利用条件を示していました。多くのNFTは絵柄の使い方が個人利用に限られるため、この点はBAYCの大きな特徴とされていました。
当時は実際にApeを使った事業も話題になっていました。俳優のセス・グリーン氏は、自分のApe「Fred Simian」を主人公にしたテレビシリーズ「White Horse Tavern」を企画していました。カリフォルニア州ロングビーチでは、保有者がApeをブランドに使ったハンバーガー店「Bored & Hungry」を2022年4月に開いています。
こうした例を見て、自分でも事業を起こすほどではないが、Apeの権利をどこかに使ってほしいと考える保有者は少なくありませんでした。Boredjobsは、そうした保有者と、話題性のあるキャラクターを広告に使いたい企業をつなぐ場として企画されたものです。旧版の記事は「Bored Monkey」と表記していましたが、正しくはBored Apeです。
「貸す」の中身:ライセンスとオンチェーンのレンタルは別物
Boredjobsで企業が借りるのは、Apeの絵柄を使う権利です。NFT自体はホルダーのウォレットに置いたままで、ブロックチェーン上の所有者は変わりません。契約は当事者同士で結ぶもので、いわば従来のキャラクターライセンスをNFTの保有者が個人で結ぶ形でした。
これとは別に、NFTそのものを期間限定で使わせる技術的な仕組みもあります。2022年6月28日には、NFTに「利用者」と「利用期限」を設定できる規格ERC-4907がEthereumの正式な規格(Final)になりました。所有者はそのままに、ゲームのアイテムなどを一定期間だけ他人が使える状態にし、期限が来れば自動で権利が切れる仕組みです。
ただし、BAYCは一般的なERC-721で発行されており、この規格には対応していません。したがって、BoredjobsのレンタルはERC-4907のような自動の仕組みではなく、人と人の契約に頼るものでした。「NFTのレンタル」という言葉は、権利のライセンスなのか、トークンの利用権なのかで中身が大きく違う点を押さえておきましょう。
盗難が示した「権利はトークンについて回る」という問題
BAYCの商用権は、NFTを持っている人に与えられるという作りでした。この仕組みの弱点が表面化したのが、先に触れたセス・グリーン氏の事例です。2022年5月、同氏はフィッシング詐欺でApeを含む4点のNFTを盗まれ、主人公に据える予定だった「Fred Simian」も第三者に転売されました。
報道によると、同氏は6月に転売先の人物を探し当て、165ETH(当時で約26万〜30万ドル)を支払ってApeを取り戻しています。持ち主が変わると、番組でそのキャラクターを使う権利に疑問が生じかねないという懸念が、当時広く取り上げられました。NFTを持っていることが権利の根拠になる以上、盗まれれば事業の前提も揺らぐわけです。
ライセンスを借りる企業の立場で考えると、契約期間中に相手のNFTが売却や盗難で別人に移る可能性は無視できません。Boredjobsのような仲介で契約するなら、所有者が変わったときに契約をどう扱うかを事前に決めておくことが重要です。この点は旧版の記事では触れられていませんでした。
その後どうなったか
Boredjobsはその後、BAYCに加えてGutter Cat Gangの保有者向けに、空港ラウンジを運営する企業との提携を発表するなど、特典の提供にも手を広げました。ただ、Boredjobsを通じてどれだけの契約が成立し、ホルダーがどの程度の収入を得たのかを示す公表データは確認できませんでした。旧版の記事にあった「収入を得ているホルダーが数え切れないほど誕生している」という記述も、裏付けは見つかっていません。
2026年9月に公式サイトにアクセスしたところ、エラーが表示されてページを開けない状態でした。現在もサービスが続いているかどうかは確認できませんでした。ロングビーチのBored & Hungryは2024年4月に元の店舗を閉じ、ブランドは別の運営会社に引き継がれています。
BAYC自体をめぐっては、2022年10月に米証券取引委員会(SEC)がYuga Labsへの調査を始めたと報じられましたが、2025年3月に処分なしで調査を終えています。当時の調査の報道はSECによるYuga Labs調査の記事で、BAYCの近年の動きはマイアミのクラブハウス計画の記事で紹介しています。
NFTの権利を貸す・借りるときの確認ポイント
NFTの商用利用を考えるときは、まずそのコレクションの利用条件を発行元の公式ページで確かめることが出発点です。商用利用が認められているか、売上の上限があるか、第三者に権利を再許諾(サブライセンス)できるかは、コレクションごとに違います。保有者が企業に使わせてよいかどうかも、この条件次第です。
次に、契約書で決めておきたい項目があります。使用できる媒体と期間、地域、料金と支払い方法、改変してよい範囲、NFTを売却・紛失したときの扱い、トラブル時の窓口などです。口頭やチャットだけで合意すると、後から「そこまで使ってよいとは言っていない」という争いになりかねません。
もう一つは、相手が本当にそのNFTの持ち主かの確認です。人気のNFTほど、他人の画像を使って持ち主になりすます例があります。ウォレットの署名で所有を確かめる、公式の所有確認の仕組みを使うなど、画像だけで判断しないことが大切です。
日本の読者が知っておきたい著作権と税金
日本の著作権法の考え方では、NFTを買っても、絵柄の著作権そのものが自動的に移るわけではありません。買い手が使える範囲は、発行元が示す利用条件(ライセンス)で決まります。BAYCのように商用利用を広く認める例はむしろ少数で、国内のNFTでは個人での鑑賞やSNSのアイコン利用までに限る条件もよく見られます。
海外の企業やホルダーと直接契約する場合は、どの国の法律で契約を解釈するのか、紛争になったらどこで話し合うのかも決めておく必要があります。英語の契約書をそのまま使う場合でも、権利の範囲と期間は日本語で整理し直して理解しておくと安心です。
税金の面では、個人がNFTのライセンス料を受け取った場合、その収入は雑所得や事業所得として申告の対象になることがあります。支払いがETHなどの暗号資産だったときは、入金された日の相場で円に直した金額を控えておきましょう。扱いに迷うときは、税務署や税理士に相談してください。
よくある質問
Q. Boredjobsで「レンタル」すると、NFTは相手に渡るのですか?
A. 渡りません。企業が得るのはApeの絵柄を広告などに使う権利(ライセンス)で、NFTはホルダーのウォレットに残ったままです。条件は当事者同士の交渉で決める仕組みでした。
Q. Boredjobsは今も使えますか?
A. 2026年9月に公式サイトを確認したところ、エラーでページを開けない状態でした。サービスが続いているかどうかは確認できませんでした。
Q. ERC-4907とは何ですか?
A. NFTに利用者と利用期限を設定できるEthereumの規格で、2022年6月に正式な規格になりました。期限が来ると利用権が自動で切れます。BAYCはこの規格では発行されていません。
Q. 日本でNFTを買えば、その絵を商品に使ってよいのですか?
A. NFTを買っただけでは著作権は移りません。商用利用できるかどうかは、発行元が定める利用条件で決まります。購入前に公式の条件を確認してください。
この記事の出典
- Hundreds of Bored Ape owners sign up to hire out their NFTs to brands(Cointelegraph)
- BAYC owners can now rent their NFTs on the new 'Boredjobs' marketplace(NFT News Today, 2022年7月9日)
- ERC-4907: Rental NFT, an Extension of EIP-721(Ethereum Improvement Proposals)
- Seth Green Reunited With Stolen Bored Ape NFT… But It Cost Him 165 ETH(CoinMarketCap Academy)
- The Bored Ape Restaurant in LA Closed—But That's Not the Whole Story(Decrypt)
- SEC concludes Yuga Labs, Bored Ape Yacht Club investigation with no charges(CryptoSlate)
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




