2023年7月のNFT盗難額を検証|31%減という報告と安全対策

2023年7月のNFT盗難について、PeckShieldの調査を紹介した報道では、盗まれた資産の価値が約173万ドルと伝えられました。ただし、これは盗難の「件数」ではありません。また、当時広まった「前月比31%減」という割合には、比較に使われた金額との不一致があります。

この記事では2023年の報道を検証し、当時の統計から読み取れることと、読み取れないことを分けて説明します。後半のウォレット管理・相談先は2026年9月27日に確認した公式案内に基づきます。過去の被害額の減少を、現在のNFT取引が安全だという根拠にすることはできません。

173万ドルは被害の金額であり、盗難件数ではない

2023年8月のThe BlockとCrypto.newsの記事は、PeckShieldが集計した7月の盗難NFTの価値を約173万ドルと紹介しています。この数値が示すのは、調査対象となった資産のドル換算額です。被害者の人数、盗まれたNFTの点数、攻撃の回数のいずれとも同じではありません。

たとえば、高額なNFTが一度に盗まれた月と、低価格のNFTが多数盗まれた月では、被害額と件数が異なる方向に動くことがあります。ドルで評価する以上、NFT自体の市場価格や決済に使われる暗号資産の価格変動も解釈に関わります。これは統計を読む際の一般的な注意点であり、今回の減少原因が価格だったと確認できたわけではありません。

このため、元記事の「窃盗件数は31%減少」という表現は採用しません。対象期間は2023年7月であり、現在の月次被害でも、世界中の全事件を網羅した犯罪統計でもありません。把握された資産の価値と、把握されなかった被害の有無は別に考える必要があります。

31%減という発表と、金額から計算した減少率の違い

Crypto.newsが掲載したPeckShieldAlertの投稿引用には、7月の被害額を173万ドル、前月比の減少率を31%とする説明があります。一方、同じ記事は6月の金額を227万ドルと記載し、編集部注記で割合の計算に疑問を示しています。元の集計表全体や計算条件を再確認できていないため、本記事でも31%を確定した減少率とは扱いません。

比較する金額 計算と読み方
6月227万ドルから7月173万ドル 差額54万ドル÷227万ドルで約23.8%減
2月1,620万ドルから7月173万ドル 差額1,447万ドル÷1,620万ドルで約89.3%減

表は報道に記載された丸め済みの金額を使った編集部の計算です。未公開の元データを復元した結果ではありません。31%という発表値を紹介する場合には、金額からの計算と一致しないことも併記するのが適切です。元記事にあった2月からの「81%減」も、上記の金額では再現できません。

また、2月と7月の比較は両月の差を示すもので、間のすべての月で被害が連続して減ったという意味ではありません。割合だけを見出しにすると、何を基準に減ったのかが抜け落ちます。月、単位、比較対象の三つをそろえて読む必要があります。

半数が165分以内に転売されたという報告の意味

当時の報道では、盗難NFTの半数が165分以内にマーケットプレイスで売却されたとされています。165分は2時間45分です。「すべてが約2時間で売られた」という意味でも、被害発覚後に必ずそれだけの対応時間が残るという意味でもありません。

盗難後に最初に売却された市場の割合として、Blurが67.3%、OpenSeaが19.63%と紹介されました。この割合の対象は調査で追跡された盗難NFTです。各市場の全取引のうち何%が盗品だったかを表したものではなく、そこで取引すれば同じ確率で盗難に遭うとも解釈できません。

市場別の転売先データは、不正流出後の資産がどこへ移動したかを考える材料です。攻撃がその市場のシステムから始まったことや、市場運営者が関与したことを証明するものではありません。本記事では売却先の割合と、ウォレットから盗まれる原因を混同せずに扱います。

FBIが2023年8月に警告した偽ミントの手口

FBIのインターネット犯罪苦情センターIC3は、2023年8月4日付の注意喚起で、正規のNFT開発者になりすます犯罪を取り上げました。攻撃者が本物のSNSアカウントを乗っ取る場合と、よく似たアカウントを作る場合があり、突然の限定販売などを装って利用者を偽サイトへ誘導する手口です。

販売を急がせる投稿や、公式ページに似せた外観だけでは正当性を確認できません。以前から使っていた公式URLを別経路で開き、告知の整合性を確認することが必要です。ただし公式SNS自体が乗っ取られる場合もあるので、「見覚えのあるアカウントだから安全」という判断にも限界があります。

FBIの警告は当時の攻撃手口を説明する資料であり、7月の被害額が減った理由を説明する調査ではありません。NFT売買の減少が盗難額の減少と同時に起きたとしても、それだけで因果関係は決まりません。市場が低迷しているときでも、偽の配布企画や署名要求には個別の確認が必要です。

接続解除とトークンの承認解除を分けて確認する

偽サイトへの対処では、「ウォレットを切断したから、すべての権限が消えた」と思い込まないことが大切です。MetaMaskの公式ヘルプは、DAppとの接続解除をしても、すでに与えたトークンの承認は取り消されないと説明しています。接続そのものと、資産を移動できる権限の付与は別の操作です。

疑わしい操作をした場合は、どのネットワークで、どの相手に、どの資産への承認や署名を行ったかを確認します。ブラウザのタブを閉じたり接続を切ったりしただけで対応を終えず、ウォレットの公式ヘルプから承認の確認方法をたどってください。検索広告やDMで届く「解除サイト」へ慌てて接続することは避けます。

Ethereum.orgの案内では、承認の取り消しには新しいトランザクションと手数料が必要で、処理後に権限が消えたことを再確認するよう説明しています。ただし、承認解除はすでに移転したNFTを取り戻す操作ではありません。秘密鍵や復元用フレーズまで漏れた場合の対処を、承認の問題だけで済ませることもできません。

署名画面の内容が理解できなければ、その場で進める必要はありません。無償のNFTや限定枠という説明があっても、求められる権限や取引内容が目的に見合っているかを確認し、判断できない要求は保留します。

被害が疑われるときに残す情報と日本の相談先

身に覚えのない移転を見つけたら、発生日時、使用したネットワーク、自分と送付先の公開アドレス、トランザクションの識別子、アクセスしたURL、SNSでのやり取りを整理します。これは状況を説明しやすくするための記録です。秘密鍵や復元用フレーズを相談資料に含める必要はありません。

日本では警察庁の「サイバー事案に関する相談窓口」から、都道府県警察へのオンライン通報・相談・情報提供の案内を確認できます。被害届については最寄りの警察署などに連絡するよう案内されています。利用したサービスへの連絡と警察への相談は目的が異なり、どちらかを行えば自動的に返還が保証されるわけではありません。

2023年7月の数字から確かに言える範囲は、当時報告された被害額と、追跡されたNFTの転売の速さです。減少率の食い違いを残したまま「盗難が減って安心」と結論づけず、過去の集計を読む作業と、自分のウォレットの権限を確認する作業をそれぞれ進めることが重要です。

よくある質問

Q. NFTの盗難件数は2023年7月に31%減ったのですか?

A. 確認した報道は件数ではなく、盗まれたNFTのドル換算額を扱っています。31%という発表値も、6月227万ドルと7月173万ドルから計算した約23.8%とは一致しないため、確定値とは扱えません。

Q. 盗難後の転売が多かった市場は危険ということですか?

A. 転売先の割合は、その市場の全取引に占める盗品の比率や、利用者の被害確率ではありません。売却先の情報だけで、攻撃の発生場所や原因は特定できません。

Q. ウォレットの接続を切れば承認も消えますか?

A. MetaMaskの公式案内では、接続解除とトークン承認の取り消しは別です。与えた承認の確認が必要で、取り消してもすでに移転した資産が戻るわけではありません。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。