IBITの現物交換が累計50億ドルに——BTCを売らずにETF株へ換える仕組みと課税繰り延べ

BlackRockのiShares Bitcoin Trust(IBIT)を通じた現物交換(in-kind creation)の累計額が、8月26日時点で50億ドルに達しました。2025年10月時点の30億ドルから10か月で約67%増えた計算です。

BTCを売らずにETF株へ換える仕組み

現物交換とは、BTC保有者が手持ちのビットコインをそのままETF株と交換する方法です。通常の売買では、BTCを一度ドルに換え、そのドルでETF株を買います。この売却の時点でキャピタルゲイン課税が発生します。

現物交換では、BTCを直接ETFに引き渡し、対価としてETF株を受け取ります。現金を介さないため、米国税法上は「売却」として扱われず、課税イベントが発生しません。取得原価はBTCからETF株へそのまま引き継がれ、最終的にETF株を売却するまで課税が繰り延べられます。

この仕組み自体はETF業界では一般的です。株式ETFではS&P 500連動ファンドなどが数十年にわたり現物交換を使ってきました。ただし、BTC現物ETFでは当初認められていませんでした。

なぜBTC ETFでは遅れたのか

2024年1月にBTC現物ETFが米国で承認された時点では、設定・解約はすべて現金決済でした。SECは当時、暗号資産の現物をETFのバスケットとして直接受け渡すことに慎重な姿勢をとっていました。マネーロンダリング対策やカストディの安全性に関する規制上の懸念が理由です。

株式ETFであれば、APが株式のバスケットをETF運用会社に引き渡し、対価としてETF株(クリエーション・ユニット)を受け取る現物交換が日常的に行われています。米国内国歳入法(IRC)第852条(b)(6)は、ファンドが有価証券を現物で払い出す際にキャピタルゲインの分配を免除する規定であり、ETFの税効率はこの条項に支えられてきました。

BTC現物ETFではこの仕組みが使えないまま1年半が経過しました。その間、含み益の大きいBTCを保有する投資家がETFへ移行するには、一度売却して現金化するしかなかったのです。

SEC承認から最低額引き下げまで

SECがBTC現物ETFへの現物交換を承認したのは2025年7月29日。承認直後の最低取引額は2,500万ドルで、大手AP以外には障壁でした。

BlackRockは2026年7月、IBITの現物交換の最低取引額を2,500万ドルから100万ドルへ、96%引き下げました。SEC届出書類の更新で開示されています。

これにより中規模の機関投資家やファミリーオフィスもAPを介して現物交換を利用できるようになります。裁定参加者が増えれば、IBIT株価とBTC現物価格の乖離を修正する力が強まり、二次市場の価格効率が改善されます。

変化の前と後

承認前は、BTCを売却してドルにし、ドルでETFを購入する二段階の手順が必要でした。たとえば2020年に1 BTCを1万ドルで取得した投資家が現在の市場価格(約8万ドル台)で売却すると、約7万ドルの含み益に長期キャピタルゲイン税が発生します。税率は所得水準に応じて0%・15%・20%、高所得者はさらにNIIT 3.8%が加算されます。大口保有者にとって無視できない移行コストでした。

承認後は、BTCをそのままETF株に換えられます。売却益が発生しないため課税は繰り延べられ、取得原価は引き継がれます。

利点は税だけではありません。カストディをBlackRockの信託構造に委ねることで、自前のウォレット管理から解放されます。証券口座で他の資産と一元管理でき、相続や法人の会計処理も既存の枠組みに乗ります。

誰に関係するか

最も直接的に関係するのは、すでにBTCを大量保有する機関投資家です。含み益が大きいほど現物交換の恩恵は大きくなります。

ただし、個人投資家が直接この仕組みを使うことはできません。現物交換はAPを通じた機関向けの仕組みです。個人への間接的なメリットは、現物交換が活発になることでIBITのNAV乖離が縮小し、売買スプレッドが改善される点にあります。

「免除」ではなく「繰り延べ」

現物交換で課税が「免除」されるわけではありません。あくまで「繰り延べ」です。BTCの取得原価がETF株に引き継がれるため、将来ETF株を売却した時点で元の含み益に課税されます。

繰り延べの価値は、資金を運用に回し続けられることにあります。今すぐ税金を払って手取りが減る場合と、全額を運用に回し続けられる場合とでは、複利効果の差が生まれます。機関投資家が現物交換を選ぶ経済的動機はここにあります。

Xやメディアでは「税金なし(tax-free)」という表現が広まっていますが、正確には「課税繰り延べ(tax-deferred)」です。なお、日本の投資家が米国BTC ETFを保有する場合は日米租税条約に基づく取り扱いが別途適用されるため、米国内の議論をそのまま当てはめることはできません。

まだ分からないこと

50億ドルの内訳(取引件数、平均サイズ、主要AP)は非公開です。最低額引き下げ後の月次データもまだ報じられていません。FidelityのFBTCやArk/21SharesのARKBが同様の引き下げを行うかも不明です。

次の確認ポイント

IBITの現物交換累計額はSEC届出書類やBloombergの定期報道で更新されます。引き下げ後の四半期データが出る2026年10月前後が、利用拡大の実態を測る次の確認ポイントです。

出典: SEC — BTC現物ETFの現物交換を2025年7月29日に承認 / BlackRock — IBIT現物交換の最低額を100万ドルへ引き下げ(2026年7月、SEC届出書類) / Bloomberg報道 — 現物交換累計50億ドル(2026年8月26日時点)