ロレックスのNFT・メタバース商標出願|2022年の中身と2026年の審査状況

2022年11月、高級時計ブランドのロレックスが、NFTやメタバース(仮想空間)、暗号資産に関わる商品・サービスを対象に、米国で商標を出願していたことが話題になりました。旧版の記事は、これを「ロレックス、メタバース&NFTに進出」と伝えていました。

しかし、商標の出願は「将来その分野で名前を使う可能性に備えて権利を確保する」手続きで、事業に乗り出したことを意味するわけではありません。この記事では、米国特許商標庁(USPTO)の記録をもとに出願の中身を確かめ、旧版の誤りを正したうえで、2026年時点で手続きがどこまで進んでいるのか、ブランドがこうした出願をする理由は何かを整理します。

出願の中身:いつ、何を対象にしたのか

USPTOの記録によると、出願したのはロレックスの米国法人Rolex Watch U.S.A., Inc.です。出願日は2022年10月31日、商標は文字の「ROLEX」で、出願番号は97655284です。

対象として指定された区分は、第9類、第14類、第28類、第35類、第36類、第38類、第41類、第42類、第45類の9つにわたります。報道や記録をまとめると、主に次のような商品・サービスが含まれていました。

  • 暗号資産を管理するウォレットのソフトウェアや、ブロックチェーン・仮想空間向けのソフトウェア
  • NFTによって裏付けられたデジタルの画像や動画などのメディア
  • 仮想の時計などを扱うオンラインのオークションやマーケットプレイス
  • 暗号資産・仮想通貨の交換や取引に関するサービス

区分は、商標がどの商品・サービスに使われるかを示す国際的な分類です。時計そのものは第14類に入りますが、ダウンロードできるデジタル商品やソフトウェアは第9類、ゲームやおもちゃは第28類、小売やオンラインの売買の場は第35類、金融や暗号資産の取引は第36類、通信は第38類、娯楽の提供は第41類、ソフトウェアの提供は第42類に当たります。9つの区分をまとめて指定したことからは、現実の時計の権利だけではカバーできない範囲を、幅広く押さえておこうとする意図が読み取れます。

出願は「使用意思(Intent to Use)」にもとづくもので、出願の時点ではまだ実際に使っていない商品・サービスについて、将来使う意思があるとして権利を求める方式です。

旧版の記事の訂正

旧版の記事には、いくつか正しくない点がありました。

  • 情報を発信した人物:旧版は、出願を伝えたMike Kondoudis氏を「ロレックスの米国特許商標庁の商標ライセンス弁護士」と紹介していましたが、同氏はロレックスの代理人ではありません。企業のNFT・メタバース関連の商標出願を調べてSNSで発信していた米国の商標弁護士です。
  • 「進出」という表現:出願は事業開始の発表ではありません。ロレックス自身がNFTやメタバースへの参入を公式に表明した事実は、今回の調べでは確認できませんでした。
  • 出願件数の数字:旧版は「メタバースとNFTの商標の出願件数がそれぞれ4,997件、6,855件」と書いていました。この数字自体はKondoudis氏の集計と一致しますが、2022年10月末までの累計です。

また旧版は、ロレックスが「オンラインゲームのバーチャルグッズの開発を呼びかけた」とも書いていましたが、そうした呼びかけの裏付けは見つかりませんでした。

2022年は企業のNFT関連出願が急増した年

Kondoudis氏がUSPTOのデータをもとにまとめた数字によると、2022年1月から10月までの出願件数は次のとおりでした。

分野 2021年(通年) 2022年(10月まで)
NFT 2,142件 6,855件
メタバース 1,890件 4,997件
暗号資産 3,547件 4,708件

同じ時期には、化粧品チェーンのUltaなども仮想のメイク用品などで出願しており、ロレックスだけが特別だったわけではありません。一方で、月ごとの出願は2022年の1〜3月が最も多く、秋にはすでに減り始めていたことも指摘されていました。NFTの取引額が落ち込む中で、企業の関心も落ち着きつつあったことがうかがえます。

2026年の審査状況:許可通知の後、使用の証明を延長中

USPTOの記録をたどると、手続きは次のように進んでいます。

日付 手続き
2022年10月31日 出願
2023年3月31日 審査官からの最初の通知(拒絶理由などの指摘)
2024年9月10日 異議申し立てのための公告
2024年11月5日 許可通知(Notice of Allowance)
2025年2月、10月 使用証明の提出期限の延長が認められる
2026年3月3日 3回目の延長が認められる

使用意思にもとづく出願では、許可通知を受けても、そのままでは登録になりません。実際に商品やサービスに商標を使い始めたことを示す「使用証明(Statement of Use)」を出して、初めて登録されます。提出期限は許可通知から6か月で、延長を重ねても通知から最長3年までと定められています。2026年9月時点でロレックスは使用証明を出しておらず、この出願は登録されていません。延長を続けていることから、権利を手放してはいないものの、実際の商品・サービスはまだ始まっていないと読み取れます。

ブランドはなぜ使う予定の薄い分野でも出願するのか

高級ブランドがNFTや仮想空間の商標を出願する理由として、よく挙げられるのは次の点です。

  1. 便乗や模倣を防ぐ:仮想空間で他人がブランド名を使った偽の時計を売ることに備え、権利の範囲を広げておく。
  2. 将来の選択肢を残す:実際に事業を始めるかどうかは別として、始めるときに名前が使えない事態を避ける。
  3. 既存の区分では守りにくい:現実の時計(第14類)の権利だけでは、ダウンロードできるデジタル商品や仮想空間のサービスを十分に守れない可能性がある。

高級ブランドの中には、実際にNFTを販売したり、NFTの表示機能を製品に組み込んだりした例もあります。当サイトではエルメスの商標出願の記事や、タグ・ホイヤーのスマートウォッチでNFTを表示する機能の記事も扱っています。

読者が知っておきたいこと

ロレックスは1905年にロンドンで、ハンス・ウィルスドルフ氏とアルフレッド・デイビス氏の共同事業として始まった時計ブランドです。長い歴史を持つブランドほど偽物が出回りやすく、名前の管理には慎重です。今回の出願も、その延長線上で理解するのが自然でしょう。

一方で、SNSやNFTマーケットプレイスでは、有名ブランドの名前やロゴを使った「公式」をうたうNFTが出回ることがあります。ロレックスは2026年9月時点で公式のNFTを販売していないため、「ロレックス公式NFT」をうたう販売や配布には注意してください。見分けるときは、ブランドの公式サイトや公式アカウントで告知されているかを必ず確かめましょう。

なお、商標の権利は国ごとに発生します。米国で出願していても、日本で同じ範囲の権利があるとは限りません。日本で仮想の商品やNFTに関わる名前を守りたい場合は、特許庁への出願で、ダウンロード可能な画像や仮想空間での商品の提供などを指定する必要があります。自分でNFTを発行する作り手も、他社のブランド名を作品名や説明文に使うと権利の侵害を問われるおそれがあるため注意が必要です。

よくある質問

Q. ロレックスはNFTを販売していますか?

A. 2026年9月時点で、ロレックスが公式にNFTやメタバースの商品を販売したという発表は確認できませんでした。「ロレックス公式」をうたうNFTには注意が必要です。

Q. ロレックスの商標出願は認められたのですか?

A. USPTOは2024年11月5日に許可通知を出しましたが、登録には実際の使用を示す使用証明の提出が必要です。ロレックスは提出期限の延長を重ねており、2026年9月時点で登録には至っていません。

Q. 商標を出願すると、その事業を必ず始めるのですか?

A. いいえ。使用意思にもとづく出願は、将来使う可能性に備えて権利を確保する手続きです。ブランドを守る目的で幅広く出願し、実際には事業を始めない場合もあります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。