神奈川県松田町寄(やどりき)のいしい茶園は2023年3月28日、NFTを使って地域の景観や文化を次世代につなぐ「ぼくらの絵日記」プロジェクトを発表しました。始動とNFT販売の予定日は同年4月4日。NFT保有者が地域の企画に関わる「YADORIKI-DAO」をつくる構想でした。
初期NFTは100体とされ、会員証や投票、お茶などの特別価格購入への利用が紹介されています。ただし、発表された機能と実際の運営実績は区別が必要です。2026年9月27日時点で確認できる茶園の公式情報も参照し、計画の内容と、今も確認が必要な点を整理します。
茶園を訪れる人だけでなく、遠方の仲間とも関係をつくる
2023年の公式発表で、七代園主の石井久和氏は、茶園の景観や文化を残したいという思いを説明しています。担い手の減少や耕作放棄地の増加を地域の課題として挙げ、茶の製造・販売だけでは関わりにくい人にも参加の入口を広げようとしました。
その入口に据えたのが「ぼくらのNFT」です。地域の生き物や風景を題材にしたNFTを通じて寄を知ってもらい、購入者からアイデアを集め、新しい地域の企画へつなげる設計でした。発表ではカワセミとニホンカモシカをモチーフにした例が示されています。NFTに地域の特徴を持たせることで、単なる会員番号とは違う関心のきっかけを作ろうとしたことが分かります。
住んでいる場所を変えなくても地域と関われる点も、当時の説明に含まれます。ただし、オンラインで参加者が集まることと、現地の茶園管理を担う人手が増えることは同じではありません。発信、企画、現場の作業といった役割をどう結び付けるかが、この構想を地域の活動にするための課題になります。
絵日記として活動を記録する、四段階の構想
計画では、まず地域の魅力や文化から企画を考え、参加者の得意分野を生かして実行します。その成果を記念NFTとして発行し、保有や譲渡を通じて次の活動へつなげる、という順序が示されました。活動の記録を「絵日記」に見立てている点が名称の由来です。
| 段階 | 発表された内容 |
|---|---|
| 企画を考える | 地域の魅力を見つけ、新たなコンテンツを発想する |
| 実行する | メンバーの特性を生かして企画に取り組む |
| 記録する | 実施した活動の記念NFTを発行する |
| 次につなぐ | 収集や譲渡、投票への利用を想定する |
初期100体という説明は、この計画の出発点として告知された発行枠です。100体すべてが売れた、100人が会員になった、あるいは将来を含めてNFTを100体しか作らない、という実績や上限を示すものではありません。後の活動でも新しい記念NFTを発行する構想があるため、初期販売と継続的な記録づくりを分けて読む必要があります。
2023年4月1日にも同趣旨の発表がありましたが、これは実現したい夢を紹介する「April Dream」への参加記事です。活動の継続や理念を発信した資料であり、投票や企画の実行が完了したことを報告する資料ではありません。
会員証、投票、お茶の割引はそれぞれ確認が必要
当初の発表では、NFT保有者がYADORIKI-DAOの会員になる権利を得て、NFT自体を会員証として扱うとしています。保有数に応じた投票権の増加や、お茶・地域の名産品を特別価格で購入することも紹介されました。NFTの保有と地域への参加機会を結び付ける構想です。
一方、投票の対象、必要な賛成数、参加できる人の確認方法、企画を実行する責任者などの詳細は、今回確認した発表からは分かりません。DAOという名称があるだけで、すべての意思決定が自動化され、運営担当者を必要としない状態が実現しているとは判断できません。保有数に応じた票の配分も、実際の投票記録とは別の情報です。
割引についても対象商品、割引率、有効期間、使用回数、保有者の確認手続きが判断材料になります。2023年の紹介文だけを根拠に、現在の茶の購入で割引が適用されるとは案内できません。今回の調査では、具体的な投票結果や割引利用の実績、現行の会員向け条件までは確認できませんでした。
「地域循環共生圏」と「日本初」の意味を分ける
プロジェクトは地域循環共生圏という考え方を掲げています。環境省の説明では、地域の資源を生かして環境・社会・経済の課題に取り組み、自立した地域同士が支え合う社会を目指すものです。NFTを発行すること自体を目的とした制度ではありません。
発表にある「日本初」は、2023年2月末時点で、地域循環共生圏づくりにNFTなどのWeb3を活用する取り組みについて、事業者が自ら調べたという限定付きの表現です。すべての地域NFTに先行するという第三者の認定や、環境省がNFTの価値・安全性を認証したという意味にはなりません。
この構想の成果を見るなら、NFTの発行数だけでなく、茶園に関わる人が増えたか、どの企画を実施したか、地域資源の維持に資金や労力が使われたかを追う必要があります。NFTの売買価格は、そのような地域活動の成果を直接示す指標ではありません。環境面の理念と市場での取引を混ぜずに評価することが大切です。
2026年度の「ひとつぼ園主」は、NFTとは別制度
茶園公式のひとつぼ園主ページには、2026年5月15日現在として第5期の募集案内があります。一口1万円に税を加えた1年更新の制度で、対象期間は2026年5月1日から2027年4月30日。春と秋のお茶、茶摘みイベント、イベント参加費の特別割引などが案内され、内容変更や天候による中止の可能性も記されています。
これは一坪の茶畑オーナー制として、地域の景観を一緒に守る参加者を募る取り組みです。2023年のNFT発表でも既存の別の活動として紹介されていました。NFTを一つ持てば自動的にひとつぼ園主になり、上記のお茶やイベント特典が付くという説明は確認できません。逆に、ひとつぼ園主への申込みがNFTの取得を意味するわけでもありません。
また、オーナーという名称だけから土地の所有権を取得できると解釈しないことも重要です。少なくともNFTの発表には、茶畑の土地持分を移転するという説明はありません。公式ページは管理者の許可のない敷地への立ち入りも禁止しています。制度への参加、現地への入場、NFTの保有を一つの権利として扱わず、各案内を個別に確認する必要があります。
現在の売買やDAOの稼働は、公開情報だけでは確認できない
2023年の告知はOpenSeaのYADORIKI-DAOコレクションを販売先として指定しています。今回、そのURLへのアクセスを試みましたが、調査環境では内容を取得できず、発行済み数、保有者数、売買履歴、現在の出品を検証できませんでした。閲覧できなかったことから販売終了や活動停止を結論付けることもできません。
茶園の公式サイトと2026年度のひとつぼ園主案内は確認できる一方、それだけではDAOの投票やNFT特典の継続を裏付けられません。NFT企画の販売実績、資金の使途、現行の参加窓口を示す後続資料は、今回の調査では確認に至っていません。
元の発表自体も、NFTが売れない可能性と価格上昇を保証しない旨を明記しています。過去の市場全体の成長率や、出品者が付けた価格から、このNFTを売却できる価格を推定することはできません。地域を応援する気持ちと、取引で利益を得られるという期待は切り分ける必要があります。
この事例は、地域活動の記念品をデジタル化し、会員証や参加の仕組みにつなげようとした2023年の試みとして捉えられます。現在の参加を考える際には、古い開始予告より、どの活動が行われ、誰が運営し、どの条件が有効なのかを確認することが先になります。
よくある質問
Q. 初期NFT100体は完売したのですか?
A. 100体は2023年に発表された初期枠です。今回、OpenSeaで発行数や販売実績を検証できておらず、完売や会員100人の成立は確認していません。
Q. NFTを持つと茶畑のオーナーになれますか?
A. NFTの会員制度とひとつぼ園主は別の取り組みです。NFTに土地持分やひとつぼ園主の特典が自動で付くという説明は確認できません。
Q. 現在もNFTで投票やお茶の割引を利用できますか?
A. 当初の構想には含まれますが、現行条件や利用実績は未確認です。2026年度のひとつぼ園主の募集情報だけではNFT特典の継続は判断できません。
この記事の出典
- いしい茶園:「ぼくらの絵日記」プロジェクト発表(2023年3月28日)
- いしい茶園:April Dreamでの構想発信(2023年4月1日)
- いしい茶園:ひとつぼ園主の案内
- 環境省:地域循環共生圏を知ろう
- いしい茶園公式サイト
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。



