【要約】
・トランプ前大統領による投資家への「買い」呼びかけが市場を刺激し、ビットコインは10万ドルを突破、イーサリアムも20%上昇を記録
・一部アナリストは「セルインメイ」にも注意を促し、今後の相場動向に注目が集まる
・Web3業界では中国の著名起業家・王欣氏が「技術の公平性」を掲げて再出発、AIエージェント×暗号資産の新たな取り組みに言及
・Stripeが安定した国際送金手段として「ステーブルコイン金融口座」を発表、AIとブロックチェーンの活用が拡大
・Coinbaseはデリビット(Deribit)を29億ドルで買収予定、加密(かみつ:暗号)デリバティブ市場での大規模再編が進む
・各取引所の市場シェアや大型資金調達が活発化し、「売却・買収」が業界の加速要因に
トランプ前大統領の発言がもたらした仮想通貨市場の興奮
米国のトランプ前大統領が「投資家は今すぐ株式を買うべきだ」と言及し、さらに米英の貿易合意が結ばれたとの報道が重なったことにより、伝統金融も暗号資産(仮想通貨)市場も大きく動揺しました。英国製鋼製品への関税引き下げなど好材料が相次ぎ、米国株が一気に上昇した影響で、ビットコインは2月以来となる10万ドル超を達成。
とりわけ短期間で急騰したことで、多額のショートポジション(空売り)が強制ロスカットを起こし、5月9日時点の空売り清算総額は8億3,600万ドルを超えたとも報告されています。デリバティブ企業や一部大手銀行からは「12万ドルという目標はやや控えめに見積もりすぎかもしれない」という強気な声があがる一方、「5月は売れ(Sell in May)」という相場格言が意識される季節でもあり注意は必要です。
またイーサリアム(ETH)もこのタイミングで20%以上も値を伸ばし、2,200ドルを突破しました。ネットワークの大型アップグレードが進んではいるものの、オンチェーンのトランザクション数とアクティブアドレスは横ばい傾向が続き、過去のような活発な上昇基調までは至っていない点が指摘されています。いっぽうSOLや他のアルトコインにも資金が流入し、短期間ながら高騰した銘柄が多数見られました。
王欣氏が掲げる「技術の公平性」とWeb3への再挑戦
かつて「快播(KuaiBo)」という動画再生ソフトで中国のインターネット史に名を残した起業家・王欣氏は、法的トラブルからの復帰後、新たにWeb3領域への挑戦を宣言しました。彼は伝統的な集権型技術モデルとは異なる、より透明かつ分散的なエコシステムを構築すべく「技術の公平性」(Technical Fairness)をコンセプトに掲げています。
王欣氏が着目するのは、ブロックチェーン上でAIエージェントを動かし、貢献度に応じてトークンを分配する仕組みです。たとえばAIが特定のタスクを実行し、そのタスクに対し貢献したユーザーに自動的に報酬が配分される。さらにデータ提供者の持分を保護するためにスマートコントラクトで管理するといった構想も打ち出しています。
また、彼が応援するプロジェクト「Fair3」は、単なるMemeコイン的なコミュニティで終わらせず、個人の参画を通じて「不公平を正す」文化を育てようとしています。SNS上での不当な分配や、配車サービスなどの労働格差に焦点を当て、声を上げた人々にコントリビューションを認める仕組みづくりを実験的に進めています。
Stripeが狙う“AI+ステーブルコイン”の商業未来
決済プラットフォーム大手のStripeは、サンフランシスコで開催された開発者向けイベント「Stripe Sessions 2025」にて「ステーブルコイン金融口座」を発表しました。Circle発行のUSDCや、同社が買収したスタートアップのBridgeが発行するUSDBなど複数の米ドル連動トークンを取り扱い、世界100か国以上の法人ユーザーに対して提供を拡大する計画です。
このステーブルコイン口座を導入することで、地域や法規制に左右されにくい形での海外送金が可能になると説明。さらにユーザー企業は売上金をそれぞれの口座内にトークンとして保有でき、為替変動リスクを抑えながら支払いタイミングを柔軟に選べます。合せてStripeが買収したBridgeとVisaの連携によるステーブルコイン対応カードも大きな話題になっています。
同イベントではStripeの創業者ジョン・コリソン氏が「AIとステーブルコインが商取引を根本から変える」と強調し、今後「AIエージェントが自ら最適な商材やサービスを検知し、ステーブルコイン決済を自動で実行する世界」も見据えています。
BTC・ETH急伸、コインベースがデリビット買収へ
5月9日時点でビットコインは一時10万4,000ドルを超え、イーサリアムも2,400ドル台に到達しました。過去には考えられなかった水準ながら、短期急騰のあとは乱高下のリスクがあるため、市場参加者たちは引き続きロスカットや証拠金維持に神経を尖らせています。
こうしたなか米大手取引所Coinbaseは、加密(かみつ)デリバティブの最大手とされるDeribitを29億ドル(約4,000億円)で買収すると発表しました。現物取引や機関投資家向けサービスを強みにしてきたCoinbaseが、デリバティブセクターでのシェア拡大を狙う姿勢が鮮明になった格好です。
Deribitはビットコインやイーサリアムのオプション取引高が圧倒的に多く、機関投資家に評価される高度なリスクヘッジ機能を備えています。両社は規制当局の審査が完了し次第、年内にも統合を進める見込みです。
市場動向と資金の移動:規制強化下の買収・売却が活性化
最近の仮想通貨市場では、下記のような大型の資本移動や買収案件が相次ぎ発表されています。
- 米国のマイニング企業CleanSparkやMARAの決算報告において、ビットコインの保有高が数十億ドル相当に増加
- Rippleと米SEC(証券取引委員会)の長年の争いは和解に至り、和解金5,000万ドルで決着の見通し
- 仮想通貨取引所KrakenやFalconXも新たなデリバティブ企業買収を計画
- Coinbaseがベンチャー分野への投資を積極化し、多数のプロジェクトをサポート
こうした背景には、世界各国の暗号資産規制が強まる一方、しっかりと法整備を行う地域(例:ドバイ)での事業拡大の機会が見いだされている構造があります。特にステーブルコインや国債トークンなど、現実資産とのブリッジを築く領域への関心が高まっており、投資資金は依然として流入している状況です。
ニュースの解説
今回の一連のニュースを概観すると、投資家心理に影響する政治要因と、テクノロジー面での革新要素が複雑に絡み合っているのがわかります。トランプ氏の発言や英米通商協定などは金融市場全体を鼓舞し、結果的にビットコインやイーサリアムといった主力銘柄へ資金が流れ込みました。
しかし一方では、季節性の下落傾向や乱高下も依然として警戒されており、「5月の相場には要注意」という歴史的なデータを無視できません。また、アジアの著名起業家・王欣氏が強調する「技術の公平性」が、今後のWeb3プロジェクトにどのような変革をもたらすのかも興味深いポイントです。さらにグローバルな決済手段としてステーブルコインを積極活用するStripeの姿勢は、多くの事業者にとって参考となる動きでしょう。
そして、Coinbaseが大型買収に踏み切った背景を探ると、今後は現物・先物・オプションを包括する総合型の仮想通貨取引プラットフォームを目指す可能性が高いといえます。業界最大規模の取引所と屈指のオプション取引所の統合は、デリバティブ市場の流動性をさらに高める契機となるかもしれません。今後も規制当局の動向や投資家のマインドを注視しながら、次なる大きな変化に備える必要があります。