2023年第2四半期の暗号資産市場では、ビットコインの価格上昇と取引高の減少が同時に起きました。一方、ステーブルコイン全体が縮小する中でもUSDTの時価総額は増えています。異なる指標を並べたニュースなので、一つの数字だけでは市場全体の活況や停滞を判断できません。
本記事は2023年4〜6月を対象とするCoinGeckoの報告を振り返るものです。2026年9月27日に原資料と後年の資料を確認し、旧記事の誤訳と数字の意味を整理しました。掲載ページの更新日が新しくても、2023年の数値が現在の相場を表すわけではありません。
価格が上がっても取引高が減る理由
CoinGeckoの2023年Q2報告によると、BTC価格は四半期で6.9%上昇しましたが、1日平均取引高は第1四半期の334億ドルから138億ドルへ、58.7%減っています。価格は期間末などの時点で測る値、平均取引高は期間中の売買をならした値なので、同じ方向に動くとは限りません。
例えば、取引の回転が落ちても、以前より高い価格で買う注文と売る注文が一致すれば価格は上がります。逆に、相場が急落する局面では売買が集中して取引高が増えることもあります。取引高の大きさだけを人気や健全性の証明として読むと、こうした違いが見えなくなります。
ここで使われるドル建て取引高は、送金に使われたBTCの枚数や、ネットワーク上の取引件数とも異なります。旧記事は冒頭で全体を「チェーン上のデータ」と表現していましたが、取引所の集計を含む報告を一律にオンチェーン分析と呼ぶのは適切ではありません。
また、58.7%は前の四半期との比較です。前年の同じ時期との比較や、四半期の初日と最終日の差ではありません。比較対象を明記することで、「ある日に売買が突然6割消えた」という誤解を防げます。
USDTの34.8億ドル増は値上がり益ではない
旧記事の「USDTは30億ドルを追加」は、USDTの時価総額が四半期に34.8億ドル増えたという意味です。同報告では増加率を4.4%とし、一方で上位15ステーブルコインの合計時価総額は3.5%縮小したとしています。個別銘柄の増加と、集計対象全体の減少は両立します。
USDTとUSDCは別の銘柄です。旧文の「USDC(USDT)」という表記は両者を混同していました。時価総額の変化を比べる際は、名称、ティッカー、対象期間をそろえる必要があります。BUSDも同じ集計の中の別の資産であり、これらを一つの残高として扱うことはできません。
時価総額が増えたからといって、既存の保有者がその増加率と同じ利益を得たわけではありません。価格がドルに近い水準を目指す資産では、流通している量の変化が時価総額を大きく左右します。銘柄間のシェア変動も、個人の運用成績ではなく市場の構成を示すものです。
また、供給量の拡大は、発行体の利益や準備資産の安全性を直接証明しません。このニュースが示したのは集計期間中の規模の変化であり、償還条件や発行体の財務内容については別の資料が必要になります。
ETHの2,360万枚は準備金ではなくステーキング量
2023年Q2報告で30.3%増、2,360万ETHとされた対象は、ステーキングされたETHです。旧記事の「ETHの総準備金」は対象を誤って訳していました。銀行の準備金やステーブルコインの裏付け資産の話ではありません。
同様に、Lidoの31.9%という比率は同報告のステーキング量に対するシェアです。世界中のETH保管サービス全体のシェアや、すべてのETH保有者のうちLidoを利用する人数の比率ではありません。分母が何かを省くと、同じ数字でも企業やサービスの規模を違って伝えてしまいます。
この時期の背景には、ステーキングからの引き出しを可能にしたEthereumの更新がありました。ただし、引き出せるようになったことは全員が引き出したことを意味しません。新たに預けられた量と引き出された量が同時に存在するため、期末の残高は両方の影響を受けます。
ステーキング量の増加率を、受け取れる利回りと読むことも誤りです。30.3%という数字は集計残高の伸びを示し、個々の参加者への報酬率ではありません。資産の量、サービスの取り分、保有者の収益をそれぞれ別の指標として扱う必要があります。
NFTの四半期集計と5月だけのシェアを分ける
報告が示したNFT取引高の四半期減少率は35.0%です。一方、Bitcoin Ordinalsの約20.3%というシェアは5月単月の数字でした。四半期全体で同じシェアを獲得したという説明に置き換えることはできません。
SolanaのNFT取引高減少について、報告は、DeGodsのEthereum移転と、y00tsのPolygon移転を減少の一因としています。移転と減少が同時期に起きたことは重要ですが、それだけですべての減少を説明したことにはなりません。売買活動、作品の価格、集計する取引所の違いも考慮が必要です。
NFTは作品ごとの価格差が大きいため、高額な数件の売買で金額ベースの集計が動く場合があります。取引高が減ったという観測から、同じ割合で購入者数や作品数も減ったとは推定できません。人数を見るなら購入者数、回転を見るなら取引件数など、目的に合う指標を追加する必要があります。
この区別は後年の市場にも当てはまります。同じ「NFT市場」という言葉でも、アート、ゲームアイテム、実物に結び付くカードでは売買の仕組みが異なります。2023年の特定チェーンの構成比を、そのまま現在の収集需要全体に当てはめないことが大切です。
取引所の増加額と取引高総額を取り違えない
旧記事はBybitの131億ドル、Bitgetの15億ドルを取引高そのものとして紹介しました。しかし原資料は、これらを取引高の増加額としています。「前期からいくら増えたか」と「期間中に合計いくら取引されたか」は、比較する数字が違います。
見出しの「Binanceをリード」も、取引高で首位になったという意味には読めません。報告はBinanceのシェア低下を述べつつ、上位10の中央集権型取引所をまとめて比較しています。一部の取引所が増加したことと、最大の取引所を追い抜いたことは別です。
さらに、分散型取引所の減少率について、原資料の見出しには28.1%、本文には30.8%と異なる記載があります。ここはどちらかを都合よく確定値として採ることを避け、記述の不一致があると留保します。両方を独立した実績として足すこともできません。
同じ一次資料の中でも、見出し、図表、本文が常に一致するとは限りません。比較表を作る場合は対象の取引所数、現物かデリバティブか、四半期か月次かを先にそろえ、食い違う数字は注記付きで扱うのが妥当です。
2026年の資料を読むときも、期間と集計方法を確認
CoinGeckoの2026年Q2報告では、市場全体の時価総額は四半期で12.6%減少し、期末は約2.1兆ドルとされています。これは2023年Q2の説明を更新する別の期間の資料です。2026年9月27日当日の残高や価格を示す数字ではありません。
後年の報告は、実物のトレーディングカードに結び付くNFTなども取り上げ、取引高の多くが通常の二次売買ではなくランダム販売の仕組みから生じている点を指摘しています。市場の構成が変われば、同じ取引高という単位でも経済的な内容は変わります。年だけを入れ替えた順位表では、その違いを説明できません。
CoinGeckoの計算方法によれば、暗号資産の時価総額は価格と流通供給量から算出され、取引所の取引高は取引ペアごとの集計を基にします。いずれも口座へ実際に入った資金の純額そのものではありません。市場の数字を資金流入額として使う前に、その定義を確認する必要があります。
この2023年の記事から読み取れるのは、BTC価格、USDTの規模、NFTの売買が別々に動いたということです。価格予測の根拠にするよりも、相場を説明する複数の数字が何を測っているかを学ぶ記録として読むと、後年のニュースにも応用できます。
よくある質問
Q. USDTの時価総額が増えれば保有者も同じ割合で儲かりますか?
A. 時価総額は流通量と価格による規模の指標です。個人の収益率とは違います。
Q. 2023年Q2のBTC取引高58.7%減は前年同期比ですか?
A. 第1四半期と第2四半期の1日平均取引高を比べた前期比です。前年同期比や単日の下落率ではありません。
Q. ETHのステーキング量30.3%増は利回りですか?
A. ステーキングされたETHの合計量の増加率です。参加者に支払われる報酬率ではありません。
この記事の出典
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




