中央アフリカ共和国の「Sango」構想はどうなったか|ビットコイン法定通貨の撤回まで

2022年4月、中央アフリカ共和国(CAR)はビットコインを法定通貨とする法律を定め、エルサルバドルに次いで世界で2番目の国になりました。続いて政府は、暗号資産を軸にした経済圏「Sango(サンゴ)」の構想を発表し、デジタルの居住権や土地、市民権までをトークンで提供すると打ち出しました。

旧版の記事はこの構想を「暗号投資センター」として紹介し、成功すると思うかと読者に問いかけていました。それから4年あまりが経ち、結果ははっきりしています。この記事では、構想の中身と、その後に何が起きたのか、そして国家が暗号資産を掲げる計画を見るときに確認すべき点を整理します。

何が起きたか:2022年の法定通貨化とSango構想

中央アフリカ共和国は、アフリカ中部にある人口約500万人の国です。2022年4月、国会は暗号資産の利用を認める法律を可決し、ビットコインを法定通貨に加えました。推進したのはフォスタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領です。旧版の記事は同氏を「国民議会議長」と書いていましたが、正しくは大統領です。

Sangoは、国の公用語のひとつであるサンゴ語から名付けられた構想で、2022年7月に正式に打ち出されました。主な内容は次のとおりです。

  • 暗号資産「Sango Coin」を発行し、投資家に販売する。
  • Sango Coinで電子居住権、土地、鉱業や林業への投資機会を提供する。
  • 一定額のSango Coinを保有した投資家に市民権を与える。
  • 暗号資産の取引を非課税とし、将来的には「暗号資産の都市」を建設する。

旧版の記事が紹介した「暗号の島」やメタバース上での資産管理といった構想も、この計画の一部として語られていました。

背景:なぜ中央アフリカ共和国は暗号資産に賭けたのか

中央アフリカ共和国は、金やダイヤモンドなどの鉱物資源に恵まれる一方、長く内戦と政情不安が続き、世界でも最も所得の低い国のひとつです。外国からの投資を呼び込む手段が限られる中、暗号資産を掲げることで新しい資金と注目を集めようとしたと考えられています。

ただし、同国は周辺5か国とともに中部アフリカ経済通貨共同体(CEMAC)に加盟し、共通通貨のCFAフランを使っています。通貨の発行は地域の中央銀行である中部アフリカ諸国銀行(BEAC)が担っており、一国だけで別の法定通貨を導入することは、この通貨同盟の枠組みと衝突します。

さらに、インターネットや電力の普及率が低く、国民の多くがビットコインを日常的に使える環境にはありませんでした。旧版の記事も触れていたとおり、こうした条件から計画の実現性を疑問視する声は当初から多く、国際通貨基金(IMF)も懸念を表明していました。

その後どうなったか:違憲判断と法定通貨の撤回

構想は発表から1年ほどで大きく後退しました。主な経過は次のとおりです。

時期 出来事
2022年4月 ビットコインを法定通貨とする法律を制定
2022年7月 Sango構想とSango Coinの販売を開始
2022年8月 憲法裁判所が、Sango Coinによる市民権や土地の提供を認めない判断
2022年12月 Sango Coinの取引所上場を2023年に延期
2023年3月23日 国会が全会一致で、暗号資産を法定通貨とする規定を撤廃

憲法裁判所は、6万ドル相当のSango Coinで市民権を、1万ドル相当で土地を得られるという仕組みについて、国籍は市場で値付けできるものではなく、居住には実際にその国にいることが必要だとして退けました。販売できたトークンも目標のごく一部にとどまったと報じられています。

法定通貨の撤回は、CEMACとIMFからの働きかけを受けたものでした。わずか1年足らずで、国家による暗号資産の導入が事実上終わったことになります。

旧版が紹介した計画のうち、実現しなかったもの

旧版の記事は、Sangoの法的枠組みとして、電子居住制度、投資による市民権、オンラインでの事業登録と所得税・法人税の免除、デジタルID、暗号資産によるクラウドファンディング、国立デジタル銀行の創設などを挙げ、2022年末までに具体化する予定だと紹介していました。

しかし、市民権の販売は憲法裁判所に否定され、法定通貨の規定も撤廃されました。「暗号資産の都市」の建設についても、2026年時点で具体的な進展を示す公式な発表は確認できませんでした。国際的な調査団体Global Initiativeは、この取り組みが国民の金融包摂にはつながらなかったと分析しています。

構想の段階で大きな約束を並べることと、それを法制度やインフラとして実現することの間には大きな隔たりがあります。旧版のように計画の発表内容をそのまま紹介するだけでは、読者が判断を誤るおそれがあることも、この事例から学べる点です。

2025年の大統領ミームコイン

その後、2025年2月9日にはトゥアデラ大統領の公式X(旧Twitter)アカウントが、国を代表するとうたうミームコイン「$CAR」の発行を告知しました。価格は告知直後に急騰し、時価総額は一時9億ドル近くに達したと報じられましたが、その後短期間で6割以上下落しています。

告知が現地の深夜だったことや、公用語ではない英語で投稿されたこと、動画に不自然な点が指摘されたことから、アカウントの乗っ取りではないかという疑いも広がりました。配分の多くが開発側に割り当てられていた点も議論を呼びました。

ミームコインは、実用性よりも話題性で価格が動く暗号資産です。国家元首の名前が付いていても、価値の裏付けがあるわけではありません。ミームコインの仕組みはミームコインとはで解説しています。

エルサルバドルとの比較

ビットコインを最初に法定通貨にしたのは、2021年9月のエルサルバドルです。同国は国として実際にビットコインを買い増し、政府のウォレットアプリを配るなど、中央アフリカ共和国よりも踏み込んだ政策を進めました。

ただしエルサルバドルも、IMFからの融資を受ける合意に沿って2025年1月に法律を改め、事業者にビットコインの受け取りを義務づける規定をなくしました。自国通貨を持たない国や、国際機関の支援を必要とする国にとって、暗号資産を法定通貨にすることの難しさは共通しています。エルサルバドルのその後はエルサルバドル「ビットコイン銀行」の記事で扱っています。

国家が掲げる暗号資産プロジェクトを見るときの確認点

Sangoの事例からは、国や自治体の名前が付いた暗号資産の計画を見るときに、次の点を確かめる大切さが分かります。

  1. 法的な裏付け:憲法や上位の法律、加盟する国際的な枠組みと矛盾していないか。
  2. 実行の体制:インフラや人材、予算が計画に見合っているか。
  3. トークンの権利:買った人が実際に何を得られるのか。約束された権利が後から否定される可能性はないか。
  4. 換金の方法:どこで売買できるのか。上場の予定が延期されていないか。
  5. 発信元の確かさ:公式の告知か、乗っ取られたアカウントや偽サイトではないか。

「国家公認」という言葉は信頼の証のように見えますが、Sangoでは市民権の約束そのものが裁判所に否定されました。肩書きではなく中身で判断することが大切です。

日本の読者向けの注意点

Sango Coinや$CARのような海外のトークンは、日本の登録業者では扱われていないことがほとんどです。海外の無登録業者を通じた取引はトラブル時の保護が受けにくく、金融庁も無登録業者への注意を呼びかけています(無登録の暗号資産業者 警告一覧)。

「国が発行する新しいコイン」「市民権が得られる投資」といった勧誘をSNSなどで受けた場合は、公式の発表と照らし合わせ、少しでも不審な点があれば取引を見送ってください。

よくある質問

Q. 中央アフリカ共和国は今もビットコインを法定通貨にしていますか?

A. していません。2023年3月23日に国会が全会一致で、暗号資産を法定通貨とする規定を撤廃しました。CEMACとIMFからの働きかけを受けたものです。

Q. Sango Coinで市民権は得られたのですか?

A. 得られません。2022年8月、憲法裁判所が、国籍は市場で値付けできないとして、Sango Coinによる市民権や土地の提供を認めない判断を示しました。

Q. $CARとは何ですか?

A. 2025年2月に大統領の公式Xアカウントで告知されたミームコインです。一時は時価総額9億ドル近くまで上がりましたが、短期間で6割以上下落し、アカウント乗っ取りの疑いも指摘されました。

Q. ビットコインを法定通貨にした国は他にありますか?

A. 2021年9月のエルサルバドルが最初です。ただし同国も2025年1月の法改正で、事業者にビットコインの受け取りを義務づける規定をなくしています。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。