バイナンスとZashのNFTデータ提携|CoinGecko買収までの経緯

2022年8月16日、NFTのデータ分析を手がける英国のスタートアップZashと、暗号資産取引所大手のバイナンスは、NFT関連企業向けのデータ追跡・分析ツールを共同で開発すると発表しました。バイナンスは製品の開発、テスト、公開を支援する立場です。

旧版の記事は提携の概要を短く紹介し、「データに裏打ちされたNFTプロジェクトの台頭を見ることになるだろう」と結んでいました。この記事では、Zashが扱っていたデータの中身を確かめ直したうえで、その後のCoinGeckoによる買収、バイナンスのNFTマーケットプレイスの縮小と閉鎖までを追い、NFTのデータを読むときの注意点をまとめます。

何が発表されたか:企業向けのNFTデータ製品

暗号資産メディアのThe Blockによると、Zashはオンチェーンの取引データとSNS上の反応を組み合わせ、企業向けに提供するNFTの分析会社です。最高経営責任者は共同創業者のパリット・パテル氏でした。

Zashが追跡していたのは、次のような情報です。

  • NFTの買い手と売り手、短期で売買を繰り返す転売者(フリッパー)
  • コレクションのX(旧Twitter)のフォロワー数、Discordの参加者数
  • 投稿を拡散した利用者や、トークンの保有者など、コミュニティの中心メンバー

これらを検索しやすい形のAPIにまとめ、プロジェクトの運営者や取引所が意思決定に使えるようにするのが製品の狙いです。バイナンスのデータ分析担当者は、Zashが顧客に近い立場でNFTコミュニティが必要とするものを見極めていると評価するコメントを寄せています。

NFT専門メディアのNFTgatorsなどの報道では、Zashは2022年の初めからバイナンスと緊密に協力しており、ほかの大手取引所やマーケットプレイス、コレクションとも話し合いを進めていたとされています。

背景:なぜ取引所がNFTのデータを求めたのか

バイナンスは2021年6月に自社のNFTマーケットプレイスを立ち上げ、2022年にはNFTの取り扱いを広げていました。取引所にとってNFTは、暗号資産の売買とは別の手数料収入と利用者の接点を生む事業です。

ただ、NFTは一つひとつが異なる資産で、株式や暗号資産のように「価格」を一つの数字で表しにくいという難しさがあります。どのコレクションを扱い、どれを宣伝するのかを決めるには、取引高やフロア価格(出品中の最安値)だけでなく、保有者の分布や実際の利用者の動きを見る必要がありました。

2022年8月は、同年5月のTerra(LUNA)の崩壊や、その後の暗号資産貸付業者の破綻を経て、NFTの取引も春の熱狂から冷え込んでいた時期です。見かけの取引高に頼らず、データで中身を見極めたいという需要が強まっていました。

その後どうなったか①:ZashはCoinGeckoが買収

Zashは2023年11月22日、暗号資産の価格データサイトCoinGeckoに買収されました。CoinGeckoにとって初めての企業買収で、金額は公表されていません。

CoinGeckoの発表によると、Zashは2021年にパテル氏と最高技術責任者のエフェ・スレクリ氏が創業し、イーサリアム、Polygon、BNB Chain、ソラナ、ビットコインのOrdinalsにまたがる87のマーケットプレイスのデータを集めていました。NFTのメタデータ、過去の取引、NFTを担保にした貸し借りのデータに加え、自作自演の売買(ウォッシュトレード)を大規模に見つける技術も持っていたとされます。

CoinGeckoは、Zashのデータを2024年の第2四半期までに自社のAPIへ組み込み、利用者が暗号資産とNFTのデータを一つの窓口で取れるようにすると説明していました。旧版の記事が予想した「データに基づくNFTプロジェクト」がどこまで広がったかは測りにくいものの、NFTのデータ事業は、単独の会社としてではなく大手データサイトの一機能として残る形になりました。

その後どうなったか②:バイナンスはNFTマーケットプレイスを閉鎖

提携の相手だったバイナンスのNFT事業は、その後縮小を続けました。報道によると、バイナンスは2023年9月にPolygonのNFTの取り扱いをやめ、2024年4月にはビットコインのOrdinalsのNFTからも撤退しています。2025年8月1日には、Bored Ape Yacht Club(BAYC)とMutant Ape Yacht Club(MAYC)のNFTを預けて報酬を得る商品も終了しました。

crypto.newsが2026年6月3日に伝えたところでは、バイナンスは取引所内のNFTマーケットプレイスを2026年7月3日で閉じ、自己管理型のBinance Walletに機能を移しました。利用者は期限までに、送付できるNFTをBinance Walletなどの外部ウォレットに移す必要があり、送付できないNFTは期限後に取引所から見られなくなると案内されました。同じ記事は、NFTの年間取引高が2022年の500億ドル超から、2025年には約55億ドルまで減ったと伝えています。

読者が知っておくべきこと:NFTのデータの読み方

Zashが扱っていたような指標は、個人がNFTのコレクションを調べるときにも役立ちます。ただし、数字にはそれぞれ落とし穴があります。

指標 分かること 注意点
取引高 どれだけ売買されているか 同じ人が自分のウォレット間で売買するウォッシュトレードで水増しされることがある
フロア価格 今いくらで買えるか 出品数が少ないと、少数の出品で大きく動く
保有者数と分布 所有が分散しているか 一人が複数のウォレットを使うと、実際より分散して見える
SNSのフォロワー数 関心の広がり フォロワーは買えるため、反応の質や実際の購入者と合わせて見る

個人でも確かめられる方法はあります。マーケットプレイスの取引履歴(アクティビティ)で、同じアドレスどうしが短い間隔で売買を繰り返していないかを見る。ブロックチェーンのエクスプローラーで、上位の保有アドレスがどれだけの割合を持っているかを見る。SNSでは、フォロワーの数より、投稿への返信の中身や、運営が質問にどう答えているかを見る。いずれも手間はかかりますが、有料のデータサービスがなくても大まかな傾向はつかめます。

一つの数字で判断せず、複数の指標が同じ方向を示しているかを確かめるのが基本です。指標の選び方は弱気相場でのブルーチップNFTの動きや、市場操作の疑いをデータで検証した記事も参考になります。

日本の読者にとっての意味

バイナンスのグローバル版は日本居住者の新規登録を受け付けておらず、日本ではバイナンスジャパンが暗号資産交換業者としてサービスを提供しています。あたらしい経済の報道によると、バイナンスジャパンは2023年8月1日に国内向けのサービスを始め、NFTマーケットプレイスではグローバル版と同じサービスを使えると説明していました。2026年7月のマーケットプレイス閉鎖が日本の利用者にどう適用されたかについては、今回の調べでは公式情報を確認できませんでした。利用している場合は、バイナンスジャパンの告知を確かめてください。

取引所の中でNFTを持っていると、今回のように事業の方針転換で移し替えの手続きが必要になることがあります。長く持つつもりのNFTは、自分で管理するウォレットに置いておくと、特定の事業者の都合に左右されにくくなります。バイナンスジャパンの動きはPayPayとの資本提携の記事でも扱っています。

よくある質問

Q. Zashとはどんな会社でしたか?

A. NFTの取引データとSNS上の反応を組み合わせて企業向けに分析データを提供していた、2021年創業のスタートアップです。2023年11月にCoinGeckoに買収されました。

Q. バイナンスとZashの提携で何が作られたのですか?

A. NFT関連企業向けのデータ追跡・分析ツールを共同で開発し、バイナンスがテストと公開を支援すると発表されました。一般の利用者向けにどのような形で公開されたかは確認できませんでした。

Q. バイナンスのNFTマーケットプレイスは今も使えますか?

A. crypto.newsの報道によると、取引所内のNFTマーケットプレイスは2026年7月3日で閉じられ、機能は自己管理型のBinance Walletに移りました。

Q. NFTの取引高が多ければ人気があると考えてよいですか?

A. 取引高はウォッシュトレードで水増しされることがあります。保有者の分布や実際の購入者の数など、複数の指標を合わせて見ることが大切です。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。