暗号資産の分離課税は実現するか|金融庁の要望と法整備の現在地

この記事の結論

  • 暗号資産取引から生じる所得は現在も総合課税(雑所得)です。有価証券取引等の所得が基本的に分離課税であるのとは扱いが異なります。
  • 金融庁は令和8(2026)年度税制改正要望(2025年8月)で「暗号資産取引に係る必要な法整備と併せて、分離課税の導入を含めた暗号資産取引等に係る課税の見直しを行うこと」を要望しました。
  • 一方、令和9(2027)年度税制改正要望(2026年8月)の要望項目に暗号資産は含まれていません。前提となる法整備は金融審議会WGの報告(2025年12月10日)で方向性が示された段階です。

本記事は2026年9月11日時点で、金融庁・国税庁の公表資料を取得して確認した内容です。

現行の課税方式:暗号資産は総合課税のまま

国税庁のタックスアンサーNo.1524は、暗号資産の売却や使用によって生じた利益を原則として雑所得に区分し、総合課税の対象としています。給与など他の所得と合算して累進税率が適用されるため、所得が大きいほど税率が上がります。

金融庁が令和8(2026)年度税制改正要望で示した問題認識も同じです。要望資料には「現在、有価証券取引等から生じる所得は基本的に分離課税が適用される一方、暗号資産取引から生じる所得は総合課税の対象とされている」と明記されています。

区分課税方式根拠・出典
上場株式・公募株式投信申告分離課税金融庁「令和9年度税制改正要望項目」の金融商品に係る課税方式の図
特定公社債・公募公社債投信申告分離課税同上(2016年1月から損益通算の範囲に追加)
デリバティブ取引申告分離課税(損益通算は未対応)同上
暗号資産取引総合課税(原則として雑所得)国税庁タックスアンサーNo.1524/金融庁「令和8年度税制改正要望項目」

金融庁は令和8年度要望で「分離課税の導入を含めた見直し」を求めた

金融庁の「令和8(2026)年度税制改正要望項目」(2025年8月公表)は、要望項目を「1. 資産運用立国の推進」「2. 暗号資産・保険」「3. 国際金融センターの実現」の3つに分け、2つめの柱の先頭に「暗号資産取引に係る課税の見直し」を置いています。

要望事項の記載はこうです。「暗号資産取引に係る必要な法整備と併せて、分離課税の導入を含めた暗号資産取引等に係る課税の見直しを行うこと」。あわせて「諸外国の動向を踏まえ、我が国でも暗号資産ETFの組成を可能とするための検討を税制面を含めて行う必要」とも記載されています。

この要望の前提として引用されているのが、令和7(2025)年度税制改正大綱の「第三 検討事項」3です。そこには、一定の暗号資産を金融商品として業法の中に位置づけ、他の金融商品と同等の説明義務や適合性等の規制を整備し、取引業者等による取引内容の税務当局への報告義務を整備することを前提に、課税の見直しを検討する、と書かれています。つまり「法整備が先、税制が後」という順序が明示されています。

令和9年度要望に暗号資産の項目はない

翌年の「令和9(2027)年度税制改正要望項目」(2026年8月公表)を確認すると、要望の柱は「1. 資産運用立国の推進」「2. 子育て世帯への支援」「3. 金融イノベーションの推進」に変わっています。主な要望項目は、金融所得課税の一体化(損益通算範囲の拡大)、銀行等の投資専門子会社による中小企業への出資の特例、生命保険料控除の恒久化、特定信託受益権(信託型ステーブルコイン)に係る所要の措置、NISAの利便性向上等です。

本文を検索した限り、この資料には「暗号資産」という語が1か所も出てきません。金融所得課税の一体化についても、対象として挙げられているのはデリバティブ取引と預貯金等であり、暗号資産は含まれていません。

要望年度公表時期暗号資産の課税に関する記載
令和8(2026)年度2025年8月要望項目に「暗号資産取引に係る課税の見直し」。分離課税の導入を含めた見直しを要望
令和9(2027)年度2026年8月要望項目に暗号資産の記載なし(本文中に「暗号資産」の語は0件)

ここから読み取れるのは、要望の有無という事実だけです。制度が後退したのか、法整備の進行を待っているのか、あるいは別の枠組みで扱われているのかは、この資料からは判断できません。

前提となる「法整備」の中身:金融審議会WG報告

金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(座長:森下哲朗 上智大学法学部教授)は、2025年12月10日に報告を公表しました。報告の概要は次のとおりです。

  • 根拠法令の見直し:暗号資産の規制法を資金決済法から金融商品取引法へ変更し、有価証券とは異なる金融商品として位置づける(現行法の暗号資産の範囲は維持。暗号資産に該当しないNFTやステーブルコインは対象外)。
  • 情報提供規制:発行者がいる暗号資産は発行者が資金調達を行う場合に情報提供義務を負う。発行者がいない場合などは暗号資産交換業者に情報提供義務を課す。
  • 業規制:基本的に第一種金融商品取引業に相当する規制を適用。無登録業者への罰則引上げ、投資運用行為や投資助言行為も規制対象に。
  • 不公正取引規制:暗号資産のインサイダー取引規制を創設し、証券取引等監視委員会の犯則調査権限や課徴金制度を整備。

この報告は、令和7年度税制改正大綱が課税見直しの前提として挙げていた「投資家保護のための必要な法整備」に対応する内容です。したがって、分離課税の議論を追うなら、税制改正要望だけでなくこの法整備の進捗を並べて見る必要があります。

いま確認できること・できないこと

確認できるのは次の3点です。(1) 暗号資産の所得は現在も総合課税であること。(2) 金融庁が令和8年度要望で分離課税の導入を含めた見直しを求めたこと。(3) 令和9年度要望には暗号資産の項目がないこと。

確認できないのは、分離課税がいつ、どの税率で導入されるかです。税率や実施時期を示した公的資料は本記事の作成時点では確認できていません。「20%になる」といった具体的な数字を見かけた場合は、必ず出典が税制改正大綱や法律の条文かどうかを確かめてください。

よくある質問(FAQ)

暗号資産の利益はいまどう課税されますか?

国税庁のタックスアンサーNo.1524により、原則として雑所得に区分され総合課税の対象になります。他の所得と合算して累進税率が適用されます。

分離課税はもう決まったのですか?

決まっていません。金融庁が令和8年度税制改正要望で「分離課税の導入を含めた見直し」を要望した段階で、税率や実施時期を示した公的資料は確認できていません。

税制より先に何が動きますか?

法整備です。令和7年度税制改正大綱は投資家保護のための法整備等を前提に課税の見直しを検討するとしており、金融審議会WGが2025年12月10日に資金決済法から金商法へ移す報告を公表しています。

出典(一次情報)

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言・税務助言ではありません。個別の判断は専門家や公的機関の一次情報をご確認ください。