イーサリアムPectraアップグレードがメインネットで稼働:11の大規模変更とL2拡張の行方


【要約】
・イーサリアムPectraアップグレードがメインネットで稼働し、2022年のThe Merge以来最も重要なネットワーク更新
・ステーキング効率、ユーザー体験、レイヤー2拡張など幅広い領域を改善する11のEIPを含む
・テストネット「Hoodi」での事前検証を経て、複数の技術的ボトルネックを解消し大幅な手数料削減も期待

イーサリアムPectraアップグレードとは

イーサリアムPectraアップグレードは、2025年5月7日(米国東部時間午前6時05分頃)にメインネットでアクティブ化された、The Merge(2022年)以来最大級のネットワーク更新です。エポック番号364032で正式に有効化され、**全11のEIP(Ethereum Improvement Proposal)**が盛り込まれました。これにより、ステーキング効率やユーザー体験の向上、さらにレイヤー2(L2)拡張に関する大幅な進化が期待されています。

Pectraは2024年3月に実施されたDencunアップグレード(EIP-4844によるプロト・ダンクシャーディング導入)の流れを継承しつつ、質押(ステーキング)やバリデータ運用の最適化、アカウント抽象化、ブロブ(Blob)技術の拡張など、多岐にわたる改善を実装しました。事前にはHoleskyやSepolia、そしてHoodiといったテストネット上での検証が進められ、一部でコンフィグレーションの問題が発生しながらも、Hoodiテストネットでの3月の成功が本稼働への道筋をつけたとされています。

主なEIPとその特徴

1. EIP-7702:アカウント抽象化(Account Abstraction)の強化

Vitalik Buterin氏を含む複数の開発者が関与したEIP-7702は、ユーザーウォレットに一時的にスマートコントラクトのロジックを組み込むことで、より高度なアカウント抽象化を実現します。具体的には、以下のような機能が想定されています。

  • 第三者によるガス代支払い(Gas代行):dAppsなどがユーザーのガス代を肩代わりし、初回利用時や特定のキャンペーンで“フリーミアム”体験を提供可能
  • 複数操作の一括処理:トークン承認からスワップ実行までを1回のトランザクションにまとめ、ガスコスト削減と操作手順の省略
  • ソーシャルリカバリー:信頼できる連絡先を通じて紛失した秘密鍵の復旧を支援

これにより、ウォレットのユーザビリティが格段に向上し、新規参入者や普段はETHを保有していない層にもアプローチしやすくなると期待されています。

2. EIP-7251:大口ステーキング向けバリデータ上限の拡大

これまでのイーサリアムのステーキングは、1バリデータあたり32ETHが有効上限とされていました。しかしEIP-7251によって、1バリデータで2,048ETHまで扱えるよう上限が大幅に引き上げられます。

  • 複数バリデータ統合のメリット:大口ステーキング業者や機関投資家が複数の32ETHバリデータを一括管理できるようになり、ノード数削減による運用効率が向上
  • 中央集権化リスク:一部では、資金力のある参加者が影響力を拡大しやすくなる懸念も存在

ノード管理の負荷軽減とスケーラビリティ向上が見込まれる一方で、分散化を維持する仕組みづくりも重要な課題となります。

3. EIP-7691:ブロブ(Blob)スループットの倍増によるL2拡張

PectraアップグレードではDencunアップグレードで導入されたプロト・ダンクシャーディングをさらに発展させ、ブロブのスループットを1ブロック当たり最大3(標準値)→6、6(上限値)→9に引き上げる仕様がEIP-7691で定義されました。ブロブはRollupチェーンに一時的なデータ保存領域を提供し、L2上でのトランザクションコストを大幅に削減する役割を担います。

  • L2手数料のさらなる低減:ArbitrumやOptimismなどのRollupチェーン上で、従来比90%以上のコスト削減が期待
  • dApp開発者の恩恵:スループット向上により、より大規模なユーザーベースを想定した分散型アプリケーションをコスト効率よく運営可能

L2の総合的なスケーラビリティを押し上げる要として、コミュニティでも高い注目を集めています。

4. EIP-7002:ステーキング退出プロセスの実行レイヤー移行

EIP-7002では、バリデータの退出や報酬の引き出しを実行レイヤー(EL)側から起動できる仕組みが導入されました。従来はコンセンサスレイヤー(CL)のアクティブキーを使わなければ手続きができなかったため、常時オンラインとなる“ホットキー”のセキュリティリスクが問題視されていました。

  • 鍵管理の安全性向上:バリデータ退出にCLのアクティブキーを使わないため、悪意ある攻撃者に狙われるリスクが低減
  • 業務フローの簡素化:実行レイヤーが直接制御することで、ノード運用者の作業が一本化される

これは将来的なステーキングの普及と機関投資家の参入を促す一要因になると考えられています。

5. EIP-2935:履歴ブロックハッシュのステート保存

EIP-2935は、これまで外部参照が必要だった過去ブロックハッシュをステート上に保存し、新たに用意されるコントラクトアドレス(0xff…2935)から参照可能にする提案です。これにより、分散型オラクルやクロスチェーン通信など、ある程度の履歴データを利用するDAppsが信頼性を高められると期待されます。

  • **最大8192ブロック(約36時間分)**のハッシュをオンチェーンで取得できる
  • 中央化サービスへの依存軽減:データ検証に外部ノードのAPIを使わず、スマートコントラクトのみで完結可能

6. EIP-6110:バリデータオンボーディングの高速化

EIP-6110により、バリデータデポジット処理がコンセンサスレイヤーから実行レイヤーへ移行し、新規バリデータの有効化に必要な時間が約12時間から約13分へと大幅短縮されました。これは主に大手ステーキングサービスが新規参加者を迅速に取り込む際に有利となり、ネットワーク全体のセキュリティと分散性の向上に寄与すると考えられています。

ニュースの解説

今回の「イーサリアムPectraアップグレード」は、11のEIPを通じてバリデータ運営・ユーザー体験・L2拡張の全方位で進化をもたらす、歴史的節目と位置づけられます。
とりわけEIP-7702のアカウント抽象化は、ウォレットの利用ハードルを下げるだけでなく、ガスレス取引やソーシャルリカバリーといった先進的な操作を可能にし、さらなる新規ユーザー獲得への道を開くでしょう。
一方、EIP-7251によるステーキング上限拡張は、機関投資家や大口保有者の参入を後押しすると同時に、分散化の維持という課題も浮上させています。今後はL2の開発加速や、バリデータのセキュリティ強化策など、コミュニティ全体が多角的に取り組むことが重要となるでしょう。結果として、今回のPectraアップグレードは**“PoSイーサリアム”の利点を最大化しつつ、次世代の金融・アプリケーション基盤をより堅牢にする**大きな布石と言えます。

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