ハードウェアウォレットの初期設定|復元フレーズの保管と注意点

この記事の結論

  • 復元フレーズ(ニーモニック)はBIP-39という公開規格で定義されています。エントロピーは128〜256ビットで、語数は12・15・18・21・24語のいずれかになります。
  • フレーズには最後にチェックサムが含まれます。エントロピーが128ビットなら4ビット、256ビットなら8ビットのチェックサムが付き、書き間違いをソフト側で検出できます。
  • 任意のパスフレーズを設定すると、同じ復元フレーズから別のウォレットが生成されます。BIP-39はどのパスフレーズでも有効なシードが生成されると明記しており、控えを失うと資産に到達できません。

本記事の技術仕様は2026年9月11日にBIP-39の原文を取得して確認した内容です。機種ごとの操作手順は各メーカーの公式サポートをご確認ください。

復元フレーズは「規格で決まっているもの」

ハードウェアウォレットを初期設定すると、12語や24語の英単語が表示されます。これはメーカー独自の仕組みではなく、BIP-39(Mnemonic code for generating deterministic keys)という公開仕様に沿ったものです。仕様のステータスはDeployed、ライセンスはMITで、誰でも原文を読めます。

語数はエントロピーの長さで決まる

BIP-39はエントロピー長(ENT)を128〜256ビットの範囲で、かつ32の倍数と定めています。エントロピーのSHA256ハッシュの先頭 ENT/32 ビットをチェックサム(CS)として末尾に付け、合計を11ビットずつに区切って単語リストの番号(0〜2047)に変換します。

エントロピー(ENT)チェックサム(CS)合計ビット語数(MS)
128ビット4ビット13212語
160ビット5ビット16515語
192ビット6ビット19818語
224ビット7ビット23121語
256ビット8ビット26424語

この表はBIP-39の原文に掲載されているものです。12語と24語の違いは語数の好みではなく、元になる乱数の長さの違いです。

単語リストの設計

BIP-39の単語リストは、先頭4文字で一意に識別できるよう選ばれています。「build」と「built」のような紛らわしい語の組み合わせは避けられ、リストはソート済みです。単語リストはUTF-8のNFKD正規化で符号化されます。仕様は、多くのBIP-39ウォレットが英語の単語リストしか対応していないため、英語以外の単語リストの使用を強く推奨しないと明記しています。

パスフレーズ:もう1つの鍵になる

BIP-39では、復元フレーズからバイナリシードを作る際にPBKDF2を使います。パスワードにニーモニック(UTF-8 NFKD)、ソルトに文字列「mnemonic」+パスフレーズを与え、反復回数2048、疑似乱数関数はHMAC-SHA512、導出鍵長は512ビット(64バイト)です。パスフレーズを設定しない場合は空文字列が使われます。

ここで重要なのは、仕様が「すべてのパスフレーズが有効なシードを生成する」と書いている点です。誤ったパスフレーズを入れても、エラーにはならず別のウォレットが開くだけです。この性質は仕様上「plausible deniability(もっともらしい否認)」として説明されていますが、利用者側から見れば、パスフレーズを1文字忘れただけで資産に到達できなくなることを意味します。

保管の実務:どこで事故が起きるか

復元フレーズは、それ自体がウォレットの中身すべてを渡すことと同じ意味を持ちます。仕様の記述からも実務上の注意点が導けます。

  • 誰にも伝えない:メーカーのサポートや運営を名乗る相手であっても伝えません。正規のサポートが復元フレーズを尋ねることはありません。
  • オンラインに置かない:スクリーンショット、クラウドメモ、写真アプリへの保存は避け、紙や金属プレートなどオフラインの媒体で保管します。
  • チェックサムを頼りにしすぎない:チェックサムは書き間違いの検出には有効ですが、順序を入れ替えた場合や複数語を誤った場合を必ず検出できるわけではありません。書き写した直後に、実機の復元機能で読み合わせるのが確実です。
  • パスフレーズは別に管理する:パスフレーズを使う場合、復元フレーズと同じ紙に書けば意味がありません。一方で、別々に保管して片方を失えば復元できません。運用の難易度が上がる機能である点は理解した上で使ってください。
  • 入手経路を確認する:本体やアプリは、メーカーの公式サイトで案内された正規の配布元から入手します。検索広告経由の偽サイトが報告されています。

機種ごとの手順は公式サポートで

初期化のボタン操作、PIN設定、復元フレーズの表示手順は機種によって異なります。本記事では規格レベルの説明にとどめ、個別の操作手順は各メーカーの公式サポートを参照してください。金融庁も、暗号資産交換業者のウォレットでパスワードを設定する場合は、IDと同じものや名前・電話番号・生年月日など推測が容易なものを避け、他サイトと同じID・パスワードの組み合わせを使わないよう注意喚起しています。

よくある質問(FAQ)

12語と24語ではどちらが安全ですか?

元になるエントロピーが128ビットか256ビットかの違いです。BIP-39はエントロピーが多いほど安全性が向上するが文の長さが増える、と説明しています。

復元フレーズを1語間違えるとどうなりますか?

BIP-39はチェックサムを計算し、無効な場合は警告を出すようソフトウェアに求めています。ただし検出できない誤り方もあるため、書き写した直後に実機で読み合わせるのが確実です。

パスフレーズは設定したほうがよいですか?

用途次第です。どのパスフレーズでも有効なシードが生成される仕様のため、忘れた場合にエラーで気づくことができず、資産に到達できなくなります。管理体制を用意できる場合にのみ使ってください。

出典(一次情報)

※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言・税務助言ではありません。個別の判断は専門家や公的機関の一次情報をご確認ください。