WeChatが暗号資産・NFTの公式アカウントを禁止(2022年6月)|中国規制のその後

2022年6月、テンセントが運営する中国のメッセージアプリ「WeChat(微信)」は、公式アカウント(企業や個人が情報を配信するためのアカウント)の運営ルールを改め、暗号資産やNFTの発行・取引・資金調達に関わるアカウントを機能制限や永久停止の対象にしました。

旧版の記事はこの出来事を短く伝えていましたが、利用者数や処分の内容に誤りがありました。この記事では、規約改定で何が変わったのかを報道で確かめ直し、その背景と、2026年までに中国の規制がどう進んだのかをまとめます。

何が起きたか:公式アカウントの運営ルールを改定

Cointelegraphは2022年6月21日、WeChatが公式アカウント向けの規則を更新したと報じました。対象になったのは、暗号資産やNFTの発行、売買、資金調達にかかわるサービスや情報を提供するアカウントです。中国で「デジタル収蔵品(数字藏品)」と呼ばれるNFTについても、二次流通、つまり購入者どうしの転売に関わるサービスや情報を扱うアカウントが処分の対象に含まれました。

英The Registerの報道によると、暗号資産の取引についての発信や、暗号資産と法定通貨の交換、暗号資産の価格情報の提供なども禁止される行為として挙げられています。違反が見つかった場合、WeChatは違反の重さに応じて期限を決めて是正を求め、アカウントの一部機能を制限し、最終的には永久に停止するという段階的な対応を取るとしました。

WeChatの公式アカウントは、中国では企業の広報、ニュースの配信、ネットショップへの誘導などに広く使われる基本的な情報インフラです。そこから暗号資産やNFTの売買に関わる発信を締め出すことは、国内での情報の流れを大きく細らせる意味を持っていました。

旧版の記事からの訂正

旧版の記事は、WeChatの利用者を「約1億人」と書いていましたが、これは桁が違います。報道では1日あたりの利用者が中国国内で11億人を超えるとされ、テンセントの決算資料でもWeChatの月間利用者は2022年時点で約13億人規模に達していました。

また、見出しや本文の「暗号化」という言葉は、中国語の「加密貨幣(暗号資産)」を機械的に訳したものと考えられます。今回の規則が対象にしたのは通信の暗号化ではなく、暗号資産とNFTに関わる情報発信です。

さらに旧版は「現時点では検索結果への表示を制限するだけ」と説明していましたが、実際の規則は是正命令、機能制限、永久停止という段階的な処分を定めたものでした。検索での表示を抑えるだけの措置ではなかった点を訂正します。

背景:2021年の全面禁止とデジタル収蔵品の過熱

中国本土では、2021年9月に中国人民銀行をはじめとする複数の当局が連名で通知を出し、暗号資産の取引や関連サービスをすべて違法な金融行為と位置づけました。海外の取引所が国内の利用者向けにサービスを提供することも禁じられ、同年には暗号資産のマイニング(採掘)も締め出されています。

一方で、暗号資産を使わず人民元で買える「デジタル収蔵品」は、2021年から2022年前半にかけて急速に広まりました。Cointelegraphの記事によれば、中国国内のデジタル収蔵品プラットフォームは500を超え、2022年2月からの数か月で約5倍に増えていたとされます。転売で利益を狙う購入者が集まり、当局は投機の過熱を警戒していました。

WeChatの動きはこの規則改定が最初ではありません。サウスチャイナ・モーニング・ポストは2022年3月31日、デジタル収蔵品を宣伝していた公式アカウントが少なくとも十数件、約2週間にわたって凍結されていると報じています。WeChat側は、デジタル収蔵品の投機や転売を行うアカウントやミニプログラムを是正したと説明していました。6月の改定は、こうした個別の対応を規則として明文化したものと見ることができます。

その後どうなったか:大手の撤退と2026年の新通知

2022年4月には、金融関係の3つの業界団体が共同で、NFTを金融商品のように扱ったり投機をあおったりしないよう会員企業に求めました。6月にはテンセントやアント・グループなどの大手も、デジタル収蔵品の二次流通を扱わないとする自主規制の取り決めに加わったと伝えられています。テンセントは2022年8月16日、自社のデジタル収蔵品の販売アプリ「幻核」で一般向けの新規販売をやめました。

暗号資産そのものへの姿勢も緩んでいません。中国人民銀行は2025年11月28日に関係当局との会議を開き、暗号資産に関連する事業は違法な金融活動であることを改めて確認しました。このとき、ドルなどに価値を連動させたステーブルコインも暗号資産の一種として取り締まりの対象になると明言しています。

さらに2026年2月6日には、中国人民銀行など8つの当局が暗号資産のリスクに関する新しい通知を出し、2021年の通知に代わる枠組みを示しました。法律事務所の解説によると、この通知は国内での現実資産のトークン化(RWA)を原則として違法とし、インターネット上のプラットフォームに対して、暗号資産やRWAの取引の場や宣伝を提供するアカウントを停止するよう求めています。2022年にWeChatが自主的に定めたルールが、国の規制として一段と強く位置づけられた形です。

SNSの規制がなぜ効くのか

中国では、多くの人がWeChatひとつでメッセージのやり取り、ニュースの閲覧、支払い、ミニプログラムを使った買い物まで済ませています。暗号資産やNFTの事業者にとって、公式アカウントは新しい利用者を集めるための主要な窓口でした。

その窓口が閉じられると、すでに関心を持つ人どうしがやり取りを続けることはできても、新たに興味を持つ人に情報が届きにくくなります。旧版の記事もこの点を指摘していましたが、実際に中国本土の事業者は、国内向けの広告や集客をほぼ行えなくなりました。

メッセージアプリが決済機能まで持つ「スーパーアプリ」の仕組みについては、WeChatの成長から学べることを取り上げたTONの記事でも解説しています。便利な仕組みである一方、ひとつのアプリが情報の入口を握ると、運営方針ひとつで業界全体の見え方が変わることを示した例と言えます。

香港との違い:同じ中国でも扱いは別

中国本土と異なり、香港は独自の金融制度のもとで暗号資産の取引を認めています。2023年6月からは、個人投資家向けの暗号資産取引所に免許を与える制度が動き出し、2025年には法定通貨に連動するステーブルコインの発行者にも免許制が導入されました。

ただし、本土の新しい通知は、国外の事業者が中国本土の利用者に無許可でサービスを提供することも禁じています。香港で合法に運営されている事業者であっても、本土の住民を相手に宣伝や勧誘を行うことは認められていません。

人民元に連動するステーブルコインをめぐる香港の動きは、中国初の人民元ステーブルコイン認可についての解説にまとめています。本土の規制強化と香港の制度整備が同時に進んでいる点は、中国の暗号資産政策を理解するうえで欠かせない視点です。

日本の読者が知っておきたいこと

日本では、暗号資産の売買は資金決済法にもとづいて金融庁に登録した暗号資産交換業者を通じて行えます。NFTの売買も禁止されていません。中国本土の規制が日本の利用者に直接及ぶことはありませんが、中国の事業者や中国語圏のコミュニティが関わるプロジェクトでは、事業の継続性に影響が出る可能性があります。

注意したいのは、WeChatなどのメッセージアプリを使った投資の勧誘です。規制の外にある海外の業者が、グループチャットで「必ず値上がりする」「代わりに購入する」と持ちかける手口は日本でも報告されています。日本で登録を受けていない業者が国内の利用者に暗号資産の交換サービスを提供することは認められておらず、トラブルが起きても救済を受けにくくなります。

取引を始める前には、金融庁の登録業者一覧で相手を確かめること、知らない相手から送られてきたリンクを開かないことが基本です。中国の規制動向は、中国の規制強化とビットコイン相場を扱った記事でも取り上げています。

よくある質問

Q. WeChatはいつ暗号資産・NFT関連のアカウントを禁止したのですか?

A. 2022年6月中旬に公式アカウントの運営ルールを改め、6月21日ごろから海外メディアが一斉に報じました。それ以前の2022年3月にも、デジタル収蔵品を宣伝する十数件のアカウントが凍結されていました。

Q. 違反したアカウントはすぐに停止されるのですか?

A. 規則では、違反の程度に応じて期限つきの是正命令、一部機能の制限、永久停止という段階的な対応を取るとされていました。検索での表示を抑えるだけの措置ではありません。

Q. 中国の規制はその後緩和されましたか?

A. 緩和されていません。2025年11月には中国人民銀行がステーブルコインも取り締まり対象だと明言し、2026年2月には8つの当局による新しい通知でRWAのトークン化まで規制の範囲が広がりました。

Q. 日本に住む人がWeChatで暗号資産の勧誘を受けたらどうすればよいですか?

A. 相手が金融庁に登録された暗号資産交換業者かどうかを確かめ、登録がない場合は取引しないことをおすすめします。送金を求められたり、代理購入を持ちかけられたりした場合は、消費生活センターなどに相談してください。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。