高市内閣の租特廃止と金融所得課税強化

▽ 要約

方針 自民税調が租特見直しと金融所得課税強化。
財源 ガソリン暫定税率廃止の恒久財源として位置付け。
市場 一時900円安など警戒、増税と減税の同時進行に思惑。
暗号資産 直接増税なしも、分離課税化は後回しの公算。

高市内閣は租税特別措置の縮減と金融所得課税の強化で恒久財源を捻出する方針で、2026年4月開始を軸に協議が進む見通しだ。
選挙後の政権再編で誕生した高市内閣は、ガソリン税の暫定税率廃止を実行する代替財源として、租税特別措置の見直し・廃止と金融所得課税の強化を掲げた。狙いは財政規律の確保と税制の公平性回復である。本稿は、制度設計オプション、与野党・官庁の姿勢、株式・暗号資産への帰結、国際比較、そして実装スケジュールまでを一望し、投資家・事業者が次に備えるべき論点を解説する。

租税特別措置の改廃と金融所得課税強化

自民党税制調査会は2025-10-22に租税特別措置の改廃と金融所得課税強化を恒久財源案に明記し、年末大綱から2026-04施行を目指す動きを加速させた。
与党案は(1)法人税関係等の租特見直し、(2)金融所得課税強化、(3)自動車関係の新税創設の組合せで、減税と増税を同時実行する構図だ。高市内閣の発足と連立合意(維新)を背景に、歳入改革の初手として政策パッケージ化が進む。

背景(制度・政治)

高市早苗首相の下で「減税の裏付けとなる恒久財源」を確保する方針が明確化したため、租特の縮減・廃止と高額な金融所得への追加負担が俎上に載った。
市場は政権交代直後に一時上振れも、その後は利益確定売りで乱高下が続き、税制の具体化とともにボラティリティが高まりやすい地合いが続く。

制度オプション(税率・設計)

引上げ幅は一律25~30%や高額部分のみ累進化など複数案が想定され、NISA恒久化により小口投資家の保護を残しつつ逆進性の是正を図る狙いとされる。
設計論点は①税率水準・累進区分、②配当と譲渡益の扱い、③損益通算・繰越、④開始時期・経過措置、⑤NISAとの整合だ。

影響(株式・暗号資産)

株式は負担増で短期の利益確定売りが出やすく、需給を冷やす一方で長期保有志向を強める誘因にもなりうる。暗号資産は直接増税なしでも分離課税化の先送りで相対劣後が続く。
金融庁の要望論点は残るが、当面は歳入優先から暗号資産の税制緩和は脇に置かれやすい。

株式投資家

税率引上げや累進導入で手取りが目減りするため、増税前の実現益の平準化やNISAのフル活用、売却時期の分散が合理的な対応となる可能性がある。
相場面では、報道局面での一時的な下押しや「材料出尽くし」反発の往来が想定され、制度骨子の確定タイミングがカギだ。

暗号資産投資家

現行は雑所得で最高55%・損失繰越不可のままで、今回の枠組みに直接の上積み課税はないが優遇改善も当面見込み薄だ。
株式優遇の縮小は相対差の縮小につながるが、制度の不確実性が高い間は国内投資の萎縮やロケーション選好の変化に留意がいる。

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国際比較(最新税制の射程)

米国は長期保有益が所得帯で0/15/20%、英国は2025-04以降18/24%へ簡素化、ドイツは25%+連帯付加税で約26.375%、シンガポールは原則キャピタルゲイン非課税である。
各国の選択は「公平性・成長・競争力」の綱引きで決まり、日本の設計もその三角形のどこに重心を置くかが争点だ。

主要国の資本利得課税(個人)

国・地域税制骨子備考
米国長期0/15/20%短期は普通所得課税
英国18/24%(2025-04〜)物件含め原則同率(特例除く)
ドイツ25%+連帯付加税=約26.375%源泉・分離課税
シンガポール原則非課税反復的投機は課税余地

今後のスケジュール

11月:与野党・連立内調整/12月:税制改正大綱に骨子明記/2026-01〜03:通常国会で審議・成立/2026-04:施行が基本線となる。
世論・株価の反応次第で税率水準や導入段階の滑走路(経過措置等)に調整が入りうる。

▽ FAQ

Q. 金融所得課税の現行税率は?
A. 上場株式の配当・譲渡益は20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%+住民税5%)。NISA枠は非課税です(年間360万円・生涯1,800万円)。

Q. いつから実施される見込み?
A. 2025-12に大綱、2026-01〜03の通常国会で法案審議、2026-04施行を目標とする工程が示されています。

Q. 暗号資産への直接の増税は?
A. 今回の枠組みに暗号資産の新課税は含まれません。現行は雑所得で最高55%・損失繰越不可の扱いが継続見込みです。

Q. 英独米の主な税率は?
A. 米0/15/20%、英18/24%(2025-04以降)、独25%+連帯付加税で約26.375%。比較で日本の選択肢が見えます。

Q. 誰が主導している?
A. 高市早苗首相と小野寺五典・自民党税調会長が推進。片山さつき財務相は金融担当と租特・補助金見直し担当を兼務します。

■ ニュース解説

与党税調は租特縮減と金融所得課税強化で恒久財源を確保するため、2026-04の同時実施を視野に工程を示したため、市場は短期的な利益確定売りと制度確定待ちの様子見が交錯している。
投資家の視点:非課税枠(NISA)の最大活用、利益の平準化、分配・譲渡時期の分散、税制シナリオ別のポート再検討を段階的に行うのが現実的です。

※本稿は一般的な情報提供であり投資助言ではありません。

(参考:首相官邸,国税庁,HMRC,IRS,IRAS