中国の刑事事件と暗号資産の先行処分:根拠条文と手続きの論点

中国の刑事事件で押収された暗号資産は、判決前に売却してよいのか。答えを一律に決めるには、対象財産や手続きの情報が足りない。保管の原則と例外、捜査段階と裁判段階、換価と没収を分けて検討する必要がある。本稿は公開法令と司法機関の発表に基づき、先行処分をめぐる論点を解説する。

対象は中国の公安機関による刑事事件の財産処分

本稿で扱う「公安機関」は、中国で刑事事件の捜査を担う機関を指す。日本の警察や裁判所による暗号資産の差押え・換価について説明するものではない。また、刑事事件の捜査、起訴後の審理、判決に基づく執行では、財産を扱う機関や根拠となる規定が異なる。最初にどの段階の話かを確かめる必要がある。

「先行処分」は、事件の最終的な結論が出る前に、対象財産を売却するなどして別の形で保存する場面を含む。財産の形を暗号資産から金銭へ変えることと、犯罪収益として最終的に没収することは同じではない。先に換金したとしても、その代金を誰に帰属させるかという問題は残る。

旧記事には、押収した暗号資産の不正利用や同意の強制が多いという記述があった。しかし、具体的な事件や統計が示されていなかったため、発生頻度を裏付ける事実としては採用しない。ここでは2024年9月当時の論点を理解するため、公開された法令と機関の発表から確認できる範囲を整理する。

刑事訴訟法は適切な保管と無断処分の禁止を定める

中国刑事訴訟法第245条は、封印・差押え・凍結した被疑者や被告人の財産と、その財産から生じた収益について、確認できるよう適切に保管し、目録を作成して事件とともに移送することを求める。組織や個人が流用したり、勝手に処理したりしてはならないという原則がある。

同条は、被害者の適法な財産は速やかに返還すること、禁制品や長期保存に適さない物品は国家の関係規定に従って処理することも定めている。そのため、この条文を単に「最終判決まで、どの財産も一切動かしてはいけない」と要約すると、条文が設けた区別を落としてしまう。

事件との関係がない財産の解除・返還も、犯罪収益の没収とは区別される。第145条は、事件と無関係であることが確認された財産などについて、3日以内に措置を解除して返還する旨を規定している。押収されたという事実だけで、その全量が違法所得だと確定したわけではない。

暗号資産の場合も、保管した数量、関連する取引記録、権利者の主張を整理することが出発点になる。ウォレットを管理できる状態になったことと、売却や最終処分の権限があることを同一視しない点が重要だ。技術的に送金できるかどうかは、法的な処分権限とは別の問題である。

捜査段階の売却には、対象物と承認手続きの確認が必要

公安機関の刑事事件処理手続規定の2020年改正版第236条は、捜査中の一定の物品について、長期保存に適さない場合や保管が困難な場合の処理を定める。県級以上の公安機関の主要責任者による承認、写真や録音・録画による記録を経て、関係部門に売却・競売を委託できるという構成である。

同条は売却代金を一時的に保存し、訴訟が終わった後にあわせて処理することも定めている。つまり、例外的に財産を換価できることと、その代金を捜査機関が自由に使用できることは結び付かない。資産の形が変わった後も、事件に関係する財産としての管理が必要になる。

ただし、この条文に暗号資産全般を名指しした売却許可が書かれているわけではない。ある暗号資産が規定の対象となる理由、保管を続けることが難しい事情、どの手続きで誰が承認したのかを具体的に確認しなければ、個別処分の適法性は判断できない。

また、第三者へ委託したという一言では、売却先、価格の決め方、手数料、入金先は分からない。委託契約や処分記録を通じて、元の資産と売却代金を対応させられるかが重要になる。委託先が技術に詳しいことだけを、処分全体が適法である根拠にすることはできない。

裁判段階の第439条を、公安機関の権限と混同しない

最高人民法院の刑事訴訟法適用に関する2021年の司法解釈第439条は、審理中の先行処分を定めている。長期保存に適さない財産、価値が下がりやすい財産、市場価格の変動が大きい財産、有効期限が近い手形などについて、権利者の申請または同意と院長の承認を条件に、法律に従って先行処分できるとしている。

この規定では、処分によって得た金銭を人民法院が保管する。価格変動という理由だけを抜き出すと、同意や承認、代金の保管といった条件が見えなくなる。また、審理中の裁判所についての条文を、そのまま捜査中の公安機関の権限として説明するのも誤りである。

手続きの検討では、現在の事件段階、処分を決めた機関、引用された法令と条番号をそろえて読む必要がある。似た表現の規定が複数あっても、誰が承認するのか、どこで金銭を保管するのかまで一致するとは限らない。一般的な記事だけから、個別事件の処分が有効かどうかを断定することは避けたい。

USDTという名称だけで先行処分の可否は決まらない

旧記事は、USDTは価格が安定しているため早期処分の根拠が乏しいと断定していた。しかし、暗号資産の名称から、ある事件で適用された規定や処分理由まで確定することはできない。価格変動を理由にしたのか、保管上の問題を理由にしたのかによって、検討すべき事情も変わる。

仮に価格変動が理由なら、どの通貨を基準とし、どの期間の価格を参照したのかを確認する必要がある。米ドルへの連動を目指す資産について、人民元など別の通貨での換価額まで一定だと推測することはできない。一方、漠然と「暗号資産だから変動が激しい」と述べるだけでも、個別の処分理由の説明にはならない。

同意についても、署名の有無だけで議論を終えず、何に同意した文書なのかを確認することが重要だ。売却する数量、売却方法、費用、代金の保管について説明があるかで、文書から分かる内容は異なる。ただし、個別の資料を見ずに、拘束下での同意はすべて無効だと一般化することもできない。

徐匯区の指針と最高人民法院の研究公募が示す範囲

上海市徐匯区人民検察院の公式発表は、公安分局と「刑事訴訟に関わる仮想通貨の処分規範指針」を共同で取り交わしたと報告している。照会と証拠の確保、差押えと保管、移送と処分など、各段階をより具体的に整理したという説明だ。実務上の課題への対応として位置付けられる。

ただし、指針の存在を伝える発表と、条項をすべて確認できる規範本文は別である。今回確認した紹介だけから、すべての暗号資産の判決前売却を全国一律に認めたと読むことはできない。適用地域や対象機関を越えて、一般的な許可として紹介しないことが必要だ。

最高人民法院は2024年8月23日の司法研究重大課題の公募で、事件に関係する仮想通貨の処分を研究テーマに挙げた。さらに同年12月には採択結果を公表した。これらは研究を募集・採択した記録であり、新たな法律や司法解釈がその日に施行されたという発表ではない。

争点を整理するには、資産から代金までの記録をつなぐ

先行処分の説明を読む際は、対象資産の数量と権利関係、処分を必要とした理由、適用条文と承認、売却結果、代金の保管という順に資料を対応させると、事実と評価を分けやすい。どれかが不明なら、その部分は確認できていないと明示するべきである。

返還が問題となった場合にも、元の暗号資産が残っているか、すでに売却されて代金が保存されているかで、確認すべき記録は変わる。換金後に価格が上がったから当然に差額が補償される、逆に換金済みなら一切返還できない、といった結論は本稿の資料だけでは導けない。

個別事件では中国法を扱う弁護士が処分文書や事件記録を確認し、利用できる異議申立てや救済手続きを検討する必要がある。本稿はその判断を代行するものではなく、2024年の議論の背景と、原則・例外・適用段階を混同しないための整理である。

よくある質問

Q. 日本の刑事手続きにもそのまま当てはまりますか?

A. 当てはまりません。本稿は中国の公安機関や人民法院の手続きを扱っており、日本の差押え・換価の説明ではありません。

Q. 判決前の換金は、没収が確定したという意味ですか?

A. 同じではありません。例外的な換価と、代金の最終的な帰属は区別され、引用した規定には代金を保管する手続きもあります。

Q. 最高人民法院の研究公募は新しい売却許可ですか?

A. いいえ。2024年の公募と採択結果は研究課題に関する発表であり、新しい法令の施行を意味しません。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。