Fearless Girlの作者がNFTを出した理由|State Streetとの係争の経緯

ニューヨークの証券取引所の前に立つブロンズ像「Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)」は、女性の活躍を訴える象徴として知られています。作者の彫刻家クリステン・ビスバル(Kristen Visbal)氏は2021年から2022年にかけて、この像の画像や映像を使ったNFTを発行しました。像の設置を依頼した資産運用会社State Street Global Advisors(SSGA)との訴訟で膨らんだ弁護士費用をまかなうためです。

旧版の記事は訴訟費用を「33,000ドル」と書いていましたが、美術専門紙The Art Newspaperの報道でビスバル氏が語った額は300万ドル超で、桁が大きく違っていました。この記事では係争の経緯とNFTの中身を確かめ直し、2024年の和解までを追います。

像の成り立ち:2017年の国際女性デーに登場

Fearless Girlは、SSGAが企業の取締役会に女性を増やすよう呼びかけるキャンペーンの一環として依頼した、高さ約50インチ(約127cm)のブロンズ像です。2017年3月8日の国際女性デーに、ウォール街の象徴である雄牛の像「Charging Bull」と向き合う位置に置かれ、世界的な話題になりました。

像は2018年に、ニューヨーク証券取引所の建物の前へ移されています。設置場所が市の土地であるため、像がそこに立ち続けるには市の許可が必要で、その更新をめぐる議論も長く続きました。

何が争われたのか:レプリカと商標

SSGAは2019年2月、ビスバル氏を相手取って訴えを起こしました。銀行業界の専門メディアBanking Diveの整理によると、SSGAの主張は、ビスバル氏がオーストラリア、ノルウェー、ドイツの団体にレプリカを売ったことや、女性の権利を訴えるデモでレプリカが使われるのを認めたことが両者の契約に反し、SSGAの信用を傷つけ、知的財産権を侵害したというものです。

The Art Newspaperは、SSGAがこうした行為によって「Fearless Girl」という名前の商標上の権利が弱まると主張していたと伝えています。一方のビスバル氏は、作品のメッセージを世界に広める作者としての自由を訴えました。

旧版は「商標権を侵害する無許可の複製を行ったとしてState Street社から訴えられた」と書いており、訴えの方向はおおむね合っていますが、中心にあったのは両者が結んだ契約の解釈です。

NFTの中身:映像と実物の像を組み合わせた3段階

The Art Newspaperによると、ビスバル氏は2021年11月の時点で、訴訟で300万ドルを超える弁護士費用がかかっていると話し、像の画像や映像を使った3つのNFTセットを出す計画を明らかにしていました。

ファッション・カルチャー誌Hypebeastのインタビュー記事では、2022年3月8日の国際女性デーに販売する予定のコレクションが、次の3つの段階に分けて紹介されています。

段階 NFT 付いてくるもの
第1段階 1点限りの映像NFT 実物大の像
第2段階 105点の映像NFT ブロンズのミニチュア像
第3段階 7種類のトレーディングカード 署名入りの写真など。7種類すべてをそろえると第1段階の抽選に参加

デジタルの所有権と実物の作品を組み合わせた設計で、NFTを単なる画像の売買ではなく、実物を受け取る権利の証明として使っています。

旧版にあった「226枚を収録」「OpenSeaで3.05ETHのオークション」「6ETHで9000本売れた」といった数字は、今回確かめた報道では裏づけが取れませんでした。販売の最終的な売上高も、公式の発表は見つかっていません。

なぜNFTで資金を集めたのか

個人のアーティストが大企業を相手に数年がかりの訴訟を続けると、費用の負担は作品の売上だけでは追いつかなくなります。ビスバル氏は2022年5月には実物の像の最初の鋳造品を売りに出す動きも見せており、あらゆる手段で費用を工面しようとしていたことがうかがえます。

NFTには、この目的に合う性質がいくつかありました。

  • 世界中の支援者に直接売れる:画廊を通さず、作品のメッセージに共感する人に届けられます。
  • 数量と所有者の記録が残る:限定105点といった希少性を、誰でも確かめられる形で示せます。
  • 実物の作品と結びつけられる:ミニチュア像などを付けることで、デジタルだけでは価値を感じにくい層にも訴えられます。

一方で、2022年3月の販売時期は、暗号資産市場が前年秋の高値から下げ始めていた局面でもありました。支援の意思がある人でも、ウォレットの用意や暗号資産での支払いが壁になり、購入者の層は限られたとみられます。NFTによる資金調達は、話題性と引き換えに、買い手の手間や相場の変動という不確かさを抱える手段でもあります。

その後どうなったか:2024年4月に和解

像の設置許可は2021年11月末に期限を迎えました。ニューヨーク市の歴史的建造物保存委員会は同年12月14日、像をあと3年置くことを全会一致で認めましたが、最終的な判断は市の公共デザイン委員会に移されました。公共デザイン委員会は11か月の延長を認め、恒久的な設置場所について関係者が合意するよう求めています。2023年6月20日にも、市の交通局が同じ条件(11か月、6か月後に報告)での延長を同委員会に申請した資料が公開されています。

訴訟は長く続き、2024年4月末、予定されていた公判の直前に双方が調停を経て和解しました。和解の条件は明らかにされていません。両者は共同声明で、像がこの7年間に生んだ対話と変化を誇りに思うと述べています。

和解の後、像の設置許可がいつまで有効なのか、恒久的な設置場所が決まったのかについては、市の公式情報で確かめることができませんでした。

読者が知っておくべきこと:NFTで作品の権利は移るのか

この件は、アーティストが自分の作品のNFTを出すときにも、過去に結んだ契約が影響し得ることを示しました。The Art Newspaperの取材に応じた知的財産に詳しい弁護士のジェフ・グラック氏は、ビスバル氏の契約が実物の複製と同じようにデジタルの作品も制限している可能性があり、明確な許可なしにNFTを出す権利が争点になり得ると指摘しています。

買う側が押さえておきたいのは次の点です。

  • NFTを買っても、作品の著作権や商標権が買い手に移るとは限りません。何に使えるかは発行者が示す利用条件で決まります。
  • 実物の像やグッズが付くNFTは、発送の時期や方法、発行者が約束を守れなくなった場合の扱いを確かめます。
  • 作者が訴訟中である、あるいは第三者と権利を争っている作品は、後から販売や表示が制限される可能性もあります。

出品する側の手順や手数料の基本はOpenSeaでの出品方法で解説しています。

日本の読者にとっての意味

日本でも、NFTを発行したり売買したりするときには著作権法や商標法の考え方がそのまま当てはまります。自分で作った作品でも、制作を依頼した会社との契約で複製や二次利用が制限されていれば、NFTにする前に契約の範囲を確かめる必要があります。

NFTを売って得た利益には、制作者か転売かによって異なる形で税金がかかります。整理はNFTの課税区分の解説にまとめています。アートとNFTの関係を別の角度から見た記事として、著作権NFTを使った製作委員会モデルもあわせてどうぞ。

よくある質問

Q. Fearless Girlはどこにありますか?

A. 2017年にウォール街の雄牛の像の前に置かれた後、2018年にニューヨーク証券取引所の建物の前へ移されました。最新の設置許可の状況は、公式情報で確かめることができませんでした。

Q. ビスバル氏の訴訟費用はいくらだったのですか?

A. The Art Newspaperの2021年11月の報道で、本人が300万ドルを超える弁護士費用がかかっていると語っています。旧版の「33,000ドル」は誤りでした。

Q. State Streetとの訴訟はどう決着しましたか?

A. 2024年4月末、公判の直前に調停を経て和解しました。和解の条件は公表されていません。

Q. NFTを買えば像の画像を自由に使えますか?

A. NFTの購入で著作権や商標権が移るとは限らず、使い方は発行者の利用条件によります。この件ではSSGAとの契約で名前や画像の使い方が争われていたため、特に慎重な確認が必要でした。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。