2022年8月、ブロックチェーン分析サイトDuneに公開された集計で、大手ブランドのうちNFTで最も多くの収益を上げたのはナイキだと示され、暗号資産の業界で大きな話題になりました。旧版の記事はこの集計を紹介したものですが、タイトルの「Web2デジタル・コレクターズでトップ契約を獲得」は内容と合わず、金額の桁やブランド名にも誤りがありました。
この記事では、当時の数字を正しい形で読み直し、ナイキのNFT事業を支えたRTFKTがその後どうなったのかを2026年までの動きとあわせてまとめます。ブランドが発行するNFTを見るときに、どこに注意すればよいかも考えます。
2022年8月の集計:ブランド別NFT収益の上位5社
米メディアThe Fashion Lawなどによると、この集計はスタンフォード大学の学生がDuneで作成したもので、2022年8月22日ごろに公開されました。イーサリアム上の取引記録をもとに、大手ブランドがNFTの一次販売とロイヤリティで得た収益を並べています。
| 順位 | ブランド | NFT関連の収益 |
|---|---|---|
| 1 | ナイキ | 約1億8,531万ドル |
| 2 | ドルチェ&ガッバーナ | 約2,565万ドル |
| 3 | ティファニー | 約1,262万ドル |
| 4 | グッチ | 約1,160万ドル |
| 5 | アディダス | 約1,090万ドル |
ティファニーの収益は、CryptoPunksの保有者向けに250個だけ販売したNFTによるものでした。ドルチェ&ガッバーナは、約2,565万ドルのうち約2,314万ドルが一次販売、約252万ドルがロイヤリティです。
旧版の記事にあった誤り
旧版は、ナイキを「ニック」と表記し、収益を「18,526百万ドル」と書いていました。これでは185億ドル超になってしまいます。正しくは約1億8,531万ドル、日本円で当時のレートなら約250億円規模です。
ロイヤリティについても、旧版は「合計921,000ドル」としていましたが、24/7 Wall St.などが伝えた集計では約9,221万ドルでした。収益全体のおよそ半分がロイヤリティで、残りの約9,310万ドルが一次販売です。
また、取引件数の約6万7,000件は、ナイキのNFTの二次流通での取引件数を指します。二次流通の取引額は約12.9億ドルと集計されていました。ロイヤリティは、この二次流通の取引額に一定の料率をかけてブランド側に入る仕組みです。
ロイヤリティが収益の半分を占めた理由
NFTのロイヤリティは、作品が転売されるたびに、売買代金の一定割合が発行者に支払われる仕組みです。スマートコントラクトやマーケットプレイスの設定で料率が決まり、発行者は一度売ったあとも収入を得られます。
集計の数字で計算すると、二次流通の取引額約12.9億ドルに対してロイヤリティは約9,221万ドルで、平均するとおよそ7%にあたります。人気のコレクションが高値で何度も売買されたことで、一次販売とほぼ同じ額が転売から入ってきたことになります。
この構造は、取引が盛んな時期には強みになりますが、裏を返せば、市場が冷えて売買が減るとロイヤリティ収入もすぐに減るということです。2022年後半以降、NFT市場全体の取引額は大きく縮みました。ブランドのNFT収益を評価するときは、一度きりの販売額と、市場の熱に左右される転売由来の収入を分けて考える必要があります。
また、ブランド側から見ると、ロイヤリティは自分で価格を決められない収入でもあります。転売の価格や回数はコレクター同士の売買で決まるため、事業計画に組み込みにくいという弱点がありました。
収益の柱はRTFKTだった
ナイキのNFT収益のほとんどは、2021年12月に買収したデジタルスニーカーのブランドRTFKT(アーティファクト)によるものです。RTFKTは、3Dアバターのコレクション「CLONE X」や、デジタルスニーカー「Cryptokicks」などを展開し、熱心なコレクターを抱えていました。
2022年11月には、ナイキ自身も「.SWOOSH」というWeb3の会員向けプラットフォームを立ち上げました。ナイキの発表では、会員がバーチャルのスニーカーやユニフォームなどを学び、集め、将来は共同で作れる場を目指すと説明されていました。
2022年時点のナイキは、ブランドの人気とNFTの二次流通が結びつき、発行後も継続して収入が入る仕組みを作った代表例として語られていました。
その後:RTFKTの運営終了と売却
流れが変わったのは2024年です。RTFKTは2024年12月2日、運営を段階的に終え、Web3のサービスを2025年1月末までに止めると発表しました。発表の少し前にナイキでは新しいCEOが就任しており、主力のスポーツ事業に集中する方針が報じられていました。
2025年4月には、RTFKTのNFTの保有者らが、閉鎖によって大きな損害を受けたとしてニューヨーク州の連邦地裁にナイキを相手取った集団訴訟を起こしました。原告は、NFTが未登録の有価証券にあたると主張し、500万ドルの損害賠償を求めています。これは原告側の主張で、裁判所の判断はまだ示されていません。2026年1月時点の報道でも訴訟は係属中とされ、その後の結論は確認できませんでした。
さらに、ナイキは2025年12月17日にRTFKTを新しい所有者に移したと米メディアに説明しました。買い手の名前や条件は公表されていません。新しい所有者の下で事業が再開されるかどうかも、確認できませんでした。
ブランドのNFTを見るときに知っておきたいこと
ナイキの例は、有名ブランドのNFTでも、発行元の方針が変われば体験や特典が止まりうることを示しています。NFTそのものはブロックチェーン上に残っても、画像の表示、ゲームやアプリとの連携、実物の商品との引き換えといった価値の多くは、発行元が運営を続けることに頼っています。
- 運営の継続性:発行元が事業をやめたとき、特典や表示がどうなるかが規約に書かれているか。
- ロイヤリティの前提:ブランドの収益は二次流通の取引量に左右され、取引が細れば収入も細ります。マーケットプレイスの方針で、ロイヤリティの支払いが任意になる例もあります。
- データの保管場所:画像やメタデータが発行元のサーバーにあるのか、分散型のストレージにあるのか。
- 集計の読み方:Duneのダッシュボードは誰でも作れます。作成者、対象のチェーン、集計期間を確かめてから数字を引用します。
NFTの基本はNFTとは何かで、売却時の課税の考え方はNFTの税金の解説で整理しています。
2022年の数字をいま読む意味
2022年8月の集計は、NFT市場が大きく冷え込む前の勢いを映した記録です。ブランドにとってNFTは、一次販売だけでなくロイヤリティで稼げる新しい売り方として期待されました。
一方で、その後の3年ほどで、大手ブランドのNFT事業は縮小や方向転換が目立つようになりました。当時の順位をそのまま「成功の証明」と読むのではなく、収益がどこから来ていたのか、その流れがなぜ続かなかったのかをあわせて見ることで、ブランドとWeb3の関係を冷静に判断しやすくなります。
日本からも、海外ブランドのNFTはマーケットプレイスを通じて買えることが多いものの、特典のイベントや実物の商品の配送が海外居住者に限られる場合があります。買う前に、特典の対象地域と、運営が止まったときの扱いを利用規約で確かめておくと、あとで困ることが減ります。
よくある質問
Q. ナイキはNFTでいくら稼いだのですか?
A. 2022年8月のDuneの集計では、一次販売とロイヤリティをあわせて約1億8,531万ドルでした。このうち約9,221万ドルがロイヤリティです。これはその時点までの集計で、ナイキが公式に発表した決算の数字ではありません。
Q. RTFKTのNFTは今も使えますか?
A. RTFKTは2025年1月末までにWeb3のサービスを終え、2025年12月に新しい所有者へ移りました。NFTそのものはブロックチェーン上に残りますが、新しい所有者がサービスを再開するかどうかは確認できませんでした。
Q. ナイキに対する訴訟はどうなりましたか?
A. 2025年4月に保有者らが集団訴訟を起こし、2026年1月時点の報道では係属中とされていました。その後の判決や和解は確認できませんでした。訴状の内容は原告側の主張です。
この記事の出典
- The Fashion Law:Nike, D&G, Tiffany Top List of Brands Earning Revenue from NFTs
- 24/7 Wall St.:Nike's NFT Revenue Hits $185M, $92.21M in Just Royalties
- NIKE, Inc.:Nike Launches .SWOOSH
- Hypebeast:Nike Shuts Down Virtual Sneaker Brand RTFKT
- ARTnews:Nike Hit by $5 M. Class Action Lawsuit by Users of Shuttered NFT Platform RTFKT
- The Crypto Times:RTFKT Sold by Nike a Year After NFT Unit Was Shut Down
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




