TREASURYは2023年3月8日、みずほ不動産販売の仲介により、インターネットを活用した非対面の不動産売買取引を実施したと発表しました。自社の電子契約サービス「Great Sign」と本人確認サービス「Great eKYC」に、遠隔面談や公的個人認証を組み合わせた事例です。
この発表で重要なのは、契約書を電子化しただけではなく、取引相手が誰か、本人が契約を望んでいるか、何に合意したかを別々に確認した点です。電子契約の利用から、不動産の説明や登記まで自動的に完了するわけではありません。当時の取引と、2026年9月27日に確認した制度・サービスの公開情報を整理します。
2023年に発表された非対面売買は、どのような事例か
発表主体は、電子契約や本人確認のサービスを開発・提供するTREASURYです。みずほ不動産販売は仲介会社として記載されており、みずほ銀行が契約サービスを開発したというニュースではありません。元記事は3月20日付ですが、企業発表の日付は3月8日です。実際の売買契約日、物件の所在地、売買価格などは、公表文からは確認できません。
TREASURYは、電子署名法や犯罪収益移転防止法に対応する仕組みを構築したと説明しました。また、遠方から手続きできることや、書類の保管・郵送に伴う負担を減らせることを利点として挙げています。これらは同社が取引事例について示した説明であり、全ての不動産会社や金融機関が同じ方式を採用したという意味ではありません。
発表には先進的な実績という自己評価もありますが、全国で初めての取引だったと検証できる資料は示されていません。ニュースとしては、複数の確認手段を組み合わせて非対面売買を実施したという、具体的な運用事例として捉えるのが適切です。
本人確認・意思確認・契約締結を分けた仕組み
当時の説明は、合意形成を支える作業を三つに分けています。第一がeKYCによる本人確認です。eKYCはオンラインで本人を確認する仕組みの総称で、発表では顔写真付き本人確認書類の画像やICチップの情報、本人の容貌などを利用すると説明しています。書類の種類と確認方式によって必要な情報は異なり、画像を一枚送ればどの取引でも要件を満たすという話ではありません。
第二が、遠隔面談やメールを使った意思確認です。本人であることが確認できても、その人が対象物件や条件を理解し、売買に同意しているかは別の確認事項です。発表は音声・映像による遠隔のやり取りを組み合わせており、本人確認が済んだという結果だけで合意を扱っていません。
第三が電子契約による契約締結です。Great Signを利用し、電子署名やタイムスタンプを付した電子ファイルを合意の証拠として扱う構成が紹介されました。署名された契約データは、遠隔面談や本人確認の記録と役割が異なります。本人確認サービスと電子契約サービスを併用する理由も、この確認対象の違いにあります。
書面の電子交付には相手方の承諾が必要
制度上の背景は、2022年5月18日施行の宅地建物取引業法に関する改正です。国土交通省は、重要事項説明書などの電子交付を可能にする制度について案内しています。「不動産取引のオンライン化が全面解禁」という表現だけでは、どの書類や工程が変わったのかが分かりません。紙での交付に代わる手段が整備されたことと、取引全体の手続きを省略できることは区別が必要です。
国交省の現行案内では、書面の電子化を受ける相手方などの意向を確認し、承諾を得る必要があると明記しています。電子契約サービスを業者が導入しているだけで、買主などに電子交付を一方的に強制できる制度ではありません。2024年12月には、実施マニュアルの改訂版や承諾取得例も公開されました。
例えば、メールを受信できることと、添付された重要事項説明書を保存し、内容を確認できることは別です。書類を渡す方法、受け取る環境、説明を受ける方法を事前にそろえる必要があります。2023年の一つの成功事例を参考にする場合も、相手方の利用環境や意向を含めた手順まで見ることが欠かせません。
IT重説は、契約への同意や本人確認とは別の手続き
IT重説は、テレビ会議などを用いて宅地建物取引士が行う重要事項説明です。売買条件への意思確認の面談とも、契約ファイルへの電子署名とも目的が異なります。TREASURYの発表にある遠隔面談という言葉だけから、当該取引のIT重説の実施方法や記録の詳細まで確定することはできません。
国交省の2024年12月版マニュアルでは、相手方の手元に重要事項説明書と添付書類があり、それらを確認しながら説明を受けられる状態を求めています。宅建士と相手方の双方で映像・音声が確認でき、宅建士証の内容を相手方が視認できることも必要です。単にPDFを送信して読んでもらうだけの手続きではありません。
説明の途中で映像や音声に支障が生じた場合は中断し、問題を解消してから再開する扱いです。このように、非対面でも説明の質を保つための条件があります。オンライン化による便利さは、確認や説明をなくすことではなく、それらを離れた場所でも実施できるようにすることにあります。
公的個人認証の利用と、不動産登記を混同しない
2023年の発表は、司法書士がマイナンバーカードの署名用電子証明書などを用いて、最終的な本人確認を電磁的記録で実施したと説明しています。原文に出てくるJ-LISは、地方公共団体情報システム機構という組織名です。公的個人認証サービスは、電子証明書を用いる本人確認の仕組みであり、J-LISそのものを民間の契約アプリと並ぶ一製品のように数えると役割を誤解します。
J-LISは、電子文書の作成・送信者を確かめる署名用電子証明書と、ログインした人を確かめる利用者証明用電子証明書の二種類を説明しています。今回の発表で言及されたのは前者です。電子証明書を用いた本人確認から、そのまま所有権移転の登記完了まで推定することはできません。
法務省は、不動産登記のオンライン申請に必要な申請情報、添付情報、電子署名などを別途案内しています。書面で作成された添付書類を登記所へ提出する特例方式もあります。電子契約を結んだかどうかと、登記をどの方式で申請するかは別の問題です。当該取引の登記申請・添付書類の全工程は公表資料では確認できず、全てが紙なしで終わったとは断定できません。
現在のサービス案内と、認証が対象にする範囲
2026年9月27日の確認時点で、TREASURYの公式サイトはGreat SignとGreat eKYCを引き続き案内しています。Great Signのサイトでは契約業務のクラウド管理、Great eKYCでは画像やICチップ、公的個人認証などを用いる本人確認の方式が紹介されています。ただし、サイトが公開されていることから、2023年の売買の仕組みが現在どの案件にも適用されるとは判断できません。
旧記事が紹介したJIIMA認証にも対象範囲があります。電子取引ソフト法的要件認証は、電子帳簿保存法に関するソフトの要件を確認する制度であり、個別の売買の安全性やサービス全体を国が保証するものではありません。JIIMAの2026年9月18日現在の一覧にはGreat Signが認証番号607600-00で掲載され、有効期限欄に更新審査申請を示す星印があります。同一覧は、この表示の製品は記載期限後も認証ソフトとして有効と説明しています。
なお、当時の発表にある商業登記向け電子署名の利用に関する説明も、不動産登記の全手続きへの適合を意味しません。非対面売買を利用する際の判断材料は、製品名や認証マークだけではなく、仲介会社、金融機関、司法書士が各工程をどの方式で扱うかです。今回の事例は、その役割分担を読み解くことで実務上の意味が見えてきます。
よくある質問
Q. Great Signで署名すれば不動産取引は全て完了しますか。
A. 電子契約の締結は一つの工程です。本人確認、重要事項説明、決済、登記などは、それぞれ必要な手続きや対応を確認します。
Q. 紙の重要事項説明書を希望する相手にも電子交付できますか。
A. 国交省は、書面の電子化には相手方などの意向確認と承諾が必要と説明しています。業者側がサービスを導入しただけでは、電子交付の条件を満たしません。
Q. Great SignのJIIMA認証は現在も有効ですか。
A. 2026年9月18日現在のJIIMA一覧には、更新審査申請を示す星印付きで掲載されています。一覧の説明ではこの印がある製品は記載期限後も有効です。認証の対象は電子取引ソフトの法的要件で、売買全体の安全保証ではありません。
この記事の出典
- TREASURY:みずほ不動産販売仲介による非対面不動産売買(2023年3月8日)
- 国土交通省:ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化
- 国土交通省:重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びIT重説実施マニュアル(2024年12月)
- 法務省:不動産登記の電子申請(オンライン申請)
- J-LIS:公的個人認証サービス
- Great Sign公式サイト
- Great eKYC公式サイト
- JIIMA:電子取引ソフト法的要件認証製品一覧
- JIIMA:電子取引ソフト法的要件認証ガイドライン
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