Fhenixは、暗号化されたデータのまま計算する完全準同型暗号(FHE)を、ブロックチェーンのアプリで利用するための技術を開発している。2023年には700万ドルのシード調達が伝えられたが、投資家の発表には750万ドルという異なる記載もある。
この記事では、当時の資金調達と2026年9月27日に確認した製品の状況を分けて説明する。現在はCoFHEという処理基盤が中心であり、2023年のネットワーク構想をそのまま現在の仕様として紹介することはできない。
700万ドルのシード調達と750万ドルの投資発表
2023年9月26日、Fhenixのシードラウンドについて700万ドルの資金調達が報じられた。2026年9月に確認したFhenixの公式サイトも、Multicoin CapitalやCollider Venturesなどが参加したシード調達を700万ドルと説明している。元記事の「融資」という見出しからは借入金のように読めるが、確認した資料はベンチャー投資家による資金調達として紹介している。
ただし、Multicoin Capitalが2023年9月26日に掲載した投資発表は750万ドルと記載している。Fhenix側の700万ドルという説明とは50万ドルの差がある。公表資料だけでは、集計対象や時点の違いによるものか、記載上の差なのかを解消できなかった。本記事では700万ドルを会社側の説明として示し、投資家側の異なる数値も併記する。
資金調達の目的は、暗号化したデータを扱う開発環境と、その上で動くアプリケーションを育てることだった。調達額は開発に使う資金の規模を表す一方、製品の売上、利用者の利益、安全性の認証を表すものではない。一般向けトークン購入の募集額とも区別して読む必要がある。
完全準同型暗号はデータを暗号化したまま計算する技術
FHEはFully Homomorphic Encryptionの略で、日本語では完全準同型暗号と呼ばれる。平文に戻してから処理する方式と異なり、暗号化された値に対して計算できることが特徴だ。たとえば複数の入力値を公開せずに合計を求め、必要な相手だけが結果を読める仕組みを設計する際に使う。
ただし、「計算中に平文に戻さない」と「誰も結果を復号できない」は別の説明である。利用者が結果を読む場面や、アプリケーションが結果を公開する場面には復号の設計が必要になる。何を暗号化し、誰に計算や復号を許すかによって、守られる情報の範囲が変わる。
Fhenixが取り組んでいるのは、この技術をスマートコントラクトで扱いやすくする基盤だ。EVMはEthereum Virtual Machine、つまりイーサリアム仮想マシンを指す。元記事の「イーサネット仮想マシン」は適切ではない。開発言語Solidityを使えることは、従来と同じデータ公開の設計をそのまま持ち込めるという意味ではない。
暗号化される値があっても、送信元や操作が行われた事実まで必ず隠れるわけではない。機密性を必要とする項目を選び、公開される記録と照らし合わせる作業が残る。
2023年の独自ネットワーク構想から現在のCoFHEへ
2023年の投資発表は、同年7月の非公開devnetと、2024年前半に予定していたRenaissanceという公開テストネットを紹介していた。この日程は当時の計画であり、2026年の新規募集や今後の開始予定として掲載し続けることはできない。
その後のFhenix公式発表には、1,500万ドルのシリーズA調達とHeliumというテストネットが登場する。現在の公式ブログには再掲載・更新された日付も表示されるため、ページ上の更新日だけを資金調達の発生日として扱うのは避けたい。本記事では、後続の資金調達と開発段階が存在することを示す資料として参照する。
さらに、現在の公式サイトはCoFHEを中心に案内している。これは既存のEVM対応チェーン上のスマートコントラクトから、暗号化したデータの計算を外部の処理基盤に依頼するコプロセッサーだ。公式の旧紹介記事にも、現在の製品は別のL2への移行を必要としない構成へ変化したという追記がある。
2026年9月27日の公式サイトでは、Ethereum Sepolia、Arbitrum Sepolia、Base Sepoliaという公開テストネットへの対応と、今後のメインネット展開を説明している。テスト環境で試せることと、本番環境の提供が完了していることは分けて評価する必要がある。
CoFHEでは計算と権限管理を複数の仕組みに分ける
現行の構成図では、アプリ側が入力を暗号化し、チェーン上のコントラクトから計算を要求する。実際の暗号化データの計算はオフチェーンの処理系が担い、結果に対応する記録をチェーン上に残す。すべての重い計算を通常のEVM命令だけで実行する構成ではない。
アクセス権はACLというコントラクトで管理される。公式資料では、特定の暗号化データをどのアカウントやコントラクトが計算に使えるか、誰が復号できるかを記録すると説明する。暗号化データを作るだけで完成するのではなく、そのデータを参照する権限の設計が必要になる。
権限にも違いがあり、一つの取引内だけの許可、特定アカウントへの継続的な許可、全体への公開に相当する許可が説明されている。広い許可を与えれば、機密にしたい値を公開可能にしてしまう設計にもなり得る。導入時には「暗号化したか」だけでなく、「誰が結果を読むのか」を具体的に確認したい。
これらは公開ドキュメントに記された構成の説明である。本記事では実際のコントラクトを配置したり、各権限の挙動を独立した環境で実測したりしていない。
復号の現行仕様は広報上の説明と分けて読む
Fhenixの広報ページには、信頼するハードウェアを必要としないという説明や、復号用ネットワークへの言及がある。一方、2026年9月27日に確認した開発文書は、現在の復号コンポーネントをTeecryptorと呼び、TEEという隔離された実行環境の中で処理すると明記している。
同文書によると、Teecryptorはアクセス権を確認して暗号文を復号する。さらに構成の概要は、入力の証明を確認する処理と復号処理の二つに、現在ハードウェア認証付きのTEEを使っていると説明する。複数当事者で計算するThreshold Networkへの移行は将来計画として記載されている。
この差がある以上、現在のシステム全体について「ハードウェアへの信頼は一切不要」「分散復号への移行は完了した」とは書けない。FHEで暗号化したまま計算できる性質と、結果の復号をどの構成で行うかは別の論点である。ここでは具体的な開発文書の記述を採り、広報との不一致を残したまま明示する。
採用する側は、利用するバージョンの構成、復号を担う仕組み、権限を変更できる主体を確認する必要がある。将来の構想を現在の保証として評価しないことが重要だ。
投票や入札への応用と、導入前に確かめる範囲
Fhenixや投資家は、非公開の投票、入札、ゲーム、金融取引などを応用先として挙げてきた。たとえば投票途中の選択肢や入札額を他の参加者に見せず、必要な時点で結果を扱う設計が考えられる。ただし、こうした用途の紹介は、それぞれの完成済みサービスや導入成果を証明するものではない。
NFTとの関係でも、作品や入札の情報をどう扱うかという基盤技術の話と、NFT商品の価格や流動性の話を分けたい。Fhenixへの資金調達があったことだけで、特定のNFTに価値が付いたり、保有者への利益が生じたりするわけではない。
導入判断では、公開する情報と隠す情報、復号を許す相手、必要な処理時間、テストネットと本番の差を一覧にすると検討しやすい。研究段階の高速化の数字が紹介されていても、アプリ全体の応答時間や本番費用と一致するとは限らない。公式のCoFHE紹介も、復号の研究ベンチマークと実運用の処理性能を区別している。
2023年のニュースの意義は、暗号化データを扱う開発への資金投入にあった。現在を理解するには、調達額の資料差と製品構成の変化を踏まえ、最新の開発文書で何が提供され、何が計画中なのかを確かめる必要がある。
よくある質問
Q. Fhenixは700万ドルの融資を受けたのですか?
A. 会社側は700万ドルのシード資金調達と説明しています。借入金だと確認した資料ではなく、Multicoinの投資発表には750万ドルと記載されているため、金額の差も明記しています。
Q. FHEを使えば取引に関する情報は全部隠れますか?
A. 暗号化する値や復号権限の設計によります。操作した事実など、公開される情報は別途確認が必要です。
Q. CoFHEは本番提供が完了していますか?
A. 2026年9月27日に確認した公式サイトは三つの公開テストネットへの対応と今後のメインネット展開を説明しています。本記事は本番提供の完了や実機での性能を確認していません。
この記事の出典
- Fhenix公式サイト:現在の製品、対応環境、資金調達
- Multicoin Capital:2023年9月26日の投資発表
- Fhenix:旧構想と現在のCoFHEへの更新注記
- Fhenix:シリーズAとHeliumの発表
- CoFHE開発文書:構成の概要
- CoFHE開発文書:ACL
- CoFHE開発文書:Teecryptorと将来の復号構成
- Fhenix:CoFHE紹介と研究値の注意書き
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




