バイナンスがFTX買収を撤回した日|2022年11月の経緯と弁済の現在地

2022年11月8日、世界最大級の暗号資産取引所バイナンスは、資金繰りに行き詰まったライバルのFTXを買収する方向で合意したと発表しました。ところが翌9日、バイナンスは一転して買収を追求しないと表明します。旧版の記事は、この撤回のニュースと、その後のビットコインの急落を伝えたものでした。

買収の撤回から2日後、FTXは米国で破産手続きを申し立て、暗号資産の歴史に残る破綻となりました。この記事では、撤回に至る1週間の流れを日付つきで確かめ、旧版の記述を正したうえで、創業者の刑事裁判、債権者への弁済の進み具合、日本の利用者の資産がどう扱われたのかを、2026年9月時点の情報で整理します。

撤回までの1週間

日付(2022年) 出来事
11月2日 FTX創業者が率いる投資会社アラメダ・リサーチの資産の多くが、FTXの発行するトークンFTTだったと報じられる
11月6日 バイナンスのCEOが、保有するFTTを売却すると表明。FTXから顧客資金の引き出しが相次ぐ
11月8日 FTTが1日で約80%下落。バイナンスがFTXの国際部門FTX.comを買収する方向の意向表明書(拘束力なし)を結んだと発表
11月9日 バイナンスが買収を追求しないと表明
11月11日 FTXと関連会社約130社が米デラウェア州で連邦破産法11条の適用を申請

バイナンスの広報担当者は9日、「企業のデューデリジェンス(資産や経営の精査)の結果、そして顧客資金の不適切な取り扱いや米当局による調査の疑いに関する最新の報道を踏まえ、FTX.comの買収を追求しないことを決めた」と説明しました。問題は「私たちが制御したり助けたりできる範囲を超えている」とも述べています。

旧版の記事の訂正

旧版の記事には、確認できない記述や不正確な点が含まれていました。

  • 「FTXが2.1ドルまで下落」:下落したのはFTXという会社ではなく、FTXが発行していたトークンFTTです。CoinDeskは撤回の報道を受けてFTTが32%下がり、約2.41ドルになったと伝えています。
  • 「バイナンスは顧客の損失を一部補填するつもりだった」:バイナンスが顧客の損失を穴埋めする計画を示したという公式の発表は確認できませんでした。意向表明書の段階で、条件は公表されていません。
  • 「米国の規制当局が規制強化を発表」:撤回の時点で、特定の当局が規制強化を正式に発表した事実は確認できませんでした。その後、米司法省や米証券取引委員会(SEC)などが相次いで捜査や提訴に動いています。

ビットコインについての「1万6,000ドルまで下落」という記述はおおむね正確で、11月9日の価格は1万6,000ドル前後まで下がりました。

創業者の裁判:禁錮25年

FTXの創業者サム・バンクマン=フリード氏は、破綻後に米国で詐欺などの罪で起訴されました。2023年11月2日、ニューヨークの連邦地裁の陪審は、7つの罪状すべてで有罪と判断しています。米司法省によると、2024年3月28日には禁錮25年と、約110億ドルの没収が言い渡されました。

同氏は判決を不服として控訴しましたが、2026年6月には連邦控訴裁判所が有罪判決を支持したと報じられています。検察の主張の核心は、FTXの顧客が預けた資金がアラメダ・リサーチに流れ、投資や借入の返済、政治献金などに使われていたという点でした。「取引所に預けた資産は、取引所が勝手に使わない」という利用者の前提が崩れていたことが、破綻の本質だったと言えます。

一方、買収を撤回したバイナンスも、2023年11月21日に米国の制裁法やマネーロンダリング対策の違反を認め、43億ドル規模の解決に応じました。創業者のチャンポン・ジャオ(CZ)氏は有罪を認めて禁錮4か月の刑を受け、2024年9月に釈放されています。同氏は2025年10月、トランプ大統領から恩赦を受けました。

債権者への弁済:2025年2月に開始

破産手続きの中で、FTXの管財人側は各地に散った資産の回収を進めました。2024年10月に裁判所が再建計画を認め、2025年2月18日から債権者への支払いが始まっています。

FTXの発表によると、2026年7月31日の5回目の支払い(約9億ドル)を終えた時点で、累計の弁済率は、少額の債権者で120%、FTX.comと米国の顧客の債権で105%、一般の無担保債権で103%に達しました。

ただし、この「100%超」には注意が必要です。債権の額は、原則として破産申し立て時点(2022年11月)の暗号資産の価格で米ドルに換算されています。その後ビットコインなどの価格は大きく上がったため、当時預けていた暗号資産を今の価格で見た価値と比べると、受け取る金額は下回る場合が多いのです。支払いを受けるには、指定された業者での本人確認や税務書類の提出も必要です。弁済の詳しい流れはFTX返金の最新動向の記事にまとめています。

日本の顧客はどうなったか

FTXには日本法人のFTX Japanがあり、国内の登録業者として営業していました。親会社の破綻を受けて出金が止まりましたが、2023年2月21日から、国内の取引所Liquid Japanのサービスを通じて、日本円と暗号資産の出金が再開されました。

これが可能だったのは、日本の資金決済法が、交換業者に顧客の資産を会社の資産と分けて管理する「分別管理」を義務づけているためです。顧客から預かった暗号資産の大部分をネットワークから切り離したコールドウォレットなどで保管し、預かった日本円は信託で保全する仕組みがあったことで、海外の親会社が破綻しても国内顧客の資産は区別されていました。

この経験は、取引所を選ぶときに「どの国の、どの法律のもとで資産が守られるのか」を確かめる重要性を示しています。仕組みの詳細は取引所が破綻したときの資産保護の記事で解説しています。

この事件から学べること

FTXの破綻から、暗号資産を扱う人が今も確かめておきたい点を挙げます。

  • 取引所が発行するトークンに注意する:FTTのように、取引所が自ら発行するトークンを担保や資産として多く抱えている場合、信用が揺らぐと一気に価値が崩れることがあります。
  • 「救済の発表」を過信しない:拘束力のない意向表明は、精査の結果で簡単に撤回されます。バイナンスの撤回までは1日でした。
  • 準備金の証明を読む:破綻をきっかけに、多くの海外取引所が顧客の預かり資産に見合う資産を持っていることを示す「準備金の証明(Proof of Reserves)」を公開するようになりました。ただし、これは特定の時点の資産を示すもので、負債の全体や、その後の資金の動きまで保証するものではありません。
  • 資産を一か所に集めすぎない:長く使わない資産は、自分で管理するウォレットに移すなど、取引所の破綻に備える方法があります。ただし、自分で管理する場合は復元フレーズを失うと取り戻せない点にも気をつけてください。

事件の全体像はFTX事件の解説記事で、当時の投資家の動きはFTX破綻直後の投資家の対応を扱った記事でも取り上げています。

よくある質問

Q. バイナンスはなぜFTXの買収をやめたのですか?

A. バイナンスは2022年11月9日、デューデリジェンスの結果と、顧客資金の不適切な取り扱いや米当局の調査に関する報道を理由に、買収を追求しないと説明しました。

Q. FTXの債権者には、お金は戻ってきていますか?

A. 2025年2月18日から支払いが始まり、2026年7月末までに一般の顧客債権で105%などの累計弁済率に達したとFTXは発表しています。ただし債権額は2022年11月時点の価格で換算されています。

Q. FTX Japanの顧客の資産はどうなりましたか?

A. 2023年2月21日から、Liquid Japanのサービスを通じて日本円と暗号資産の出金が再開されました。日本の法律で義務づけられた分別管理により、国内の顧客資産は親会社の資産と分けて保管されていました。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。