暗号資産リカバリー最前線:技術・法と日本の新潮流

▽ 要約

技術 総当たりと鑑識で鍵やデータを探索。
法制度 英・星で差止と凍結が迅速化。
事例 米はBitfinexやRoninで回収実績。
日本 上場系ビットコイン・セイヴァー始動。

暗号資産リカバリーは、鍵やパスワードの喪失、誤送金、詐欺・ハッキング、相続未整備などで動かせなくなった資産を救う実務であり、技術と法の両輪で成否が決まるため、最新の動向と信頼できる窓口を把握することが損失最小化の近道だ。暗号資産リカバリーの基礎・主要プレイヤー・各国の枠組みと、日本初の本格参入事例までを一気に解説する。

技術的リカバリーの基本

手掛かりの密度と探索工数を掛け合わせて成功確率を押し上げるため、暗号解析・データ鑑識・オンチェーン分析を組み合わせる。
パスワード解除の実務では、総当たりは桁数で計算量が爆発するため、依頼者の記憶から候補語を抽出し辞書生成で探索空間を圧縮する。ウォレット種別や暗号化方式ごとに専用のクラック手順を選び、誤試行で破壊的ロックが掛かるデバイスは“安全試行”環境でのみ扱う。
データ復旧と鍵復元は、壊れた端末・ストレージからウォレット痕跡をフォレンジックで吸い上げ、鍵素材やシードの断片を補完する。ハードウェア機の解析、部分既知シードの全探索、旧バージョン・互換ウォレットへの移行なども選択肢となる。
オンチェーン追跡は、誤送金や不正流出の経路を可視化し、事業者や司法手続に繋ぐための“地図”を作る。単独で返還はできないが、凍結・押収・返還の前提情報として機能する。

パスワード解除の実務

総当たりは理屈上可能でも現実は“候補の質”で決まるため、個人の記憶・用語癖・作成時期の手掛かりで探索を指数関数的に縮小する。
実務では、依頼受任時に「再現可能な候補セット」を聞き取り、辞書合成・ルール展開・マスク攻撃を組み合わせる。高額案件はPGPで暗号化し、検証ログとハッシュ一致の証跡を残す。

データ復旧と鍵復元

保存媒体のイメージ化から始め、誤消去・破損領域を含めて低レベル走査でウォレット痕跡を抽出する。
OSロック解除やメタデータの復元、鍵素材の断片抽出、互換ウォレットへの移設、部分既知シードの組合せ探索などを段階適用する。

オンチェーン追跡

資金はミキサーやDEX、ブリッジを経由して拡散するため、アドレスクラスタリングとリスク推定で“物語”として再構成し、事業者や当局への照会・凍結要請に繋ぐ。

盗難・詐欺被害への対応

チェーン分析で流れを特定し、取引所・裁判所・警察の三位一体で凍結・押収に進む。
大規模事件では、専門分析と国際協力で回収例が蓄積しており、資産は匿名的であっても追跡可能性により“回収可能性”が生まれる。
英国は経済犯罪法の改正で逮捕前差押や「暗号資産関連物」の押収に道を開き、シンガポールは盗難暗号資産を財産と認めて匿名犯人への差止・取引所への情報開示を実務運用している。
米国ではランサムウェア身代金の一部回収や大型ハッキングの押収例が続き、北朝鮮関連の流出でも国際連携で一部回収の先例ができた。

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ブロックチェーン追跡の実際

ブリッジ・ミキサー・DEXを横断してフローを再現し、特定の窓口(KYC済み交換業者等)でインターセプトして凍結・押収に繋げる。

凍結・押収の法枠組み

英国は2023年改正で逮捕前でも差押可能となり、ウォレット再構築・破棄命令なども整備された。シンガポールは2022年に盗難暗号資産で差止・情報開示を認めた先行判例がある。

国際協力の加速

日米韓は2025年1月に北朝鮮の暗号資産窃盗への共同声明を発出し、官民連携と回収努力を明確化した。

相続とデジタル遺産

秘密鍵を知らない遺族はアクセス不能となるため、生前設計と死後の鑑識が実務の両輪となる。
生前は遺言・所在管理・マルチシグ・相続人向け手順の整備が要諦であり、死後は端末・ノート・バックアップ媒体を鑑識して鍵の痕跡を探索する。

主要サービスと選び方

手数料・法務関与・実績・情報管理体制を軸に比較し、前金要求や過剰な確約を避ける。
海外の老舗WRSは成功時20%を掲げ、父子チームのCrypto Asset Recoveryは聞き取りと総当たりのハイブリッドで復旧実績を積む。BRC(Bitcoin Recovery Co.)は弁護士エスクローと技術チームの協働体制を前面に出す。

日本の新潮流:ビットコイン・セイヴァー

2025年9月16日、東証グロースの売れるネット広告社グループが子会社「ビットコイン・セイヴァー株式会社」を設立し、成功報酬40%のモデルで国内の復旧需要に参入した。
サービスはウォレットアクセス復旧、秘密鍵探索、取引所アカウント復旧、追跡・回収支援まで幅広く、24時間相談と成果報酬で敷居を下げたのが特徴だ。眠る資産の顕在化や相続・法人保全まで見据える。

各国事例(米・独・韓・星)

米は大型事件での押収が蓄積し、独は押収しつつ解除不能の象徴例も、韓は対北連携、星は民事差止の運用で先行する。
米国:Colonial Pipelineの身代金の一部押収、Bitfinex事件で約94,000BTC相当の押収、Ronin流出で約3,000万ドル回収の先例がある。
ドイツ:押収したもののパスワード不開示でアクセス不能な事例が報じられ、強固な暗号設計の現実を示した。
韓国:北朝鮮関与の巨額流出が続き、日米韓の連携声明で回収・抑止の官民協力が強化された。
シンガポール:高裁が暗号資産を財産と認め、盗難資産に対する差止・情報開示を発令した。

成功率・リスク・限界

成功は「手掛かりの量と質」に依存し、費用は概ね20〜40%で、詐欺的“回収業者”に注意が必要である。
技術的には完全ランダム長文パスの正攻法解読は非現実的で、誤送金先が実体不明・コントラクト仕様で永久ロックなど、構造的に回収不能な局面もある。依頼前に費用・期間・期待値を冷静に見積もる。

▽ FAQ

Q. 成功報酬の相場は?
A. WRSは標準20%、高額は初期15%。日本の新会社は40%(2025-09-16発表)と公表されている。

Q. 失われたビットコインはどのくらい?
A. 推計約370万BTCで、Chainalysis(2018)の分析が根拠。2025年時点でも概数として広く引用される。

Q. 差止・凍結はどこで進展?
A. 英国は2023年法改正で逮捕前差押が可能に、シンガポールは2022年に差止・情報開示命令の先例を出した。

Q. 盗難時の回収率は高い?
A. 事案依存で、Roninでは約3,000万ドル回収も、全額回復は例外。早期の通報と協力体制が鍵。

■ ニュース解説

国内で上場企業グループがリカバリー参入が進んだ一方で、各国は差止・押収の法的枠組みを拡充し国際連携を強めているため、技術と法の接続で回収機会は拡大するが、暗号設計の強固さゆえ完全回復は常に保証されない。
投資家の視点:平時からバックアップと相続設計(場所・手順・連絡先)を整備し、万一の際は①被害時刻・TxID・関係アドレスの整理、②直近ログ・端末・ノートの保全、③信頼できる復旧業者と法的窓口(取引所・弁護士・警察)への同時並行連絡を徹底する。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:PR TIMES,外務省,GOV.UK