ブラジルでUSDTの取引が多いことは、BTCの人気が落ちたことをそのまま意味しません。税務局の統計は申告された売買金額を集計したもので、利用者の支持率ではないためです。2023年の旧記事を見直し、2026年公表の公式資料で確認できる取引規模と、USDTの仕組みを読む際の注意点を整理します。
ブラジル税務局の数字は何を集計したものか
旧記事は2023年2月に、ブラジルでUSDTの利用が増えたという話を紹介しました。ただし、取引額の増減をそのまま人気の上下と呼ぶと、保有者の人数や購入理由まで調べたように読めてしまいます。ここではブラジル連邦税務局が2026年7月23日に公表した集計を使い、数字が示す範囲を確認します。
この発表が扱うのは、2019年8月から2025年12月までに申告された主要暗号資産の売買取引です。合計約1兆5,800億レアルのうち、ステーブルコインは約1兆1,300億レアル、71.7%を占めたとしています。全世界の取引高でも、ブラジル国民の資産残高でもありません。
取引額は、ある期間に売買された金額を積み上げる指標です。同じ資金で売買が繰り返されれば、その都度金額が加わります。期末にいくら保有されているかを示す残高とは異なるため、申告取引額をそのまま国内に蓄積された資産の額として扱うこともできません。
また、これは税務当局に報告された範囲のデータです。統計に現れない活動まで完全に捉えた人口調査ではありません。記事の見出しを読む際にも、「何が取引されたか」と「誰がどれほど支持しているか」を分ける必要があります。
USDTの88.7%はステーブルコイン内の構成比
同じ発表によると、調査期間のステーブルコイン取引額に占めるUSDTの割合は88.7%でした。ここでの分母はステーブルコインであり、暗号資産全体ではありません。ブラジルの利用者の88.7%がUSDTを持つ、あるいは全取引の88.7%がUSDTだという意味にはなりません。
分母の違いは比較結果を大きく変えます。例えば、ある分類が全体の半分を占め、その分類の中で一つの商品が80%を占める場合、商品の全体に対する割合は40%です。これは数字の読み方を説明する仮の例ですが、記事中の比率を引用するときにも同じ確認が必要です。
さらに、長期間の累計比率と単月の比率は違います。数年を合計した結果は、2026年9月の最新月の構成を示すものではありません。集計が公表された日が新しくても、収録された取引の日付はそれより前ということがあります。
税務局の資料は、USDTが申告取引の中で大きな役割を持つことの根拠になります。一方、その比率だけからBTCの利用者がUSDTへ一斉に乗り換えたと断定することはできません。同じ利用者が両方を売買している可能性も、金額の集計だけでは区別できないからです。
取引額が増えることと値上がり期待は別
USDTは米ドルとの連動を目指すステーブルコインです。BTCやETHと同じ意味で、価格上昇を期待して保有されていると一括りにするのは適切ではありません。何のために使ったかを判断するには、金額以外に利用目的を確かめる資料が必要です。
例えば、値動きする暗号資産の売却代金を一時的に置く場合と、送金に使う場合では、同じUSDTの移動でも目的は異なります。こうした用途は考えられますが、今回の集計が個々の利用者の動機を調べたわけではありません。「投機を好む国民性」などへ話を広げる根拠にはなりません。
取引金額をレアルなどの通貨で表示する場合には、売買数量だけでなく換算価格も関係します。数量が同じでも単価が違えば金額は変わります。異なる銘柄の金額を比較するときには、売買の活発さと価格の変化を同じものとして解釈しないことが大切です。
旧記事のUSDTが58%増、BTCとETHが60%以上減という数字は、今回確認した一次資料で当時の計算条件を十分に再現できませんでした。そのため確定値として再掲せず、出所と対象期間を明示できる公式集計を紹介しています。減少率を確認できないことと、減少がなかったと証明することは別です。
「1USDTごとに銀行へ1ドル」とは限らない
旧記事は、USDTを一つ発行するたびに銀行口座で1ドルが保護され、利用者がいつでも同額の米ドルへ交換できると説明していました。しかし、Tetherの現行規約は準備資産を現金、現金同等物、その他の資産などで構成するとしています。全額を銀行の現金預金だけで保有するという説明ではありません。
発行元への直接償還にも条件があります。公式料金表の最低額は10万米ドル相当で、償還手数料は1,000ドルと償還額の0.1%のうち高い方です。規約上、発行や償還を利用するには確認済みの顧客である必要があります。少額の保有者が無条件でいつでも直接換金できる仕組みとは異なります。
取引所でUSDTを売却することと、Tetherに直接償還を請求することも別の取引です。前者で受け取る金額は利用する市場の価格や費用に関係し、後者は発行元が定める資格と手続きに従います。ドル連動を目指す設計だけで、両方の換金条件が同じになるわけではありません。
この記事では準備資産の安全性を独自に監査したわけではなく、発行元が公表した条件を説明しています。ブラジルで多額の取引が申告されていることも、個人の損失が補償されるという意味ではありません。利用規模と償還条件は、別々に確認する項目です。
2022年の法律と2026年の申告制度を区別する
ブラジルの制度については、法律の成立、監督機関の指定、取引情報の申告を一つの出来事にまとめないことが重要です。ブラジル証券取引委員会の2023年6月の説明は、法律14,478号に基づき、政令11,563号で中央銀行を暗号資産サービスの規制当局として指定したとしています。証券に当たるものについては同委員会の権限が残ります。
一方、税務局が2026年7月の発表で説明したDeCriptoは、暗号資産の取引情報を報告する枠組みです。同年7月以降の取引が新しい方式の対象になると案内しています。取引業者の許認可と、税務上の情報報告は目的が異なるので、片方の説明をもう片方の承認と読むことはできません。
統計を継続して見る際も、報告制度が変わる時期には注意が必要です。対象となる事業者や把握できる取引の範囲が変われば、集計値の動きには制度の影響も含まれ得ます。制度変更の前後で数字が増えたとしても、その全てを利用者の増加として説明するには追加の検証が必要です。
ここで紹介しているのは制度と集計の背景です。個別の取引が合法か、特定の事業者にどの資格があるか、読者に申告義務があるかを判定する内容ではありません。ブラジルの統計から日本での取扱条件が分かるわけでもありません。
旧記事に混在していた予測をどう見直したか
旧記事にはブラジルの利用状況のほか、米国の投資商品の資金流出入、CPIの予測、BUSDに関する規制の話が続いていました。しかし、それらは対象地域も集計の単位も異なります。週次の投資商品フローを、ブラジルの年間売買取引額を説明する直接の根拠にはできません。
また、2023年から2027年まで年率15.25%で収入が増えるという予測を、税務局の発表として裏付ける一次資料は今回確認できませんでした。将来の市場収入の予測と、過去に申告された取引の実績は別の種類の情報です。出所を確認できない予測を公的機関の見解として残すことは避けています。
このニュースから読み取れるのは、一定の期間に申告された取引金額ではステーブルコイン、とりわけUSDTの存在が大きかったということです。BTCの将来価格やUSDTの安全性を順位付けする材料ではありません。以後の変化を追う場合は、同じ期間、同じ分母、同じ報告範囲の数字を比較する必要があります。
よくある質問
Q. USDTの88.7%とは利用者の割合ですか?
A. 違います。2019年8月から2025年12月の申告されたステーブルコイン取引額に占めるUSDTの割合です。全暗号資産や保有者数の比率ではありません。
Q. USDTは誰でも発行元で1ドルに換金できますか?
A. 直接償還には顧客確認、最低額、手数料などの条件があります。市場での売却とも異なるため、無条件の換金を保証するものではありません。
Q. このデータでBTCの人気低下を判断できますか?
A. 取引額だけでは利用者数や動機を特定できません。価格や報告範囲にも左右されるため、人気の上下と結び付けるには別の調査が必要です。
この記事の出典
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




