上海ロックダウンと「四月之声」NFT|検閲への対抗策としての限界

2022年春、上海では新型コロナウイルスの感染拡大を受けて約2か月にわたる厳しいロックダウンが続きました。食料の不足や隔離への不満を伝える投稿が中国のSNSで次々に削除される中、一部の市民や海外の支援者は、動画や画像をNFTにしてブロックチェーン上に記録するという手段を取りました。

旧版の記事はこの動きを「NFTがまさかこのような状況で注目されるとは」と紹介していました。この記事では、実際に何が起きたのかを報道で確かめ直し、NFTにすれば本当に消されないのか、そして中国ではその後NFTがどう扱われているのかを整理します。

何が起きたか:「四月之声」とNFT化

上海市は2022年3月下旬から地区ごとに封鎖を始め、4月初めには約2,500万人の市民が外出を厳しく制限される状態になりました。封鎖が解かれたのは6月1日です。

4月22日、封鎖中の市民の声や行政とのやり取りの録音をつないだ約6分の動画「四月之声(Voices of April)」が中国のSNSで広まりました。動画は検閲で次々と削除されましたが、利用者は形式を変えて再投稿を繰り返し、削除と拡散の攻防が一晩中続いたと報じられています。

翌23日には、ある利用者がTwitter(現X)で、この動画をNFTとして発行し、メタデータを凍結したと投稿しました。ロイター通信の5月初めの報道によると、NFTマーケットプレイスのOpenSeaには動画に関連する出品が786件あり、ほかにも封鎖中の投稿のスクリーンショットや隔離施設の写真、封鎖生活を風刺したイラストなど、上海のロックダウンに関するNFTが数百件出品されていました。

なぜNFTが選ばれたのか

理由は、ブロックチェーンに記録された取引は、特定の会社や政府の判断で書き換えたり消したりすることが極めて難しいという性質にあります。中国のSNSでは運営会社が投稿を削除できますが、イーサリアムのような公開ブロックチェーンには、世界中の参加者が同じ記録を持ち合う仕組みがあるため、ひとつの国の中から記録そのものを消すことはできません。

こうした使い方は上海が初めてではありません。2018年には、北京大学の学生が公開した書簡が中国国内で削除された際、その全文をイーサリアムの取引データに書き込んで残す動きが見られました。検閲をかいくぐって情報を残す手段としてブロックチェーンが使われた、早い時期の例です。

上海の件では、作品を売って利益を得ることよりも、記録として残し、海外の人に見てもらうことが主な目的だった出品者が多かったと伝えられています。

ここで出てくる「メタデータの凍結」とは、NFTに結びつく作品名や画像の保存先などの情報を、発行後に書き換えられない状態にする操作です。凍結前であれば、発行者やマーケットプレイスの仕組みによって中身を差し替えることができます。凍結したと宣言することで、「あとから別の内容にすり替えられることはない」と見る人に示したわけです。

一方で、上海のロックダウンを風刺したイラストを販売した上海在住のデザイナーは、9点を平均0.1ETH(当時約290ドル)で売ったとロイターに語っています。記録としての目的と、作品として売る目的が混在していたのも、この出来事の特徴です。

NFTにすれば本当に消されないのか

ここは誤解されやすい点です。旧版の記事は「オンチェーンにのってしまえば削除はできなくなる」と書いていましたが、実際に消えにくいのはトークンの発行と移転の記録です。動画や画像そのものは、多くの場合ブロックチェーンの外に保存されています。

要素 どこにあるか 消される可能性
トークンの記録 ブロックチェーン上 極めて低い
作品名や説明などのメタデータ 外部サーバーやIPFS(凍結すれば書き換え不可) 保存先による
動画・画像のファイル 外部サーバーやIPFSが一般的 保存先が消えれば見られなくなる
マーケットプレイスでの表示 運営会社のサイト 運営の判断で非表示にできる

IPFSのような分散型の保存先でも、誰かがデータを保持し続けなければ取り出せなくなることがあります。また中国本土からは、OpenSeaのような海外のサービスに通常の方法では接続しにくい状態です。つまりNFT化は「記録を国外に残す」ことには役立っても、「国内の人に届ける」ことを保証するものではありませんでした。

中国のNFT規制:その後どうなったか

中国では2021年9月、中国人民銀行など10の政府機関が、暗号資産に関わる業務を違法な金融活動とする通知を出しました。上海の封鎖が続いていた2022年4月13日には、中国互聯網金融協会、中国銀行業協会、中国証券業協会の3団体が、NFTの金融商品化や投機を抑えるよう会員に求める共同の呼びかけを発表しています。

中国の大手IT企業は、暗号資産を使わず転売もできない「デジタルコレクション(数字藏品)」という形でNFTに近いサービスを提供してきましたが、規制の強まりを受けて縮小が続きました。テンセントは2022年夏に自社の販売プラットフォーム「幻核」での新規販売を止め、サービスを閉じました。保有者は引き続き作品を持ち続けるか、返金を求めることができたと報じられています。

上海のロックダウン関連のNFTが現在どれだけ残り、閲覧できる状態にあるかについて、まとまった調査や公式な情報は確認できませんでした。中国はその後、2022年12月7日に防疫措置の大幅な緩和を発表し、いわゆる「ゼロコロナ」政策は事実上終わりました。緩和の直前には各地で抗議行動が起きており、ロックダウンへの不満がNFTという形でも記録されていたことは、当時の世論を振り返るうえでひとつの手がかりになっています。

読者が知っておくべきこと:記録としてのNFTの使い方

この出来事は、NFTが売買の対象だけでなく「改ざんされにくい記録」として使われ得ることを示しました。一方で、次のような点には注意が必要です。

  • 元の制作者の権利:他人が撮った動画や写真を本人に無断でNFTにすると、著作権や肖像権の問題が生じることがあります。記録を残す目的でも、この点は変わりません。
  • 身元の特定:ウォレットの取引履歴は誰でも見られます。取引所の口座などと結びつくと、発行者が特定される可能性があります。
  • データの保存:本当に残したいなら、メタデータの凍結に加えて、ファイルを複数の場所で保持する必要があります。
  • 便乗した出品:話題に乗じて、関係のない作品や、同じ動画の複製が大量に出品されることがあります。購入する場合は出品者と内容を確かめてください。

NFTの売買を始める前の基本はOpenSeaでNFTを販売する方法、ウォレットの守り方は仮想通貨ウォレットの安全対策にまとめています。

日本の読者にとっての意味

日本では暗号資産やNFTの売買は禁止されておらず、暗号資産交換業者の登録制度のもとで取引できます。表現の自由が憲法で保障されている日本では、投稿の削除を逃れるためにNFTを使う場面は多くありません。むしろ、写真や記事の発行日時と内容を後から証明できる「改ざん検知の記録」として、ブロックチェーンを使う発想のほうが身近でしょう。

ただ、上海の例が示すように、ブロックチェーンの強みは「消えにくい台帳」にあり、表示や保存の部分は従来のインターネットの仕組みに頼っています。重要な記録を残す手段としてNFTを検討する場合は、何がブロックチェーンに載り、何が載らないのかを理解したうえで、ほかの保存手段と組み合わせることが現実的です。

よくある質問

Q. 「四月之声(Voices of April)」とは何ですか?

A. 2022年4月22日に中国のSNSで広まった約6分の動画で、上海のロックダウン中の市民の声などをつないだものです。検閲で削除が続き、その後NFTとしても記録されました。

Q. NFTにした動画は絶対に消されませんか?

A. 消えにくいのはブロックチェーン上のトークンの記録です。動画ファイル自体は外部サーバーやIPFSに置かれることが多く、保存先がなくなったりマーケットプレイスが非表示にしたりすると見られなくなる場合があります。

Q. 中国ではNFTを売買できますか?

A. 中国本土では暗号資産の取引が違法な金融活動とされ、2022年4月には業界3団体がNFTの金融商品化を抑える呼びかけを出しました。暗号資産を使わず転売もできないデジタルコレクションに限られているのが実情です。

Q. 上海のロックダウンはいつ終わりましたか?

A. 2022年6月1日に封鎖が解除されました。3月下旬から段階的に始まり、約2か月続きました。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。