2022年8月5日、米国とカナダのプロサッカーリーグ、メジャーリーグサッカー(MLS)は、NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」の1体をデジタル選手「Striker」として契約したと発表しました。プロスポーツの団体がデジタルの選手と契約するのは初めてだとうたっています。
もちろん、NFTの猿がピッチに立つわけではありません。この記事では、旧版の記事の日付や価格を一次情報で確かめ直し、「契約」の実際の中身、当時の反応、その後のBAYCとスポーツ業界の動きを整理します。スポーツとNFTの組み合わせをどう見ればよいかを考える材料にしてください。
何が発表されたか
MLSの公式発表によると、リーグはGet Engagedの一部門であるge3と組み、Bored Ape #6045を「Striker」という名前のプロ選手として契約しました。Strikerは8月10日のMLSオールスターゲームに合わせてロースターに加わり、「バーチャルのピッチ」で特別なポジションを務めるとされました。
発表資料には、身長6フィート5インチ、体重250ポンド、出身地は「ブロックチェーン」、地元は「Otherside」(Yuga Labsのメタバース計画の名前)といった遊び心のあるプロフィールも添えられています。Strikerの言葉として、北米で最も成長しているリーグに加わることができて興奮している、最初のデジタル選手になれて光栄だ、というコメントも掲載されました。
旧版の記事は発表日を8月7日としていましたが、MLSの発表は8月5日付です。オールスターゲームは2022年8月10日、米ミネソタ州セントポールのアリアンツ・フィールドで開かれました。
Strikerの持ち主と価格
Strikerの持ち主は、MLSではなくブランディング・エンターテインメント会社のGet Engaged(その部門のge3)です。米Paste Magazineによると、Bored Ape #6045は2022年3月13日に暗号資産の決済サービスMoonPayが100ETH(当時約25万ドル)で購入し、4日後にGet Engagedへ移されました。
旧版の記事は、前の持ち主が2021年に8.45ETHで買い、100ETHで転売して大きな利益を得たと書いていましたが、この経緯は今回の調査では確認できませんでした。確認できたのは、100ETHでの購入とGet Engagedへの移転までです。
BAYCは、保有者に自分の猿の画像を商業的に使うことを認める利用条件で知られています。そのため、企業が猿を買い取り、キャラクターとして広告や企画に起用することができます。Strikerの「契約」も、実態としてはこの権利を使った宣伝とライセンスの取り組みと見るのが自然です。
当時の反応
発表は話題を集めた一方で、批判的な声も少なくありませんでした。Paste Magazineは、SNS上で「MLSのLは負け(Loss)のL」「メジャーリーグ詐欺」といった反応が出たことを紹介しています。
批判が強まった背景には時期の問題もありました。同じ記事によると、米国の女子プロサッカーリーグNWSLは、スポンサーだった暗号資産企業Voyager Digitalが2022年7月に破産を申請したことで、選手への報酬をめぐる不安を抱えていました。暗号資産業界の混乱がスポーツ界にも及んでいたさなかに、NFTを前面に出した企画を打ち出したことが、判断として疑問視されたのです。
NFTに関心のある層に向けた話題づくりとしては、複数のメディアに取り上げられるだけの注目を集めました。ただ、スポーツのファン全体から見れば、NFTはまだ説明の必要な存在でした。その温度差が、発表への反応の割れ方に表れていたといえます。
MLSとNFTのつながり:Sorareとの提携
MLSがNFTに取り組んだのはStrikerが初めてではありません。2022年3月29日、MLSはフランスのSorareと複数年の契約を結び、Sorareをリーグ公式のNFTファンタジーゲームにすると発表しました。
Sorareは、実在の選手のデジタルカードをNFTとして集め、実際の試合の成績に応じて得点を競うゲームです。MLSの選手のカードは2022年春から登場しました。Sorareにとって米国の大型提携はこれが初めてで、MLSの担当幹部は、NFTへの前向きな取り組みを業界のリーダーと続けていくと述べています。
旧版の記事は、MLSが2021年5月にNFTのコレクションを発売したことや、Sorareとブロックチェーンゲームを「開発した」ことを書いていましたが、前者は確認できず、後者は正しくはSorareとの公式ゲームの提携です。
その後:Yuga LabsとBAYCの状況
Strikerがその後どんな活動をしたか、現在もMLSの企画に使われているかは、今回の調査では確認できませんでした。
BAYCを運営するYuga Labsについては、大きな動きがありました。Decryptによると、米証券取引委員会(SEC)は2022年に始めた、同社のNFTやApeCoinの配布が証券法に違反していないかを調べる調査を、2025年3月に処分なしで終えました。Yuga Labsはこれを「NFTは有価証券ではない」ことを示すNFT業界の大きな勝利だと受け止めています。
同じ時期、SECはOpenSeaなどほかの暗号資産企業への調査も相次いで終えていました。規制の不透明さが一つ減った一方で、NFTの価格や人気がそれで保証されたわけではありません。BAYCの最近の取り組みはBAYCクラブハウスの記事でも紹介しています。
暗号資産企業とスポーツの距離感
2021年から2022年にかけて、暗号資産やNFTの企業はスポーツのスポンサーとして目立つ存在でした。ところが2022年に入ると市場の急落で経営が揺らぐ企業が相次ぎ、7月にはVoyager Digitalが、11月には大手取引所のFTXが破綻しました。FTXの破綻では、同社が結んでいたスタジアムの命名権やユニフォームの広告などの契約が次々と見直されています。事件の全体像はFTX事件の時系列の整理にまとめています。
Strikerの発表は、ちょうどこの揺り戻しが始まった時期に重なっていました。スポンサー企業の経営が傾けば、企画そのものが続かなくなることもあります。ファンの立場からは、リーグやチームが組む相手の事業が安定しているかにも目を向けておくと、話題性に振り回されずに済みます。
日本の個人がNFTを買ったり売ったりした場合、利益が出れば課税の対象になりうる点も押さえておきましょう。考え方はNFTの税金の解説で整理しています。
スポーツ×NFTを見るときのポイント
- 誰が権利を持っているか:Strikerのように、リーグではなく外部の企業がNFTを持ち、リーグと組んで企画を行う形もあります。発表の主語が誰かを確かめます。
- 「契約」の中身:実際に何をするのか(映像への出演、グッズ、イベントなど)、期間はいつまでかを見ます。話題づくりの一回きりの企画もあります。
- 公式のライセンスか:選手やチームの名前を使ったNFTは、リーグや選手会の公式ライセンスがあるかで信頼性が大きく変わります。
- 価格の数字の読み方:「100ETHで購入」といった数字は、ETHの相場で円やドルに直した額が変わります。いつの相場での換算かを確認しましょう。
スポーツ団体がNFTや暗号資産の企業と組む例は、その後も続いています。ただ、話題になった企画が長く続くとは限りません。NFTを買う側に立つなら、企画の話題性よりも、公式の権利関係と運営の継続性を見ることが大切です。
よくある質問
Q. MLSが契約したBored Apeは何番ですか?
A. Bored Ape Yacht Clubの#6045で、「Striker」という名前のデジタル選手として発表されました。持ち主はGet Engagedの部門ge3です。
Q. Strikerはいくらで購入されましたか?
A. 報道によると、2022年3月13日にMoonPayが100ETH(当時約25万ドル)で購入し、4日後にGet Engagedへ移しました。
Q. MLSはほかにもNFTに取り組んでいましたか?
A. 2022年3月29日に、SorareをリーグのNFTファンタジーゲームの公式パートナーとする複数年契約を結んでいます。
Q. BAYCの運営会社はSECに処分されましたか?
A. いいえ。SECは2025年3月、Yuga Labsへの調査を処分なしで終えました。
この記事の出典
- MLSsoccer.com:Major League Soccer Becomes First Professional Sports Organization to Sign a Bored Ape to a Contract
- Paste Magazine:Yes, Major League Soccer Really 'Signed' a Bored Ape NFT As a 'Digital Athlete'
- MLSsoccer.com:MLS Teams Up with Sorare to Create Next Generation Fantasy Game
- Decrypt:Bored Ape Creator Yuga Labs Says SEC Closing Investigation in 'Huge Win' for NFT Sector
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




