2022年8月8日、シンガポールの暗号資産レンディング(貸し出し)サービスHodlnautは、「困難な市場環境」を理由に、入金・出金・トークン交換を一時停止すると発表しました。旧版の記事は、同社が再開を目指していると伝え、早期の再開を願う言葉で結んでいましたが、サービスが再開されることはありませんでした。
それから4年。Hodlnautは清算手続きに入り、2026年には債権者への配当が始まる一方、元CEOが詐欺の罪で起訴されました。この記事では、出金停止から現在までの経緯を公式資料と報道で整理し、同じようなサービスを使うときに確かめたい点をまとめます。
Hodlnautとはどんなサービスだったか
Hodlnautは2019年にシンガポールで設立された会社で、利用者が預けた暗号資産を運用し、その見返りに利息を払うサービスを提供していました。シンガポール警察の発表によると、事業が止まる前の利用者は世界で3万人を超えていたとされます。
2022年3月には、シンガポール金融管理局(MAS)から、決済サービスの大手事業者向けライセンスについて原則承認を得ていました。ところが出金停止と同じ8月8日、同社はこのライセンスの申請を取り下げています。
出金停止の背景:Terra崩壊と「影響なし」の説明
2022年5月、アルゴリズム型ステーブルコインのTerraUSD(UST)が価格を保てなくなり、関連するLUNAとともに暴落しました。のちに裁判所が選任した管理人は、HodlnautがTerraの崩壊で約1億8,970万ドルの損失を出したと見積もっています。
ところが当時、Hodlnautは利用者に対し、USTへの直接の影響はないと説明していました。2026年5月の警察発表によると、2022年5月から7月にかけて、同社のTelegramのチャンネルや利用者へのメールで、USTへの直接のエクスポージャーはない、損失は出ていないという趣旨の情報が流され、6月にはX(旧Twitter)にも同様の投稿がありました。この説明が事実と違っていたかどうかが、後の刑事手続きの焦点になっています。
同じ時期、暗号資産業界では破綻が連鎖していました。米国のレンディング大手Celsius Networkは2022年7月に米連邦破産法第11条の適用を申請し、シンガポールを拠点とするヘッジファンドThree Arrows Capitalも清算手続きに入りました。旧版の記事が挙げていた各社の人員削減もこの流れの中にあり、OpenSeaは7月に従業員の約20%を削減しています。
清算までの経緯
旧版の記事は、同社がシンガポールの法律事務所と組んで復旧の計画を練っていると伝えていました。しかし実際には、停止から1か月足らずで裁判所の管理下に入り、自力での立て直しはかないませんでした。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年8月8日 | 入金・出金・トークン交換を停止。MASへのライセンス申請を取り下げ |
| 2022年8月29日 | シンガポール高等法院が暫定的な司法管理(裁判所選任の管理人による経営)を命じる |
| 2022年11月 | シンガポール警察が詐欺の疑いで捜査していると明らかに |
| 2023年1月 | 債権者が再建計画を否決 |
| 2023年4月 | 債権者が清算を支持 |
| 2023年11月10日 | 司法管理を終え、清算手続きへ移行。管理人がそのまま清算人に |
Cointelegraphによると、2023年には暗号資産取引所OPNXが、同社のトークンで支払う形でHodlnautの株式の75%を取得する案を示しましたが、そのトークンの価値が大きく下がったことなどから、管理人はこれを退けました。
清算の過程では、利用者に返すべき暗号資産が法律上の「債務」にあたるかも争われました。シンガポール高等法院は、会社が負う暗号資産の返還義務も倒産法上の債務にあたると判断しています。
Cointelegraphによると、債権者となった利用者は約1万7,000人にのぼります。
2026年の状況:配当の開始と元CEOの起訴
清算人を務めるEYの公表資料によると、2026年8月4日付の通知で、優先債権者には認められた債権の100%、一般の無担保債権者には認められた債権の26.92%を、最初の中間配当として支払うことが宣言されました。個別の配当通知は8月4日から6日にかけて電子メールで送られています。出金停止から約4年を経て、ようやく一部が戻り始めた形です。中間配当のため、今後さらに配当があるかどうかは、残りの資産の回収しだいです。
刑事手続きも動いています。シンガポール警察によると、元CEOのZhu Juntao氏(36)は2026年5月26日、虚偽の表示による詐欺の罪など6件で起訴されました。有罪となれば1件あたり最長20年の拘禁刑や罰金が科される可能性があります。CoinDeskによると、同氏は起訴内容をすべて争っており、今後の公判で判断されることになります。
清算手続きで債権者がたどった流れ
EYが公開している清算の資料を並べると、債権者が配当を受け取るまでの流れが見えてきます。
- 債権の届け出:債権者は、自分がいくら預けていたかを証明する書類(Proof of Debt)を清算人に提出します。
- 審査結果の通知:清算人は届け出を審査し、2025年10月に審査結果の通知を出しました。同年11月6日には最初の債権者集会が開かれています。
- 配当のための締め切り:最初の中間配当に参加するための届け出の締め切りは、2026年6月29日(シンガポール時間)でした。届け出の量が多く、審査結果は電子メールで順番に送られました。
- 受け取りの準備:2026年7月には、振込先の口座情報の収集や、マネーロンダリング対策のための本人確認の手続きが進められました。
海外の清算手続きでは、案内は英語で、本人確認の書類も求められます。清算人を名乗る偽のメールで個人情報や手数料を求める詐欺も考えられるため、連絡は清算人の公式ページに載っている窓口だけを使うことが大切です。
日本のレンディングサービスとの違い
日本でも、登録を受けた暗号資産交換業者が、利用者から暗号資産を借りて利用料を払う「貸暗号資産」のサービスを提供しています。ただ、これまでは貸し出しそのものが交換業の規制の中心から外れており、貸した暗号資産は分別管理の対象にならないのが一般的でした。取引所が破綻した場合、貸している分は一般の債権として扱われる可能性があります。
2026年7月に成立した改正金融商品取引法では、利用者から暗号資産を借りる業務が暗号資産取引業の対象に加わりました。金融庁の説明資料によれば、施行は公布から1年以内とされています。規制の詳細はレンディング規制の強化の解説を、取引所が破綻したときの資産の扱いは取引所の破綻と資産保護の記事を参照してください。
利息付きで預けるサービスを使う前に
- どの国の、どんな登録を受けた事業者か:海外の事業者が破綻すると、手続きはその国の法律と言語で進み、日本の利用者が債権を届け出るだけでも手間がかかります。
- 預けた資産がどう運用されるか:高い利息の裏には、それを生み出す運用があります。運用先や、損失が出たときの扱いが開示されているかを確かめます。
- 「影響はない」という説明をうのみにしない:市場が混乱したときの事業者の発表は、あとで事実と違っていたと分かることもあります。
- 一か所に集めない:出金が止まれば、戻ってくるまで何年もかかることがあります。Hodlnautでは最初の配当まで約4年かかりました。
- 税金:日本では、貸し出しで受け取った利用料も所得として扱われます。考え方はレンディングの利用料の課税で解説しています。
よくある質問
Q. Hodlnautはなぜ出金を停止したのですか?
A. 会社は「困難な市場環境」を理由に挙げました。のちの管理人の見積もりでは、2022年5月のTerra(UST)崩壊で約1億8,970万ドルの損失を出していたとされます。
Q. Hodlnautの利用者にお金は戻っていますか?
A. 清算人のEYは2026年8月、一般の無担保債権者に認められた債権の26.92%を最初の中間配当として支払うと通知しました。今後の配当は残りの資産の回収しだいです。
Q. 元CEOはどうなりましたか?
A. 2026年5月26日、シンガポールで虚偽の表示による詐欺の罪など6件で起訴されました。本人は起訴内容を争っており、今後の裁判で判断されます。
Q. 日本の暗号資産レンディングは安全ですか?
A. 一概には言えません。これまで貸した暗号資産は分別管理の対象外とされることが一般的でした。2026年7月成立の改正法で規制対象に加わりますが、施行と細かいルールの決定はこれからです。
この記事の出典
- EY Singapore:Hodlnaut Pte. Ltd. (In Liquidation)
- EY:Hodlnaut 63rd Circular(Notice of First and Final Dividend / First Interim Dividend)
- Singapore Police Force:Former Chief Executive Officer Of Hodlnaut Charged For Fraud By False Representation
- CoinDesk:Singapore charges former Hodlnaut CEO Zhu Juntao over Terra collapse claims
- Cointelegraph:Hodlnaut heading for liquidation after failure of restructuring, sale efforts
- Yuen Law:Cryptocurrency Debt Used to Wind Up Hodlnaut In Singapore High Court Judgment
- 金融庁:金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




