音楽の印税を分け合うNFT|R3HABの事例とanotherblockのその後

2022年8月19日、スウェーデンの音楽NFTマーケットプレイス「anotherblock」が最初の販売として、DJのR3HABとLaidback Lukeの共作シングル「Weekend on a Tuesday」の権利に連動するNFTを250個発行しました。1個を持つと、この曲のストリーミング収益の0.02%を受け取れるという設計です。

旧版の記事は「音楽の民主化」という理念を紹介するにとどまり、日本の著作権の保護期間を「死後50年」と書くなど、現在の制度と合わない記述も含んでいました。この記事では、当時の販売内容を確認したうえで、音楽の権利のどこに連動するNFTなのか、その後の運営体制はどう変わったのか、日本の読者が知っておきたい制度上の論点を順に見ていきます。個別のNFTを買うかどうかを勧める内容ではなく、仕組みを理解するための整理として読んでください。

2022年8月の販売内容:250個・各0.02%

anotherblockの発表や音楽メディアの報道によると、「Weekend on a Tuesday」のNFTは250個で、1個あたりの価格はおよそ87ドルでした。各NFTが配信収益の0.02%に対応するため、250個を合計すると5%分がファンに割り当てられた計算になります。

旧版の記事はR3HAB単独の曲として紹介していましたが、実際はオランダ出身のDJ、Laidback Lukeとの共作です。また、旧版にあった「Discordでの調査でEDMが最も人気だった」という数字については、元の調査を確認できませんでした。

anotherblockは、保有者が自分のNFTの推定価値や分配の見込みを確認できる点を「透明性」として打ち出していました。ファンが曲の成績を追いかけ、分配を受け取るという体験を、NFTという形で商品化した例といえます。

アーティストはなぜ収益をファンに分けるのか

2021年から2022年にかけて、音楽の分野ではNFTを使った試みが相次ぎました。ジャケット画像や未発表音源を限定品として売る形のほかに、曲の収益の一部をファンと分け合う「印税連動型」が登場したのがこの時期です。

アーティスト側の狙いは主に二つあります。一つは、発売前に資金を集められることです。収益の一部を先に売ることで、レコード会社の前払い金に頼らずに制作費や宣伝費をまかなえます。もう一つは、ファンを「応援する側」から「成功を分け合う側」に変えることです。再生回数が伸びれば保有者の受け取りも増えるため、ファンが自分から曲を広める動機が生まれます。

一方で、ファンの側から見ると、受け取れる金額は再生回数しだいで、上限も下限も約束されていません。応援の気持ちで買う商品なのか、収益を期待して買う商品なのかを、自分の中で分けて考える必要があります。

音楽の権利はいくつかの層に分かれている

「音楽の著作権をNFTで分ける」と聞くと、曲そのものの権利を買うように感じるかもしれません。しかし、音楽にはいくつもの権利が重なっています。日本の著作権法に沿って大まかに整理すると、次のようになります。

権利 主な持ち主 中身
著作権(作詞・作曲) 作詞家・作曲家、音楽出版社 歌詞やメロディを複製・配信・演奏などに使うことを許す権利
著作隣接権(レコード製作者) レーベルなど原盤の制作者 録音された音源(原盤)の複製や配信に関する権利
著作隣接権(実演家) 歌手・演奏者 自分の歌唱や演奏の録音・配信などに関する権利
著作者人格権 作詞家・作曲家本人 公表や改変についての権利で、譲渡できない

ストリーミングの収益も、原盤側に入るお金と、作詞・作曲側に入るお金は別の流れで支払われます。印税連動型のNFTを見るときは、どの流れの、何パーセントが対象なのかを最初に確かめる必要があります。

なお、旧版が書いた「死後50年」は古い基準です。日本では2018年12月30日から、著作権の保護期間は原則として作者の死後70年に延びています。

NFTを持っても著作権そのものは移らない

印税連動型のNFTで保有者が手にするのは、多くの場合「権利者と運営会社の契約にもとづいて、収益の一部を受け取る立場」です。曲を自由に使ってよい権利や、著作権の名義が移るわけではありません。

  • 支払いの元:配信サービスから権利者へ入った収益の一部が、運営会社を通じて保有者に分配されます。
  • 支払いの頻度:配信の収益は数か月遅れで確定するため、分配も半年ごとなどまとめて行われるのが一般的です。
  • 金額の規模:0.02%という割合は小さく、再生回数が伸びなければ受け取る額はわずかになります。

つまり、NFTの価値は曲の人気だけでなく、契約が守られ続けるか、運営会社が分配を続けられるかにも左右されます。

その後:大物アーティストの販売と分配役の交代

anotherblockはその後も販売を続け、Rihanna、The Weeknd、Justin Bieber、Alan Walker、Martin Garrixといった世界的なアーティストの楽曲に連動するNFTも扱いました。第1弾の250個という規模から見ると、扱う曲の知名度は大きく上がっています。

転機は2024年9月です。現実資産のトークン化を手がけるPolytradeが、NFT保有者への印税の分配を引き継ぐと発表しました。anotherblockは権利者から支払いを集める役に回り、2024年上半期分までの分配はanotherblockが、それ以降はPolytradeが担う体制になりました。既存のNFTは、Baseというチェーン上の新しいNFTに置き換えて配り直す方針も示されています。

Crowdfund Insiderの報道によると、この発表では、印税を支払う最終的な義務は権利者側に残ると説明されていました。2026年9月時点で、anotherblockとして新しい楽曲の販売が続いているかどうかは確認できませんでした。

日本で考えたい制度の論点

収益の分配を受けられるNFTは、日本の金融規制との関係を考える必要があります。金融商品取引法では、出資したお金で事業が行われ、その事業の収益の分配を受けられる権利を「集団投資スキーム持分」と定めており、組み立て方によってはこれに当たる可能性があります。当たるかどうかは個別の仕組みで判断されるため、NFTという形式だけでは決まりません。

海外のサービスが日本の居住者向けに販売しているかどうかも確認が必要です。利用規約で日本からの購入を認めていない場合もあります。

税金の面では、分配金を暗号資産やステーブルコインで受け取ったときの扱いや、NFTを売ったときの所得の区分が問題になります。基本はNFTの税金の解説で整理しています。NFTそのものの仕組みはNFTとは何かをご覧ください。

印税連動型NFTを見るときのチェックポイント

  1. 対象の収益:原盤側か作詞・作曲側か、配信だけか、放送やカラオケも含むか。
  2. 割合と期間:何パーセントを、いつまで受け取れるのか。期限の定めがあるか。
  3. 分配の実績:過去に何回、いくら支払われたか。予定どおりに支払われているか。
  4. 誰が払うのか:権利者、運営会社、分配を代行する会社の関係と、運営が止まったときの扱い。
  5. 売りたいときの出口:二次流通の取引量は十分か。チェーンの移行やNFTの差し替えがあった場合の手続き。

日本では、作品の権利とNFTを組み合わせて制作資金を集める試みもあります。例としてNEO TOKYO PUNKSの著作権NFTの取り組みも参考になります。仕組みの違いを比べると、どこにリスクがあるのかが見えやすくなります。

よくある質問

Q. 印税連動型のNFTを買うと、曲の著作権を持てますか?

A. 一般的には持てません。受け取れるのは、権利者と運営会社の契約にもとづく収益の一部です。曲を自由に使う権利が移るわけではないため、販売ページの規約で対象の範囲を確認してください。

Q. 「Weekend on a Tuesday」のNFTでは、いくら受け取れましたか?

A. 1個あたり配信収益の0.02%という割合は公表されていますが、実際の支払額の推移は一次情報で確認できませんでした。再生回数と支払い時期によって金額は変わります。

Q. anotherblockのNFTは今も分配されていますか?

A. 2024年9月の発表で、分配の担当はPolytradeに移りました。2026年9月時点で、個別の楽曲ごとの最新の分配状況や新しい販売の有無は確認できませんでした。保有者はPolytradeとanotherblockの公式発表を確認する必要があります。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。