2024年9月2日前後の暗号資産ニュースでは、開発への資金提供、破産処理にかかる費用、企業が保有する暗号資産の売却益が取り上げられました。いずれも大きな金額が見出しになりますが、助成の決定額、法律事務所の請求額、企業の会計上の利益は、それぞれ意味が異なります。ここでは三つの話題について、いつの数字を集計したのか、どこまで実行済みなのかを確かめます。当時の発表と後から公表された資料を区別し、異なる金額を単純に比較しないための読み方も説明します。
イーサリアム財団が公表した第2四半期の支援
イーサリアム財団のEcosystem Support Programは2024年8月30日、同年第2四半期の支援先を発表しました。公表された総額は847万1,704.14ドルです。対象は4〜6月の四半期であり、発表月の8月だけに拠出した資金や、2024年全体の予算を示す数字ではありません。
支援先には、北京のETH Beijing Hackathonや日本のETHTokyoといった開発者イベント、日本語でイーサリアムとゼロ知識証明を解説する記事シリーズ、L2に関する調査・情報提供を行うL2BEATなどが含まれていました。開発作業だけでなく、学習や情報共有の場も対象になっていたことが分かります。
発表で使われた表現は「awarded」で、助成として採択された支援の総額と読むのが適切です。個別の銀行送金日や全案件の入金完了を示す一覧ではありません。財団が雇用する人員やその他の活動を含む、組織全体の総支出とも区別する必要があります。支援決定の一覧を、そのまま現金支出の明細として扱うと、財団の資金の動きを過大にも過小にも見積もってしまいます。
支援の成果と、後年の公表額をどう確かめるか
助成の発表から確認できるのは、どの活動に資金を振り向ける判断が行われたかです。その技術が完成したか、利用者が増えたか、開発者が定着したかは、別の情報を使って確認する事項です。例えば教材なら公開された内容や更新状況、開発ツールなら実装と保守の履歴が手掛かりになります。イベントへの支援も、その後の継続的な開発や学習まで自動的に保証するものではありません。
後続資料として、2026年8月18日には2026年第2四半期のAllocation Updateが公開され、支援総額550万2,930.20ドルが示されました。少なくとも、四半期ごとの支援内容を公表する活動が2026年にも続いていたことを確認できます。ただし、この後年の数字を2024年当時の実績に混ぜてはいけません。
また、二つの四半期だけを並べて、財団の活動全体が縮小したと結論付けることはできません。案件の規模や採択時期、集計対象が比較に影響します。支援の多寡を論じる場合も、まず同じ区分・期間の資料をそろえ、そのうえで成果を個別に調べる必要があります。助成額だけからETHの価格への影響を導くことにも、追加の根拠が必要です。
法律費用7億5,100万ドルは2024年8月時点の集計
Bloomberg Lawが2024年8月29日に報じた分析では、暗号資産企業の七つの米連邦破産法第11章手続きに関わった大手法律事務所22社について、支払済みまたは請求中の報酬が計7億5,100万ドルに達していました。集計の基準は2024年8月中旬です。「2023年8月までの支払総額」とすると、年も金額の状態も変わってしまいます。
同報道は裁判所資料を分析した結果であり、暗号資産業界の法律費用をあらゆる案件について合算した統計ではありません。対象となった事務所と破産手続きに範囲が限られます。本記事でも報道機関による集計として扱い、すべての請求明細を独自に再集計した数字とはしていません。
この区別は、費用の評価に直結します。複数の手続きをまたぐ累計と、一社の単年度費用では比較条件が違います。さらに法律事務所が得る報酬は、職員の人件費などを差し引いた純利益と同じではありません。金額の大きさを伝える場合にも、対象案件、基準日、報酬なのか利益なのかを併記しなければ、読者が別の指標として受け取るおそれがあります。
報酬の請求・承認・支払いは別々の段階
米司法省のU.S. Trustee Programは、破産手続きにおける専門家報酬の審査指針を公開しています。大型の第11章事件に関する弁護士報酬の指針もあり、請求された報酬の内容を確認する仕組みが設けられています。したがって、請求書に記載された金額が、審査を経ずにそのまますべて支払われると考えるのは適切ではありません。
費用の記事を読む際には、まず「請求した」「認められた」「支払われた」のどの段階かを確認すると、誤解を減らせます。同じ案件でも集計日が変われば、追加の請求や支払いを反映して数字が動きます。今回の7億5,100万ドルは、こうした段階の異なる報酬を含む途中経過であり、すべての破産処理が終わった時点の確定総額ではありません。
債権者への返還額との関係を考える場合も、法律費用だけで回収の良し悪しを評価することはできません。回収された資産、債権の認定、手続きの進行などを併せて見る必要があります。費用が大きいこと自体は重要な論点ですが、それだけを理由に個別の業務が不要だった、あるいは不正だったと断定する根拠にはなりません。後日の検証では、同じ事件の報酬申請と裁判所の判断を照合することが出発点になります。
NetDragonの前年実績は「取引なし」ではない
ゲームなどを手掛けるNetDragonの2024年中間報告には、暗号資産に関する取得と処分が記載されています。上半期に取得した暗号資産は人民元換算で2億3,400万元。前年の同じ期間にも2,000万元の取得がありました。このため、2023年上半期について「暗号資産の取引を一切行っていなかった」と説明することはできません。
前年に該当額がなかったのは、報告書の比較欄に示された処分の項目です。購入と売却は別々に確認しなければなりません。「売っていなかった」を「保有も購入もしていなかった」と読み替えると、企業がどの時点から暗号資産を扱っていたかという理解まで変わってしまいます。
2024年上半期の処分に伴う利益は5,100万元と記載されました。これは人民元建ての数値です。日本円に置き換えるなら適用した為替レートと基準日が必要であり、元の単位を落として円の金額として紹介することはできません。また、この利益が示すのは特定の保有資産の処分に関する会計処理で、ゲーム事業の売上高や、グループ全体の最終利益を表す数字ではありません。
帳簿価額と売却益、年次報告の評価項目を区別
同じ中間報告に登場する2億9,000万元は、処分した暗号資産の帳簿価額です。帳簿価額は財務諸表に載っていた資産の金額であり、売却で受け取った代金そのものではありません。ここを「売却額」と書き換えると、どれだけの資産を帳簿から取り除き、どの利益を計上したのかという関係が分からなくなります。
後から公表された2024年年次報告では、暗号資産に関する減損の戻入れも説明されています。減損で引き下げた評価の一部を戻す処理は、資産を実際に売却して利益を得る処理とは異なります。年次報告の評価項目を上半期の売却益に足して、「追加の売却で稼いだ」と説明することはできません。
今回の三つのニュースに共通する確認点は、金額に付いている説明を省略しないことです。財団の数字は支援の採択、法律費用は複数手続きの報酬、企業決算は取得・処分・評価という異なる動きを示します。資料名と対象期間を残して読み分けることで、単に大きな数字を並べる記事から、資金が何に使われ、どの段階にあるのかを理解できる記事になります。
よくある質問
Q. 財団の847万ドルは2024年の年間支出ですか?
A. いいえ。2024年第2四半期の支援採択額です。年間予算や財団全体の支出、すべての送金が完了した額を示すものではありません。
Q. 法律費用7億5,100万ドルはすべて支払済みですか?
A. 報道の集計には支払済みと請求中の報酬が含まれます。2024年8月中旬時点の対象22事務所・七つの手続きに関する数字で、全案件の最終費用ではありません。
Q. NetDragonは2023年に暗号資産を購入していなかったのですか?
A. 2024年中間報告の前年同期比較には、2023年上半期の取得が2,000万元と記載されています。処分がなかったことと、取得を含むすべての取引がなかったことは異なります。
この記事の出典
- Ethereum Foundation:Allocation Update Q2 2024
- Ethereum Foundation:Allocation Update Q2 2026
- Bloomberg Law:暗号資産企業の破産と法律事務所の報酬(2024年8月29日)
- 米司法省U.S. Trustee Program:Fee Guidelines
- NetDragon:2024年中間報告 注記10
- NetDragon:2024年年次報告 注記18
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




