子どもNISA解禁へ 新NISAの未成年拡大

▽ 要約

制度案 2026年度から0〜17歳を対象とする新NISAの子ども枠創設が政府・与党内で本格議論入り。
特徴 ジュニアNISAより払い出しを柔軟化し、教育資金と長期積立投資を両立させる設計が軸。
論点 年間枠や累計上限600万円案、12歳以降の払い出し可否など詳細は2025年末の税制改正大綱で確定へ。

政府・与党は2026年度税制改正で新NISAの対象を0〜17歳の未成年に広げる子どもNISAを検討しており、教育資金準備と世代間の資産移転をどう両立させるかが制度設計の焦点となっている。

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新NISAの対象年齢を18歳未満まで広げる議論が加速し、教育費と将来の老後資金を同時に準備できる枠組みが現実味を帯びてきました。
本稿では、子どもNISAの構想内容とジュニアNISAからの変更点、政府・与党の政策意図、市場や個人投資家への影響を整理します。
まだ制度案段階であるため詳細は変わる可能性がありますが、早期からの長期投資が家計と資本市場に与え得るインパクトを俯瞰することは、投資家にとって有用です。

子どもNISA構想と新NISA拡大の全体像

政府・与党と金融庁は、2026年度税制改正で新NISAつみたて投資枠の対象年齢を引き下げ、0〜17歳の未成年にも開放する案をこども家庭庁と共同で要望中です。

新NISAの基本枠組みと急速な利用拡大

2024年からの新NISAは、年間360万円・生涯1,800万円までを無期限で非課税とする恒久制度として、日本の家計マネーを市場へ大きく誘導しています。
新制度では、長期積立用の「つみたて投資枠」(年120万円)と、株式等を含む「成長投資枠」(年240万円)を併用でき、生涯の非課税保有限度額1,800万円(うち成長投資枠1,200万円まで)の範囲で売却枠の再利用も可能になりました。

こうした拡充を背景に、NISA口座数は2025年3月末時点で2,647万口座、買付額合計は59.2兆円と、制度開始前から大きく拡大しています。
若年層の伸び率が特に高いことも指摘されており、新NISAが「貯蓄から投資へ」のシフトを牽引している状況です。

未成年拡大案のスケジュール感

子ども向けNISAは、2025年末の与党税制調査会で詳細が議論され、2026年度税制改正大綱への盛り込みを目指すとされています。
制度が法制化されれば、早ければ2026年中にも0〜17歳を対象とする未成年向けNISA口座がスタートする見通しで、親や祖父母から贈与された資金を子ども名義で長期運用できる枠が新設されます。

現時点では「つみたて投資枠」に限定した未成年開放という方向性のみが公式資料で明示されており、対象年齢の細かな区切りや、親名義の枠との合算管理の有無などは今後詰められる段階です。

新NISAとジュニアNISAの制度比較

かつてのジュニアNISAの経験を踏まえ、子どもNISA構想では払い出し制限や投資対象商品、制度の恒久性が大きく見直されようとしています。

払い出し制限:18歳縛りから12歳以降へ

ジュニアNISAは0〜19歳を対象に年間80万円まで非課税投資が可能でしたが、原則18歳まで資金の払い出しができず、途中解約すると過去の非課税メリットが失われる厳しい制限がありました。
この使い勝手の悪さが利用拡大の足かせとなり、制度は2023年で新規買付を終了しています。

検討中の子どもNISAでは、払い出し制限の大幅緩和が中核論点であり、子どもが満12歳以降であれば教育資金ニーズに応じて非課税枠を維持したまま引き出せる案が報道されています。
中学受験・高校進学・大学入学といった節目の学費や留学費用に対応できるようにすることが、制度設計側の狙いとみられます。

非課税枠・上限額のイメージ

ジュニアNISAの年間投資上限は80万円でしたが、子どもNISAでは新NISAつみたて投資枠(年120万円)との整合性を取りつつ、未成年向けとして過度な格差を生まない水準の調整が検討されています。
足元の報道では、子ども名義の累計非課税投資額の上限を600万円とする案が浮上しており、親世代の生涯枠1,800万円とのバランスをどう取るかが与党内の論点です。

年間投資枠については、つみたて投資枠と同額の120万円とする見方に加え、「家計の負担感や贈与税非課税枠(年110万円)との整合性を踏まえ60万円程度に抑える案」が専門家サイトなどで紹介されていますが、いずれも最終決定ではありません。

投資対象商品とリスク管理

子どもNISAは、新NISAのうち長期・積立・分散投資に適した投資信託のみを対象とし、個別株や高リスク商品を含む成長投資枠は対象外とする方向で議論されています。
これにより、指数連動型やバランス型ファンドを中心にした長期積立に限定し、未成年者の口座で短期売買やレバレッジ取引が行われないよう制度面からリスクを抑制する狙いがあります。

一方で、つみたて投資枠と同様に手数料水準や運用実績の一定基準を満たした投資信託に絞られるとみられ、金融機関側には商品ラインアップの再構成も求められます。

制度の恒久性と成年後の取り扱い

ジュニアNISAは制度そのものが時限措置だったのに対し、新NISAは恒久制度であり、その一部として位置付けられる子どもNISAも長期前提で設計されます。
制度開始後に18歳を迎えた口座については、そのまま通常の新NISA口座として非課税運用が継続できるよう、スムーズな移行スキームが整えられる見通しです。

この結果、0歳から積み立て始めた資産を、成人後も売却せず20年・30年と運用を続けることで、家計全体のリスク資産比率を高めつつ、複利効果を最大化できる設計が想定されています。

教育資金と払い出しルール案

子どもNISAの最大の特徴は、教育資金ニーズに合わせて払い出しを柔軟化しつつ、非課税メリットを維持しようとする点にあります。

12歳以降払い出し案の狙い

12歳を起点とする払い出し容認案は、中学受験や私立中高進学、短期留学など、家庭の教育支出が本格化するタイミングに合わせた設計とされています。
従来のジュニアNISAでは、高校卒業前まで資金をロックする形となり、家計の急変や教育方針の変更に柔軟に対応しにくいとの批判がありました。

子どもNISAでは、一定の年齢以降であれば用途を問わず払い出しを認めるか、あるいは「授業料・入学金等の教育費」に限定した払い出しとするかなど、制度の具体設計が今後の焦点になります。
教育費として利用した場合も、過去の運用益にさかのぼって課税しないルールを維持できるかどうかが、制度の実効性を左右します。

用途制限・上限管理の検討論点

払い出しルールでは、「非課税枠を維持したまま一部のみ解約できるか」「年ごとの払い出し上限を設けるか」といった技術的論点も想定されます。
一括払い出しを前提とすれば設計はシンプルですが、教育資金として数年にわたり分割して取り崩したいニーズは多く、家計実務との整合性をどこまで反映できるかが注目点です。

また、親や祖父母からの資金拠出は贈与と位置付けられるため、年間110万円の贈与税基礎控除や、2026年3月末まで延長されている教育資金一括贈与1,500万円非課税特例との関係整理も不可欠です。

ジュニアNISAの失敗からの教訓

ジュニアNISAは「18歳まで引き出せない」という制約が敬遠され、口座数は想定ほど伸びず、結果として短命な制度に終わりました。
その反省から、子どもNISAでは教育資金の必要タイミングに合わせた柔軟な払い出しと、制度の恒久化をセットで設計することで、利用者基盤を広げたいという意図が見て取れます。

さらに、親が自らの新NISAと子どもの枠を併用しつつ、家族全体のライフプランに沿った資産配分を設計しやすくすることも、制度側が描く利用イメージと考えられます。

政府・与党の狙いと政策文脈

未成年へのNISA拡大は、「貯蓄から投資へ」「資産所得倍増プラン」といったマクロ政策目標と、子育て支援・少子化対策を結びつける施策として位置付けられています。

「貯蓄から投資へ」と資産所得倍増プラン

政府は、新しい資本主義と資産所得倍増プランの中で、NISA総口座数を1,700万から3,400万へ、NISA買付額を28兆円から56兆円へ倍増させる目標を掲げてきました。
実際に2025年3月末時点で口座数2,647万、買付額59.2兆円と目標水準に近づきつつあり、NISAは家計の資産配分を動かす中核制度となっています。

ここに未成年向け枠を追加することで、「若年層の投資デビューをさらに前倒しする」「インフレ耐性のある家計を育てる」という政策意図が透けて見えます。
長期的には、若い世代のリスク資産比率が高まることで、株式市場全体の投資家基盤拡大にもつながるとの期待が示されています。

金融リテラシー向上と世代間資産移転

子どもNISAは、単なる非課税制度にとどまらず、「家庭内で投資を学ぶ場」を作ることも狙いの一つとされています。
親や祖父母がポートフォリオやリスクを説明しながら、子ども名義の口座で積立を行うことにより、学校教育だけでは補いにくい実践的な金融リテラシーを身につけやすくなります。

同時に、親世代の金融資産を徐々に未成年口座へ移すことで、世代間の資産移転を税務面に配慮しつつ促す機能も期待されています。
上限600万円案など、枠自体を抑制する設計を通じて「高所得層だけが大きな恩恵を受ける」といった不公平感への懸念にも一定の配慮が見られます。

子育て支援・少子化対策としての位置付け

金融庁の税制改正要望では、「こども支援の一環として、つみたて投資枠における対象年齢等の見直し」を明示し、こども家庭庁との共同要望として掲げています。
これにより、NISA制度の議論が資本市場政策だけでなく、子育て支援・少子化対策の文脈にも組み込まれ、与党内での支持を得やすい構図が整えられています。

関連:高市内閣の租特廃止と金融所得課税強化

市場・投資家への影響と今後のスケジュール

子どもNISAが実現した場合の資金フロー自体は新NISA全体から見れば限定的とみられるものの、中長期的には投資家層の厚みとフローの安定性を高める効果が期待されます。

フローインパクト:金額は限定的でも層は厚く

新NISAの年間投資枠360万円に対し、子どもNISAの年間枠は60万〜120万円規模が想定されており、単年度のフローは親世代の投資に比べれば小さいと考えられます。
しかし、長期の積立前提で複数の子どもがいる世帯も多いことを踏まえると、時間をかけて安定的な買い需要を形成するという意味で、市場のボラティリティ抑制要因にもなり得ます。

また、つみたて投資枠に限定されることで、インデックスファンドや分散型投信への需要が増え、投信市場のスケールメリットやコスト低下を通じて、既存投資家にも間接的な恩恵が及ぶ可能性があります。

金融機関・海外投資家の視点

国内の銀行・証券各社は、新NISA拡大を契機に若年層の口座開設が進んだことから、子どもNISAも「次世代顧客との接点」として前向きに捉える向きが多いとみられます。
一方、海外投資家のレポートでは、新NISAによる個人マネーのリスク資産シフトが、海外株式投信への資金流入や為替市場のドル買い要因として意識されているとの指摘もあります。

子どもNISAによる追加フローは規模こそ限定的でも、「日本の家計が構造的に投資志向を強めている」というシグナルとして、海外からの日本株・円資産への見方にじわりと影響する可能性があります。

制度決定までのタイムラインと留意点

今後の大まかなタイムラインとしては、2025年12月の与党税制改正大綱で制度骨格が示され、その後の税制改正法案成立を経て2026年度中の施行という流れが想定されています。
現時点で公表されているのは「つみたて投資枠の年齢制限見直し」という方向性までであり、具体的な上限額・払い出し条件・贈与税との関係などは、大綱と政省令を待つ必要があります。

投資家としては、「制度そのものが確定していない段階で前提を固定しすぎないこと」「教育資金と老後資金を分けて設計すること」の二点を意識しつつ、親名義の新NISAや既存の贈与制度を活用しながら準備を進めるのが現実的と言えるでしょう。

▽ FAQ

Q. 子どもNISAの対象年齢はどうなる見通しですか?
A. 政府・与党案では0〜17歳の未成年を対象に、2026年度以降に新NISAつみたて投資枠を子ども名義でも利用可能にする方向で調整が進んでいます。

Q. 子どもNISAの非課税枠や上限額はどの程度が想定されていますか?
A. 報道では年間60万〜120万円程度や、子ども名義の生涯累計600万円とする案など複数パターンが議論され、2025年12月の税制改正大綱で最終案が示される見通しです。

Q. ジュニアNISAとの最大の違いは何ですか?
A. ジュニアNISAは18歳まで原則引き出せませんでしたが、子どもNISAでは12歳以降の払い出し容認など、教育資金ニーズを意識した柔軟なルールが検討されています。

Q. 子どもNISA開始まで家庭は何を準備すべきでしょうか?
A. 2026年度開始までは親名義の新NISAで教育資金を積み立てつつ、贈与税非課税枠110万円や教育資金贈与1,500万円特例の期限(2026年3月末)など税制面を確認しておくことが実務上のポイントです。

■ ニュース解説

子どもNISA構想は、新NISAの成功とジュニアNISAの反省を踏まえ、教育資金と資産形成を両立させるための「第二世代の未成年向け非課税制度」として位置付けられます。
一方で、年間・生涯の非課税枠や払い出し条件、贈与税・相続税との整合性など未確定要素も多く、2025年末の税制改正大綱までは「方向性ベース」で捉える必要があります。

投資家の視点:制度が実現すれば、家計全体での長期積立のスタート時点を早める選択肢が増える一方、教育資金と老後資金を同一の枠で混在させるとリスク管理が曖昧になりかねません。
各家庭は、
①教育費の必要時期と金額、
②親自身の老後資金、
③贈与税や教育資金贈与特例の活用余地、といった要素を整理したうえで、「どの目的をどの口座で担うか」を設計していくことが重要です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:金融庁財務省