暗号資産 金商法移行で日本市場はどう変わる

▽ 要約

制度転換 暗号資産を金商法の新たな金融商品とし、情報開示と投資家保護を大幅強化。
業者規律 交換業者を第一種業者並みに規制し、責任準備金やコード監査を義務化。
公正市場 インサイダー規制とロックアップ導入で、国内外の機関マネー流入を狙う。
国際波及 税率20%と厳格規制を組み合わせ、日本モデルが域外規制のベンチマークに。

暗号資産 金商法移行を柱とする2025年12月10日のWG報告書は、投資家保護・税制・国際連携を包含した包括改革として、日本の暗号資産市場を「金融商品インフラモデル」へ転換させる内容です。

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日本の暗号資産制度を巡っては、「決済法ベースの緩い枠組みのままでよいのか」「投資商品としての保護は十分か」という疑問が長く指摘されてきました。2025年12月10日に公表された「暗号資産制度ワーキング・グループ」報告書は、暗号資産を金商法上の新たな金融商品とすることでこの問いに明確な答えを示し、日本市場を証券並みの保護水準へ引き上げる方針を打ち出しました。投資家にとっては税率20%への移行を含む環境整備の全体像を把握することで、中長期のリスク・リターンをより立体的に評価できる点が本稿を読むメリットとなります。

暗号資産を金商法の金融商品とする新制度

暗号資産を資金決済法から金融商品取引法へ移行させる今回の改革は、日本市場を「決済インフラモデル」から「金融商品インフラモデル」へ転換させる制度的な分岐点となります。

金商法移行と対象範囲

WG報告書は、暗号資産を配当や議決権を伴う有価証券とは別の新たな「金融商品」として金商法に位置付ける一方、対象資産の範囲自体は資金決済法の「暗号資産」定義を維持する方針を示しました。投資利用が急速に拡大する実態に合わせて、横断的な投資者保護規制を適用する狙いです。
この結果、ビットコインやイーサリアムを含む国内交換業者取扱い銘柄は、開示・業規制・不公正取引規制・課徴金といった金商法の重層的なツールの適用対象になります。一方、ゲーム・アート等で利用されるNFTや、既に「電子決済手段」として別枠で整理されている一部ステーブルコイン(デジタルマネー型)は今回の見直しから除外され、用途や法的性格に応じた線引きが維持される構造です。

情報開示・IEO規制と上場審査

情報開示は「発行者がいれば発行者、いなければ交換業者」がホワイトペーパー等で技術・リスク・事業計画・ガバナンス・資金使途を明示する仕組みが基本となり、既存の有価証券開示に近いスタンダードが導入されます。国内IEOで一般投資家から資金調達する場合、発行体に監査実績がないときは株式投資型クラウドファンディングにならい、個人投資家ごとの投資額上限を設けることで、未成熟プロジェクトへの過大エクスポージャーを抑制します。
上場(取扱い)審査も法定義務となり、交換業者は第三者専門家によるコード監査や自主規制団体(JVCEA等)への意見聴取を行うことが求められます。コード監査の質を担保するため、監査人の専門性や体制に関する要件をガイドライン等で明確化することも報告書に盛り込まれました。また、発行者・関係者については上場前後一定期間の売却禁止(ロックアップ)を課すことで、いわゆる「上場直後の抜け売り」による価格急落リスクの抑止が図られます。

背景と国内外の反応

今回の制度見直しは、口座数1,300万超・預かり資産5兆円超へ拡大した国内市場の規模と、投資家保護上の課題を同時に受け止める形で進められてきました。

日本の業界・メディアの評価

国内では、暗号資産交換業者の約9割が赤字とされる中で、第一種金融商品取引業並みの規制を一律適用すれば中小事業者は淘汰されかねないとの懸念が業界側から強く表明されています。WGの議論過程でも「イノベーション1に対し規制9」といった声が上がり、規制コスト増大と事業継続リスクが主要論点の一つとなりました。
これに対し金融庁は、「健全な取引環境の整備は利用者保護と市場の健全な発展の双方に不可欠」とのスタンスを繰り返し示し、過度な負担とならないよう法令と自主規制の組み合わせで運用する方針を強調しています。報告書取りまとめ前後には、JVCEA・JBA・JCBAの3団体が連名でガバナンス強化や第三者を交えた上場審査、モニタリング高度化へのコミットメントを表明しており、「世界で最も安全な暗号資産エコシステム」を目指す方向性で業界も歩調を合わせつつある状況です。

海外メディアと近隣諸国の視点

海外では、ロイターが「暗号資産を金融商品と定義し、インサイダー規制と税率20%への引下げを組み合わせる包括改革」と報じ、日本のFSAが105銘柄程度の暗号資産を新ルールの対象とする見通しを紹介しました。
中国語圏メディアは、取引所に責任準備金の強制積立を求める案を「世界で最も慎重で厳密な暗号規制フレーム」と評価し、度重なるハッキング被害に対する先進的な補償スキームとして注目しています。韓国メディアも、暗号資産を金融商品として位置付け、株式と同一の20%税率を適用する方向性を詳しく伝え、日本の動きが自国の規制・税制検討にとって重要な参照モデルになるとの論調を示しています。

市場構造とプレーヤーへの影響

制度改革は個人投資家・機関投資家・交換業者・伝統的金融機関・トークン発行体といったプレーヤー全体に、中期的なビジネスモデルの見直しを迫るものとなります。

個人・機関投資家にとっての意味

個人投資家にとって最大の変化は、2026年以降に見込まれる暗号資産の20%申告分離課税化と、情報開示・補償スキームの充実です。利益が最大55%の総合課税から一律20%に切り下がることで利確しやすくなり、「税負担を理由にポジション調整を躊躇する」場面は減少すると考えられます。同時に、ホワイトペーパーの標準化やコード監査義務化、ホット・コールド双方を対象とする責任準備金や保険スキームにより、アルトコイン投資の情報不足・運営破綻・ハッキングなどに起因する損失リスクは一定程度コントロールしやすくなります。
機関投資家にとっては、インサイダー規制や最良執行義務、適合性原則といった証券市場と同質の規律が整うことで、運用ガイドラインに沿って暗号資産を組み入れやすくなる点が重要です。既に海外ではビットコイン現物ETFを通じた機関マネー流入が進んでおり、日本でも規制明確化と税制整備を背景に、年金・投信・投資顧問等が分散投資先として暗号資産を検討する余地が広がると見込まれます。

関連:暗号資産20%分離課税 改正の中身と影響

交換業者・金融機関・発行体への負担と機会

交換業者は、第一種金融商品取引業に準じた内部管理・顧客管理・サイバーセキュリティ体制の構築が必須となり、コンプライアンス要員の増強やシステム改修、リスク管理高度化など相当のコスト増を強いられます。販売所モデルを中心に高スプレッドで収益を上げてきたビジネスは、最良執行義務の強化により見直しを迫られ、手数料体系やサービス設計の再構築が避けられません。短期的には中小業者の統合・淘汰が進み、体力のある大手グループへの集約が進む可能性があります。
一方で、銀行・保険会社の子会社や証券子会社による参入が本格化すれば、交換業者にとっては提携・資本参加・グループ統合などを通じて、伝統的金融の顧客基盤と信頼性を取り込む機会が広がります。トークン発行体にとっては、監査・開示・コード審査のハードルが上がる一方、一定の基準を満たせば国内外の機関マネーも参加しやすい市場で資金調達できるというポジティブな側面もあり、質の高いプロジェクトほど恩恵を受けやすい構造といえます。

不公正取引規制とDeFi対応のポイント

インサイダー取引規制の導入とDeFiへの間接的な規律付けは、日本市場の公正性と国際整合性を高めるうえで象徴的な論点です。

インサイダー規制の射程と実務

新たなインサイダー規制は、国内交換業者が取り扱う暗号資産すべてを対象に、取引の場所を問わず適用されます。つまり、国内上場銘柄については、海外取引所やDEXでの取引、さらには取扱申請段階の銘柄までが規制の射程に入り、発行者・交換業者役職員・委託先・関係公務員と、その一次情報受領者による未公表重要事実の利用取引が禁止されます。
証券取引等監視委員会には、犯則調査権限と課徴金調査権限が付与され、不正利得の没収を目的とする課徴金制度が整備される見通しです。IOSCOが各国に推奨してきた暗号資産への不公正取引規制を日本が先行実装することで、欧州MiCAなどと並ぶ「機関投資家が参加しやすい市場」としての位置付けを目指す構図と整理できます。

DeFi・DEXへの間接規制と国際連携

スマートコントラクトが自律的に動作し、明確な管理者が存在しないDeFi/DEXに対しては、直接的な業規制が難しいことが報告書でも明示されています。そのうえで、将来的な方向性としてウォレット提供者やUI提供者に対する説明義務・KYC義務など、「フロントエンド」を通じた間接規制を検討する方針が提示されました。当面は行政・交換業者によるリスク周知と利用者教育が中心となり、国境を越えた不公正取引の調査・情報共有については、海外当局との連携枠組みの整備が必須とされています。

今後のスケジュールと投資家が注視すべき点

制度面と税制面の両輪で2026年に向けた大改正が進む中、投資家は「いつ何が変わるのか」を時間軸で整理しておく必要があります。

2026年法改正と税制変更のロードマップ

今回のWG報告書は、今後金融審議会総会・金融分科会に報告され、通常国会向け法案のベースとなる予定です。金融庁は暗号資産関連法案の「早期国会提出」を掲げており、2026年通常国会(例年1月召集)での金商法等改正の議論が本格化する見通しです。
税制面では、与党税制改正大綱において、暗号資産売買益の一律20%申告分離課税化と損失繰越の方向性が示されており、2026年分以降の申告から実務に影響が及ぶ可能性があります。法令・政令の詳細や経過措置の内容によっては、2025年中の売却・移転タイミングが税負担に与える影響も変わり得るため、投資家は今後の税調・政省令案も注視する必要があります。

日本モデルが国際規制に与える波及

日本の新制度は、取引所への責任準備金義務付けや、自主規制団体との二層構え、広範なインサイダー規制といった独自要素を含みつつも、MiCAやIOSCO原則と整合的な構造を持ちます。海外では「全球最严谨的加密监管框架」といった評価も見られ、アジア各国や英語圏コミュニティが自国の制度設計の参照点として日本モデルに注目している状況です。
一方で、規制が厳格になり過ぎればプロジェクトや流動性の海外流出を招きかねないとの懸念もあり、今後は監督・ガイドライン運用の柔軟性や、国際協調の中での「域外効果」のコントロールが問われます。日本当局は、FATF・IOSCO・各国証券当局との連携のもとで、国内市場の競争力と国際標準形成の両立を目指すことになります。

▽ FAQ

Q. 新制度で暗号資産はどの法律の金融商品になるのか?
A. 2025年12月10日のWG報告書で、暗号資産は金融商品取引法上の新たな金融商品とされ、2026年通常国会での改正を前提に制度設計が進められています。

Q. IEOではどのような投資上限と情報開示が求められるのか?
A. 監査未実施の発行体が国内IEOで資金調達する場合、個人投資家ごとに上限額を設定し、技術・リスク・事業計画・資金使途などを開示する仕組みが2026年以降導入される見通しです。

Q. インサイダー取引規制はどの暗号資産や取引に適用されるのか?
A. 国内交換業者が扱う約100銘柄超すべてが対象で、国内外取引所やDEXでの売買、上場申請段階の銘柄も含め、証券取引等監視委員会が課徴金で不正利得を没収できる枠組みです。

Q. 暗号資産の税率20%分離課税はいつから適用される可能性が高いか?
A. 与党2025年度税制改正方針に基づき、2026年以降の申告から暗号資産売買益に一律20%の申告分離課税を適用する方向で議論が進んでおり、現行最大55%から大きく軽減されます。

Q. 銀行や保険会社は今後どのように暗号資産ビジネスへ参入できるのか?
A. 銀行・保険会社本体は顧客への直接販売を禁じられる一方、証券子会社や専業子会社は2026年以降、暗号資産の発行・仲介・運用・自己勘定保有が可能となる方向性がWG報告書で示されています。

■ ニュース解説

今回のWG報告書は、暗号資産を金商法の金融商品と位置付け、インサイダー規制や情報開示義務、責任準備金制度など証券並みの規律を導入することで、投資家保護と市場の信頼性向上を図るものです。一方で、交換業者には第一種金融商品取引業並みの負担が課されるため、中小事業者の淘汰やイノベーションの減速リスクも併存する構図となっています。
国際的には、EUのMiCAやIOSCO原則と歩調を合わせる形で日本モデルが具体化しており、近隣アジア諸国や英語圏メディアからも「厳格だが参入しやすい市場」への転換として注目されています。税制面での20%分離課税と組み合わさることで、これまで税負担や規制の不透明さから参入を躊躇していた機関投資家や金融機関にとって、暗号資産がより扱いやすいアセットクラスになる余地が生まれます。
投資家の視点:個人投資家は、今後の法改正・税制改正の施行時期と内容を踏まえつつ、各銘柄のホワイトペーパーや監査状況、取引所の補償スキームをこれまで以上に確認することが重要です。機関投資家・金融機関側は、自社のリスク管理・内部統制、商品ラインアップの中で暗号資産をどの程度位置付けるのかを、金商法ベースの規律やインサイダー規制と整合的に検討することが求められます。制度の厳格化と税制優遇が同時に進む日本市場が、中長期的にどの程度の流動性とプロジェクト品質を獲得できるかが、今後数年の注目ポイントと言えるでしょう。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:金融庁