Cosmos(コスモス)は、目的ごとに作られた多数のブロックチェーンを、IBC(Inter-Blockchain Communication)という共通の通信規格でつなぐエコシステムです。IBCはもともとトークンのやり取りに使われてきましたが、2022年、NFTも同じようにチェーン間で移せるようにする規格「ICS-721」が注目を集めました。
旧版の記事は英語の解説記事を訳したもので、脚注の番号がそのまま残り、開発者の名前も直訳になっていました。この記事では、ICS-721とNFTモジュール「x/nft」の仕組みを整理し直し、2023年のテストから本番への導入、2026年時点での位置づけまでをまとめます。
ICS-721とx/nftの役割
Cosmosでは、ブロックチェーンを作るための開発キット「Cosmos SDK」に、機能ごとの部品(モジュール)が用意されています。NFTに関しては、二つの要素が組み合わさっていました。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| x/nft | チェーンの中でNFTを発行・移転・更新・検索するためのモジュール。イーサリアムのNFT規格ERC-721と互換性を持つよう設計された |
| ICS-721 | IBCでつながった二つのチェーンの間で、NFTを移すための手順を定めた規格。データの形式や処理の流れを決める |
x/nftが「チェーンの中でNFTを扱う部品」、ICS-721が「チェーンの外へNFTを送るための約束ごと」と考えると分かりやすいでしょう。
ICS-721の仕様書はGitHubで公開されており、作成者は中国のブロックチェーン企業Bianjie(边界智能)のHaifeng Xi氏です。旧版が「Border Intelligence」と書いていたのは、この社名を英語に直訳したものです。仕様の作成は2021年11月10日で、2022年12月15日に更新されています。
NFTはどのようにチェーンを移るのか
ICS-721は、トークンを移すための既存の規格ICS-20の考え方を土台にしています。基本の流れは次のとおりです。
- チェーンAの利用者がNFTを送ると、元のNFTはチェーンAの上で預かり(エスクロー)の状態になり、動かせなくなる。
- IBCを通じて、NFTの情報がチェーンBに届く。
- チェーンBでは、元のNFTを表す新しいNFTが発行される。どの経路を通ってきたかは、クラスIDに記録される。
- チェーンBからチェーンAへ戻すときは、チェーンBのNFTを焼却し、チェーンAで預かっていた元のNFTの預かりを解く。
仕様書は、設計の目標として、IBCでつながったチェーン全体でNFTが同時に1つしか有効にならないこと、許可を得なくても送れること、どちらのチェーンも同じ処理を行うこと、悪意のあるチェーンが他のチェーン由来のNFTを勝手に作り出せないようにして被害を封じ込めることを挙げています。
2022年当時に期待されたこと
旧版が紹介していた解説では、クロスチェーンNFTの利点として次の点が挙げられていました。
- 利用者:あるチェーンで発行したNFTを、別のチェーンのマーケットプレイスで売ったり、別のチェーンの機能を使ったりできる。
- 開発者:一つのチェーンに閉じずに、ほかのチェーンの利用者にもNFTを届けられる。
- エコシステム:NFTに関するやり取りがIBCの上で増え、Cosmos全体が活発になる。
一方、旧版には「NFTの取引高は2028年に1,224億ドルに達する」といった調査会社の予測や、特定のNFTの落札価格も並んでいました。予測は前提によって大きく変わるもので、2022年の予測がそのまま実現しているわけではありません。この記事では、予測の数字は扱いません。
その後:テストネットの競技から本番への導入へ
ICS-721の試験で注目されたのが、NFTの実装方式が異なるチェーンの組み合わせです。IRISnetはCosmos SDKのモジュールでNFTを扱い、Stargazeはスマートコントラクトの仕組みでNFTを扱っていたため、方式の違うチェーンの間でも移せるかどうかが確かめるべき点になっていました。
2023年2月15日には、ICS-721を実際に試すための競技「Game of NFTs」の参加登録が始まりました。CryptoSlateの報道によると、第1段階は3月1日から約1か月のテストネットでの競技で、賞金として2万ATOMが用意され、IRISnet、Stargaze、Juno、OmniFlix、Uptickなどのチェーンが参加しました。第2段階はアプリ開発のハッカソンと案内されていました。
IRISnetは2023年4月17日にメインネットを2.0に更新しましたが、公開された手順書に記された主な変更はイーサリアム互換の実行環境(EVM)の導入で、NFTをチェーン間で送る機能には触れていませんでした。その機能は、2024年1月8日に実施された2.1への更新で、NFTを送るためのモジュールとして組み込まれたと報じられています。Game of NFTsでの試験と監査を経て、本番のチェーンに入るまでに約1年かかった計算です。
スマートコントラクトの仕組み「CosmWasm」の上でICS-721を動かす実装も開発されました。Stargazeの開発者らが始めたもので、その後はArk Protocolが中心になって保守を続けています。
2026年時点の位置づけ
2026年9月時点で、Cosmos SDKの公式ドキュメントは、x/nftモジュールについて「contribディレクトリに移され、Cosmos SDKの中核としては積極的に保守されていない」と説明しています。つまり、SDKの標準部品として広く使われる形にはならず、使いたいチェーンが自分で面倒を見る扱いになりました。
ICS-721の仕様書は、GitHub上で「Draft(草案)」の段階のままで、最終更新は2022年12月でした。規格として完全に固まったとはいえない一方、CosmWasmの実装を通じて、一部のチェーンの間ではNFTを移す仕組みが使われています。
2022年に期待されたような、Cosmos全体でNFTが自由に行き来する状況が実現したかどうかは、利用の規模を示す一次データを確認できず、判断できませんでした。
クロスチェーンNFTを使うときのリスク
チェーン間でNFTを移す仕組みには、便利さと引き換えのリスクがあります。
- 移転先のNFTは「表現」:送った先で受け取るのは、元のNFTを表す別のNFTです。元のチェーンで預かっている仕組みに問題が起きると、移転先のNFTの裏付けが失われるおそれがあります。
- 情報が引き継がれるとは限らない:画像などの情報やロイヤリティの設定が、移転先のマーケットプレイスで同じように扱われるとは限りません。
- 対応している場所が少ない:移転先のチェーンでそのNFTを扱うマーケットプレイスやウォレットが少ないと、送っても使い道がありません。
- 手数料:送るたびに両方のチェーンで手数料がかかります。考え方はガス代とはで解説しています。
IBCは、第三者の運営する橋渡し役に資産を預ける方式のブリッジと比べ、チェーン同士が互いの状態を検証する方式をとる点が特徴です。それでも、使うチェーンやコントラクトに不具合があれば影響を受けます。NFTの基本はNFTとは何か、ほかのクロスチェーンの取り組みはEspresso NFTの記事も参考になります。
よくある質問
Q. ICS-721とは何ですか?
A. Cosmosのチェーン同士をつなぐIBCの上で、NFTを別のチェーンへ移すための手順を定めた規格です。送り元でNFTを預かり、送り先でそれを表す新しいNFTを発行する仕組みです。
Q. x/nftモジュールは今も使われていますか?
A. Cosmos SDKの公式ドキュメントでは、x/nftはcontribに移され、中核としては積極的に保守されていないと説明されています。使うかどうかは各チェーンの判断に委ねられています。
Q. イーサリアムのNFTをICS-721でCosmosに送れますか?
A. ICS-721はIBCでつながったチェーンの間の規格です。イーサリアムはIBCに直接つながっていないため、そのままでは使えません。別のブリッジを介する必要があり、そのブリッジのリスクも加わります。
この記事の出典
- GitHub cosmos/ibc:ICS 721 Non-Fungible Token Transfer
- Cosmos Docs:x/nft
- CryptoSlate:Cosmos ecosystem to launch interchain NFTs via $270K incentivized testnet
- GitHub irisnet/mainnet:IRIS Hub v2.0.0 upgrade
- cryptonews.net:IRISnet Mainnet 2.1 Upgrade Brings Interchain NFTs in 2024
- GitHub arkprotocol:ark-cw-ics721
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




