2022年夏、Netflixで世界的に視聴された韓国ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(英題:Extraordinary Attorney Woo)をもとに、自閉スペクトラム症(ASD)への理解を広げるNFTコミュニティ「Extraordinary Whales Club」が立ち上がりました。発表したのはドラマの制作会社AStoryの子会社AIMCで、ブロックチェーンにはPolygonが使われました。
旧版の記事は見出しで「ポリゴンがNetflixのショーランナーと提携」と書いていましたが、報道で確認できるのは制作会社側の企画にPolygonが基盤を提供したという関係で、Netflixが当事者として加わったとする発表は見当たりません。本文にあった「臨時弁護士NFT」という名称も英題の誤訳とみられます。この記事では経緯を確かめ直し、その後の展開と、社会貢献をうたうNFTを見るときの注意点を整理します。
何が発表されたか:クジラをモチーフにしたNFTコミュニティ
暗号資産メディアのForkastは2022年8月9日、AIMCがPolygonと組んでNFTコミュニティ「Extraordinary Whales Club」をつくると報じました。目的は、ドラマのファンを集めながら自閉スペクトラム症への社会の理解を高めることです。
フィリピンのBitPinasなどの報道によると、AIMCは8月7日から12日にソウルで開かれた業界イベント「Korea Blockchain Week(KBW)」の参加者にNFTをエアドロップ(無償配布)しました。企画には次のような計画も含まれていました。
- 自閉スペクトラム症を支援する慈善資金を集めるためのDAO(分散型自律組織)の設立
- Web3コミュニティ基盤のCIETY、動画視聴型NFT企画のSCREENAとの協力(NFTの発行、マーケットプレイスの開発、コミュニティ運営)
DAOとは、参加者がトークンなどを通じて意思決定に加わる組織の形です。寄付の集め方や使い道を参加者の投票で決め、記録をブロックチェーンに残すことで、お金の流れを見えやすくする狙いがあったと考えられます。
背景:なぜクジラなのか、ドラマはどれほど見られたか
「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」は、韓国のケーブル局ENAで2022年6月29日から8月18日まで放送された全16話のドラマです。制作はAStory、KT Studio Genie、Nangman Crewが担い、Netflixが一部地域で配信しました。最終回の全国視聴率は17.534%で、韓国のケーブルテレビ史上でも上位に入る記録です。
主人公のウ・ヨンウは自閉スペクトラム症のある新人弁護士で、クジラが大好きという設定です。事件の糸口がつかめない場面で、頭の中にクジラが現れて発想のきっかけになる演出が繰り返し登場します。NFTの企画がクジラを中心に据えたのはこのためです。
放送中の8月17日には続編の制作が発表され、ウェブトゥーン化やミュージカル化、海外でのリメイクの話も相次ぎました。人気の絶頂にあった作品の知的財産を、ファンとの接点づくりに使おうとした企画だといえます。
基盤にPolygonが選ばれたのは、イーサリアムと互換性がありながら取引手数料が安く、イベント参加者に大量のNFTを無償で配る用途に向いていたためと考えられます。2022年当時、Polygonは大手ブランドのNFT企画で採用が相次いでいたチェーンでもありました。
その後どうなったか:オークションと寄付先の明示
企画はその後、暗号資産取引所のCrypto.comとの協業に広がりました。Crypto.comの発表によると、AStoryとAIMCは2022年10月に同社と覚書を結び、2023年1月11日にソウルでオークションを開いています。出品されたのは韓国のイラストレーター、イ・チョルミン氏とチェ・ビョンロク氏が手がけた7点の作品で、同じ作品のNFTは1月20日からCrypto.comのNFTマーケットプレイスで扱われました。
オークションの収益は、世界自然保護基金の韓国支部(WWF Korea)と、自閉症の支援団体Autism Koreaに寄付するとされました。当初うたわれた「クジラ」と「自閉症への理解」の二つのテーマに合わせた寄付先です。
一方、2022年8月に計画として示されたDAOが実際に設立され、どれだけの資金を集めて何に使ったのかについては、公式の報告を確認できませんでした。オークションで集まった金額や、寄付が実行されたことを示す団体側の発表も見つけられていません。
基盤となったPolygonは、その後2024年9月に基軸トークンをMATICからPOLへ移す手続きを始めるなど、仕組みを大きく変えています。ドラマの続編についても、放送開始の時期を公式情報で確かめることはできませんでした。
読者が知っておくべきこと:チャリティNFTを見る4つの点
社会貢献をうたうNFTは、応援の気持ちを形にしやすい一方で、寄付の実態が外から見えにくいことがあります。参加する前に、次の点を確かめておくと判断しやすくなります。
- 寄付先が名指しされているか:「慈善団体に寄付」ではなく、団体名まで示されているか。今回のオークションはWWF KoreaとAutism Koreaを明示していました。
- 割合や金額が示されているか:売上の何%を寄付するのか、手数料を引いた後か前か。
- 実行の報告があるか:寄付した日付や受領の確認を、発行者か寄付先が公表しているか。
- 権利者の公式企画か:人気作品の名前を使った便乗の出品がないか。発行元のアカウントやコントラクトのアドレスを公式サイトで照合します。
ブロックチェーンに記録が残るからといって、寄付が行われたことまで自動的に証明されるわけではありません。オンチェーンの送金記録と、受け取った側の確認がそろって初めて検証できます。似た試みとして、当サイトでは植樹を支援するGreen NFTや寄付型ミームのNEKOMATAも取り上げています。
ドラマの知的財産とNFT:ファンが気をつけたいこと
ドラマやアニメを題材にしたNFTは、作品の権利を持つ会社が発行するものと、ファンや第三者が勝手に発行するものが混在しがちです。今回のExtraordinary Whales Clubは制作会社の子会社が進めた企画でしたが、話題作の名前を冠した無関係のコレクションが出回ることは珍しくありません。
また、NFTを買っても、キャラクターや作品そのものの著作権が買い手に移るわけではありません。画像を商品に使ったり、別の作品に組み込んだりできるかどうかは、発行者が定める利用条件によります。作品とNFTの権利の関係については、制作委員会方式とNFTを組み合わせたNEO TOKYO PUNKSの事例も参考になります。
日本の読者にとっての意味
Crypto.comのNFTマーケットプレイスや韓国のイベントでの配布は、日本の利用者が気軽に参加できる形ではありませんでした。海外の暗号資産交換業者は、日本で登録を受けていなければ日本居住者に向けて営業できず、利用規約で日本からの利用を認めていない場合もあります。
また、NFTの購入代金の一部が寄付に回る仕組みでも、買い手にとっては商品の購入であり、日本の寄附金控除の対象になるとは限りません。税の扱いが気になる場合は、寄付先が控除の対象となる法人か、支払いが寄付として受領されるのかを確かめる必要があります。
それでも、作品のテーマを社会課題への関心につなげようとしたこの企画は、エンターテインメントとNFTの組み合わせ方の一つの型を示しています。NFTの基本から押さえたい方はNFTの基礎解説をどうぞ。
よくある質問
Q. Extraordinary Whales ClubのNFTはどのブロックチェーンで発行されましたか?
A. 2022年8月の発表では、Polygonがブロックチェーン基盤を提供するとされていました。2023年1月にCrypto.comで扱われた作品について、使われたチェーンは発表文では確認できませんでした。
Q. NetflixはこのNFT企画に関わっていたのですか?
A. 確認できた報道では、企画したのは制作会社AStoryの子会社AIMCで、Netflixは作品の配信元という関係にとどまります。Netflixが企画の当事者だとする発表は見つかりませんでした。
Q. 寄付は実際に行われたのですか?
A. Crypto.comの発表では、2023年1月11日のオークションの収益をWWF KoreaとAutism Koreaに寄付するとされています。寄付額や実行を示す報告は確認できませんでした。
Q. 今からこのNFTを手に入れることはできますか?
A. 配布や販売はいずれも期間限定の企画でした。二次流通で見かけた場合は、発行元の公式発表と照らし合わせ、便乗した偽物でないかを必ず確かめてください。
この記事の出典
- Forkast:Netflix K-drama hit to launch NFT project with Polygon
- BitPinas:Hit Kdrama Extraordinary Attorney Woo to Create NFT Community for Autism Awareness
- Crypto.com:Crypto.com partners with A Story and AIMC to release the Extraordinary Whales Club social NFT
- Wikipedia:Extraordinary Attorney Woo
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




