村田製作所のスマートファクトリー調査|成果86%の分母と現場の課題

スマートファクトリー化に関わる人の86%が成果を感じている。この数字だけを見ると、デジタル技術を導入すれば高い確率で成功するように見えるかもしれません。しかし、村田製作所が2023年3月28日に公表した調査は、国内の全工場の投資効果を測ったものではありません。

調べたのは、製造業で働く人の勤務先の状況と、取り組みに関わる人の認識です。本記事では数字の対象を分けて読み、同社が公開する工場の事例と併せて、データを現場の改善につなげる際の論点を整理します。

2023年の調査は「企業数」ではなく「回答者数」で読む

調査は2023年1月25日から27日まで、インターネットで実施されました。事前のスクリーニングには国内製造業の従事者11,084人が回答し、その後の本調査では、自社のスマートファクトリー化に携わる500人に詳しく尋ねています。以下の調査数値は、いずれも村田製作所調べです。

事前調査で勤務先が取り組みを実施していると答えた人は22.9%、実施を検討していると答えた人は15.2%でした。分母は11,084人であって、11,084社ではありません。回答者を企業単位で重複なく数えた割合とは区別が必要です。

また、本調査の500人は、製造業で働く人全体から無条件に選んだ集団ではありません。自社の取り組みに携わっていることが条件です。成果への質問は、この関与者に対して行われました。

2026年9月時点でこの記事を読む場合も、22.9%は2023年1月の回答として扱います。公開ページが今も閲覧できることと、数値が現在の普及状況を表すことは別です。全国の製造業の最新導入率として転用するのは適切ではありません。

86%は成果の実感であり、投資回収の達成率ではない

本調査の500人のうち、成果を感じていると答えたのは430人、感じていないと答えたのは70人でした。86.0%と14.0%という割合は、この500人を分母にしています。事前調査で取り組みを実施していると答えた人全員に対する割合ではありません。

成果を感じたという回答から、何らかの前進を認識している人が多かったことは読み取れます。一方、利益がどれだけ増えたのか、設備投資を何年で回収できたのか、どの取り組みが改善を生んだのかは、この設問の数字だけでは分かりません。

例えば、担当者が集計作業の負担軽減を評価していても、工場全体の採算を判断するには機器やソフトウェアの費用、保守、教育にかかる時間も必要です。成果の実感と金額で測る投資効果は、評価する範囲が異なります。

この調査には、同じ条件で技術を導入しなかった工場と比較する実験の結果は示されていません。86%を自社の成功確率に置き換えるのではなく、どの業務で何を改善したいのかを考える材料として読むのが妥当です。

取り組みは自動化だけでなく、技能継承や品質改善にも広がる

本調査では、開始のきっかけとして生産性を高めたいという回答が58.8%、費用を減らしたいという回答が54.0%でした。複数回答のため、同じ人が両方を選ぶ場合もあります。比率を足して、別々の企業の内訳とみなすことはできません。

実施内容では、作業の標準化や知識の共有を通じた技能継承が47.6%、製造データを品質改善に使う取り組みが47.4%、設備の稼働や工程に関する改善が46.0%でした。いずれも回答者500人に尋ねた項目であり、それぞれの施策の成功率ではありません。

ロボットを増やすことだけがスマートファクトリー化ではない点も読み取れます。ベテランが知っている停止原因を記録する、品質に影響する条件を比べる、工程の待ち時間を見つけるといった仕事も、データを使った改善につながり得ます。

用語では、情報を処理・共有するITに加え、機械や設備の監視・制御に関わるOTが登場します。画面に数値を表示できても、現場で何を変えるかが決まらなければ改善は進みません。測定から対応までの仕事をつなぐ視点が必要になります。

経営層の理解と専門チームは、現場の知識と組み合わせる

成果を感じた430人に推進要因を複数回答で尋ねると、経営層の理解を挙げた人が67.7%、専門のチームを設けたことを挙げた人が53.0%でした。この数字は、成果を感じた人が振り返った要因であり、その体制を作れば必ず成果が出るという因果関係の証明ではありません。

成果を感じていない70人への質問では、データを集めて蓄える段階や、分析・予測する段階での難しさが挙がりました。専門人材の不足、費用に見合う効果を示しにくいことも障害として示されています。

自由回答には、専門の部署に現場の実務への理解を求める声もありました。情報システムに詳しい人を集めるだけでなく、設備の癖、点検の手順、日々の判断を知る担当者と協働する必要がある、という課題が見えます。

自社で計画する際は、データを取得する担当、原因を調べる担当、実際に作業を変える担当を具体的に考えると役割が見えます。経営層が予算を認める段階と、現場が記録や対応を続ける段階の両方で、目的を共有することが重要です。

福井と小諸の事例は、数値を集めた後の使い方を示す

福井村田製作所の2020年公開の技術記事では、設備の状態をセンサーで把握し、故障の兆候に応じて保全担当者が動く仕組みが紹介されています。警報を出す基準は現場の知見から始め、蓄積したデータで調整したと説明されています。最初から完全に予測できたという話ではありません。

同記事には保全にかける総時間を16%削減したという自社事例の説明もあります。ただし、これは特定の工場での取り組みに関する公表値です。2023年のアンケート回答者全体の平均効果や、あらゆる工場が達成できる削減率とは区別します。

小諸村田製作所の2022年公開の記事では、設備ごとの状態把握から始め、その後に工場全体のエネルギー使用状況を見る仕組みへ広げた経緯が語られています。製品仕様が変わる現場の特性を踏まえ、改善を繰り返す方針を選んだ事例です。

二つの事例から参考にできるのは、機器を接続することだけで終わらせず、得られた情報を点検や運用の変更に使った点です。扱う設備や生産条件が違う工場では、同じソフトウェアや測定項目をそのまま採用する前に、自社の課題との対応を考える必要があります。

自社の検討では、測る対象と比較条件を先に決める

ここからは調査と事例を踏まえた、検討のための整理です。まず、生産全体を一度に変えるのか、特定工程の停止時間を減らすのか、目的の範囲を決めます。対象が曖昧なままデータだけを増やすと、何を改善したと判断するのかも曖昧になります。

次に、導入前の状態を残します。停止の長さを比べるなら、計画停止と予期しない停止を分け、生産量や製品の違いも記録する方法が考えられます。導入後の数値が変わったときに、設備の改善と受注状況の変化を見分けるためです。

試行する範囲では、収集した数値を誰がどの頻度で確認し、どの条件で行動するかまで決めておくと、改善の流れを確かめやすくなります。省けた作業時間だけでなく、記録や点検のために新しく必要になった時間も評価の対象です。

村田製作所の発表には自社ソリューションの案内も含まれますが、調査結果が特定製品の効果を実証したわけではありません。外部支援を選ぶ際も、自社設備との接続条件、運用を支える担当者、試行後の評価方法を確かめ、調査の割合とは別に判断することが大切です。

よくある質問

Q. スマートファクトリー化の成功率は86%ですか。

A. いいえ。2023年の調査で、取り組みに関わる500人のうち430人が成果を感じると回答した割合です。全国の工場の成功率や投資回収率を測った数字ではありません。

Q. 22.9%は現在の国内企業の導入率ですか。

A. 2023年1月の事前調査で、製造業従事者11,084人のうち勤務先で実施していると答えた人の割合です。企業数を分母とした2026年の統計ではありません。

Q. 最初から工場全体を自動化する必要がありますか。

A. 紹介した小諸の事例では、設備の状態把握から始めて範囲を広げています。自社では改善したい工程や作業を絞り、測定した情報をどう行動に使うかまで検討すると、試行の目的を定めやすくなります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。