呉昌碩のデジタル収蔵品2.8万点が即完売|中国「数字藏品」のその後

2022年5月、清朝末期の画家・書家である呉昌碩(ご・しょうせき)の作品を題材にしたデジタル収蔵品が、中国IT大手テンセントのプラットフォーム「幻核(Huanhe)」で発売され、2万8,000点がすぐに完売しました。1点128元(当時約19ドル)で売られたものが、中古品売買アプリ「閑魚(Xianyu)」では450〜500元で取引されていたと報じられています。

旧版の記事はこの出来事を紹介していましたが、見出しの「完売に転落」をはじめ、意味の通りにくい表現が含まれていました。この記事では、何が起きたのかを整理し直し、中国で「数字藏品(デジタルコレクション)」と呼ばれるNFTが世界の一般的なNFTとどう違うのか、そしてその後どうなったのかを解説します。

何が起きたか:呉昌碩の作品がデジタル収蔵品に

呉昌碩は1844年に生まれ、1927年に亡くなった中国の芸術家で、絵画、書、篆刻(印章を彫る芸術)のいずれでも近代を代表する存在とされています。旧版の記事は篆刻を「コードカーバー」と訳していましたが、これは印章を彫る篆刻家のことです。

テンセントの幻核は、2021年8月に始まったデジタル収蔵品の販売アプリです。呉昌碩の作品を題材にした収蔵品は2022年5月に発売され、報道によると用意された2万8,000点が発売直後に売り切れました。同じ時期には、近代の画家・徐悲鴻の馬の絵を題材にした収蔵品も幻核で発売されています。

こうした著名な画家の作品を使った収蔵品は、美術品に関心のある層だけでなく、「発売されればすぐ売り切れ、転売で値上がりする」ことを期待した購入者も引きつけていました。

中国の「数字藏品」は一般的なNFTとどう違うのか

中国本土では暗号資産の取引が禁止されているため、大手IT企業はNFTに似た仕組みを独自の形で提供してきました。主な違いは次のとおりです。

項目 一般的なNFT 中国の数字藏品
支払い ETHなどの暗号資産 人民元(アプリ内決済)
ブロックチェーン 誰でも参加できる公開型が中心 企業が管理する許可型のチェーン
転売 マーケットプレイスで自由に売買 公式には転売を認めない。譲渡に制限がある
名称 NFT 「NFT」を避け「数字藏品」と呼ぶ

このため、公式のアプリの中では買った収蔵品を売ることができません。閑魚で見られた高値の取引は、アカウントの受け渡しなど公式の仕組みの外で行われたもので、トラブルが起きても保護されにくい取引でした。

企業側が転売を認めなかったのは、転売の市場を用意すると、当局が警戒する投機や金融商品化につながるからです。一方で、購入者の多くは値上がり後の転売を期待していたため、公式に売る手段がないことと、実際には外で売買されていることの間にずれが生まれました。このずれが、後に規制がさらに強まる一因になりました。

なぜ即完売したのか:2022年前半の過熱

2021年から2022年前半にかけて、中国では数字藏品の発行が急増しました。人気の収蔵品は発売から数秒で売り切れ、転売価格が発売価格の数倍になる例が相次ぎ、「買えば儲かる」という期待が広がりました。

しかし、この過熱は長く続きませんでした。報道によると、幻核の収蔵品は2022年6月ごろから「売り切れ」ではなく「販売終了」と表示されるものが増え、売れ残りが目立つようになります。呉昌碩の収蔵品の即完売は、ちょうど市場が転換する直前の出来事だったと言えます。

旧版の記事は、無形文化財をNFTとして出す事例が増えれば関心が高まると期待していました。確かに博物館や美術館が所蔵品を題材にした収蔵品を出す動きは広がりましたが、それが市場の過熱を支えることはありませんでした。

その後どうなったか:規制と幻核の撤退

2022年4月13日には、インターネット金融、銀行、証券の各業界団体がそろって、NFTを金融商品化したり投機の対象にしたりしないよう会員に求める共同の呼びかけを発表しました。二次流通(転売)の仕組みを提供しないことも求められ、大手のプラットフォームは転売をいっそう厳しく制限するようになります。

幻核は2022年の夏に販売を停止し、そのまま閉鎖されました。購入済みの収蔵品は手元に残すことも、払い戻しを申し出ることもできたとされます。旧版の記事は「中国当局による規制緩和を期待したい」と結んでいましたが、実際には規制は緩まず、大手企業が相次いで手を引く結果になりました。

2024年4月には、中国の国営メディアが、10万元を投じた数字藏品が価値のない「廃品」になった消費者の事例を報じています。記事によると国内には1,400を超える数字藏品のプラットフォームがあり、専門家からは法整備と「規制のサンドボックス」の導入を求める声が上がりました。

博物館や美術館の取り組みはどうなったか

2022年前後の中国では、多くの博物館や美術館が所蔵品を題材にしたデジタル収蔵品を発行しました。青銅器や陶磁器、書画などを3Dデータや画像にして限定数で販売し、若い世代に文化財への関心を持ってもらうことが目的とされていました。

博物館にとっては、実物を動かさずに収入と話題を得られる手段であり、購入者にとっては「本物の所蔵先が認めたデジタル版」を手元に置ける点が魅力でした。一方で、発行数や価格の決め方、購入後にどんな楽しみ方ができるのかについては、プラットフォームごとにばらつきがありました。

転売が制限され、市場の熱が冷めた後は、こうした収蔵品は投機の対象ではなく、記念品やデジタルの展示物として位置づけられるようになっています。文化財のデジタル化そのものには意義がありますが、「限定」「即完売」という言葉が価格上昇を約束するものではないことは、呉昌碩の事例からも明らかです。

パブリックドメインの名画をNFTにする意味

呉昌碩は1927年に亡くなっており、中国の著作権法で保護期間とされる死後50年はすでに過ぎています。つまり、作品の図柄そのものには著作権がなく、誰でも利用できる状態です。

それでもデジタル収蔵品に価値が付いたのは、発行元が所蔵先の美術館などと提携した「公式版」であること、発行数が限られていること、そして大手企業のアプリで買えるという安心感があったからです。価値の源泉は作品の権利ではなく、発行元の信用と希少性の演出にありました。

日本でも、パブリックドメインの名画を題材にしたNFTやデジタル商品は販売されています。購入を考える場合は、誰が発行しているのか、所蔵先の許諾があるのか、そして同じ図柄の画像が自由に使える中で、そのNFTを持つことに何の意味があるのかを確かめてください。

日本の読者が押さえておきたいこと

中国の数字藏品は、中国本土の利用者向けのサービスで、日本から購入したり保有したりすることは想定されていません。SNSなどで「中国の人気デジタル収蔵品を代わりに購入する」「転売で利益が出る」と持ちかけられても、公式の仕組みの外での取引は保護されず、詐欺の可能性もあります。

また、日本の著作権の保護期間は原則として作者の死後70年で、中国の50年とは異なります。海外で自由に使える図柄でも、日本では扱いが違う場合がある点にも注意が必要です。呉昌碩の作品は日本でも保護期間を過ぎていますが、所蔵先が撮影した画像の利用には、所蔵先の規約が適用されることがあります。

日本で流通しているNFTについては、暗号資産交換業者やマーケットプレイスの運営者、販売条件をよく確認することが基本です。NFTの基礎は初心者向けのNFT解説、よくある詐欺の手口はNFT詐欺の見分け方で紹介しています。

よくある質問

Q. 呉昌碩とはどんな人物ですか?

A. 1844年生まれ、1927年没の中国の芸術家で、絵画、書、篆刻のいずれでも近代を代表する存在とされています。

Q. 中国の数字藏品はNFTと同じものですか?

A. ブロックチェーンに記録される点は似ていますが、人民元で買い、企業が管理するチェーンを使い、公式には転売できないなど、一般的なNFTとは仕組みが異なります。

Q. テンセントの幻核は今も使えますか?

A. 使えません。2022年の夏に販売が止まり、アプリは閉鎖されました。購入者には払い戻しを求める選択肢もあったとされます。

Q. 日本から中国の数字藏品を買えますか?

A. 中国本土の利用者向けのサービスで、日本からの購入は想定されていません。代理購入や転売の勧誘は、保護のない取引や詐欺の可能性があるため避けてください。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。