VisaのNFT戦略はどうなったか|CryptoPunk購入からステーブルコイン決済へ

クレジットカード大手のVisaは、2021年から2022年にかけて、NFTや暗号資産に関わる取り組みを相次いで打ち出しました。NFTの購入、クリエイター向けの支援プログラム、暗号資産取引所FTXと組んだデビットカードの展開などです。旧版の記事は2022年11月、これらを「大手企業の参入が加速」とまとめ、市場の認知が広まることへの期待を書いていました。

ところが、記事の公開から10日もたたないうちにFTXは経営破綻し、カードの提携は打ち切られます。この記事では、旧版の記述を事実に照らして直しながら、Visaが当時何をしていたのか、そして2026年の現在、Visaの暗号資産への関わり方がどう変わったのかを整理します。

2021〜2022年のVisaの動きを年表で見る

時期 出来事
2021年8月 NFT「CryptoPunk #7610」を49.5ETHで購入
2022年3月 NFTを活用する作り手を支援する「Visa Creator Program」を発表
2022年10月 FTXが40か国以上でのVisaデビットカード展開を発表
2022年10月13日 クリエイターへの支払いを速くする「クリエイター・コマース」の取り組みを発表
2022年11月 FTXが破綻し、VisaはFTXとの世界的な契約を解消

旧版の記事は、クリエイター支援プログラムについて「2022年の秋に始動する予定」と書いていました。実際には、プログラムは2022年3月に発表され、参加者の募集は同年5月11日に締め切られています。記事が参照していた2022年10月のVisaの発信は、このプログラムとは別の、クリエイターへの支払いに関する取り組みでした。

CryptoPunk #7610の購入

Visaは2021年8月18日、ドット絵の人物画像1万点からなるNFTコレクション「CryptoPunks」の1点、#7610を49.5ETHで購入しました。当時の価格で約15万ドルです。モヒカン風の髪型に大きな緑の目、赤い口紅という女性のキャラクターで、購入の手続きには米国の暗号資産銀行Anchorageが関わりました。

Visaは購入の目的について、NFTがコマース(商取引)に与える影響を理解し、顧客や加盟店の手助けに生かすためだと説明していました。大手の決済企業がNFTを自社のコレクションに加えたことは大きな話題となり、発表の直後にはCryptoPunksの取引が一時的に急増したと報じられています。旧版の「約15万ドルで購入」という記述はおおむね正確ですが、支払いは米ドルではなくイーサリアム(ETH)で行われました。

その後、CryptoPunks自体の持ち主も変わっています。制作会社Larva Labsは2022年3月に権利をBAYCの運営会社Yuga Labsへ売却し、2025年5月にはデジタルアートの保存を目的とする非営利団体がYuga Labsから知的財産権を引き継ぎました。コレクションの管理者が替わっても、個々のNFTの保有者の記録はブロックチェーン上にそのまま残ります。なお、Visaが現在も#7610を保有し続けているかどうかについて、Visaの公式な説明は見つかりませんでした。

Visa Creator Programは何をしたのか

Visa Creator Programは、デジタルを主な活動の場とするアーティスト、音楽家、ファッションデザイナー、映像作家などを対象にした1年間のプログラムです。NFTを使って事業を伸ばしたい作り手を世界から集め、技術や商品づくりの助言、Visaの取引先とのつながり、一時金などを提供すると発表されました。

最初の参加者として紹介されたのは、元プロ野球選手でアーティストに転じたマイカ・ジョンソン氏です。同氏は、宇宙飛行士を夢見る少年のキャラクター「Aku」を軸にしたNFTの取り組みで知られていました。

一方、2022年10月13日にVisaが発表したのは、クリエイターへの報酬の支払いを速くする取り組みです。調査で「支払いの待ち時間が活動の勢いをそぐ」と答えた作り手が多かったことを踏まえ、Visaの即時送金の仕組みや投げ銭機能を、Linktreeなどの提携先を通じて広げるとしていました。こちらはNFTではなく、通常の決済の話です。

FTXとのカード提携は1か月で終わった

2022年10月、FTXはVisaと組んで、ラテンアメリカを皮切りに欧州やアジアなど40か国以上でデビットカードを出すと発表しました。保有する暗号資産を使って、Visaが使える店で支払いができるという触れ込みでした。旧版の記事はこれを期待材料として紹介していました。

しかしFTXは2022年11月に資金繰りが行き詰まり、11日に米国で破産手続きを申し立てます。Visaの広報担当者は11月14日、FTXとの世界的な契約を解消し、米国のデビットカードも発行会社が終了に向けて手続きを進めていると説明しました。発表からわずか1か月あまりで、提携は幕を閉じたことになります。

この経緯は、大手企業の名前が出ていても、実際にサービスを運営する相手の財務が健全とは限らないことを示しています。FTXの破綻の全体像はFTX事件の解説記事にまとめています。

2026年の現在地:NFTからステーブルコインへ

その後のVisaの暗号資産への関わりは、NFTの収集や販売よりも、決済の裏側で使うステーブルコイン(法定通貨に価値を連動させたトークン)に重心が移っています。2022年以降にVisaが新たにNFTを購入したという発表は、今回の調べでは確認できませんでした。

Visaは2025年12月16日、米ドル連動のステーブルコインUSDCによる精算を米国で始めたと発表しました。最初の参加銀行はCross River BankとLead Bankで、Solanaのブロックチェーン上でVisaとの精算をUSDCで行います。Visaによると、同年11月30日時点でステーブルコインによる精算の規模は年換算で35億ドルを超えていました。あわせて、USDCの発行元Circleが開発する新しいブロックチェーン「Arc」の設計パートナーになることも明らかにしています。

利用者の目には見えにくい変化ですが、カード会社と銀行の間のお金の受け渡しにブロックチェーンが使われ始めたという意味で、2022年のNFTの話題より実務に近い動きと言えます。詳しくはVisaのステーブルコイン決済の記事やCircle Arcの解説も参考になります。

日本の読者が押さえておきたいこと

海外で発行される暗号資産のデビットカードには、日本の居住者が申し込めないものも少なくありません。日本でステーブルコインを扱う事業者は、資金決済法の「電子決済手段」の枠組みで登録などが求められます。海外で話題のサービスが日本でもそのまま使えるとは限らない点に注意してください。制度の概要はステーブルコインの基礎解説で扱っています。

また、大企業の「参入」のニュースを読むときは、次の点を分けて考えると誤解が減ります。

  • 企業が自分で資産を買ったのか、他社と提携しただけなのか
  • 実際に提供が始まったのか、計画や試験の段階なのか
  • 提携相手の事業や財務は健全か

Visaの事例では、NFTの購入とクリエイター支援は実行されましたが、FTXのカードは相手先の破綻で終わりました。どれも「Visaの参入」とまとめられがちですが、中身と結末はそれぞれ違います。

よくある質問

Q. VisaはCryptoPunkをいくらで買いましたか?

A. 2021年8月18日に、CryptoPunk #7610を49.5ETHで購入しました。当時のレートで約15万ドルに相当します。

Q. Visa Creator Programはいつ始まりましたか?

A. 2022年3月に発表され、参加者の募集は同年5月11日に締め切られました。旧版の記事にあった「2022年秋に始動」という記述は正確ではありません。

Q. FTXのVisaカードはどうなりましたか?

A. FTXの破綻を受け、Visaは2022年11月14日にFTXとの世界的な契約を解消したと説明しました。米国のデビットカードも終了に向けて手続きが進められました。

Q. Visaは今も暗号資産に関わっていますか?

A. はい。2025年12月には米国でUSDCによる精算を始めたと発表しています。ただし、これは銀行との精算の仕組みで、一般の利用者が暗号資産で直接支払う機能とは異なります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。