米国暗号資産市場構造法案とイノベーション免除

▽ 要約

パウエル 利下げは非直線、物価と雇用の二面リスク。
SEC 米国暗号資産市場構造法案の年内進展を促す。
イノベ免除 年末導入目標で新製品投入を加速。
Eトレード 2026年前半にBTC/ETH/SOLの現物取引。
カード Fold×Visa×Stripeで最大3.5%BTC還元。

インフレ抑制と雇用維持の両立は容易ではありませんが、米規制と市場は同時に前進しています。米国暗号資産市場構造法案が最終局面に入り、SECはイノベーション免除を打ち出し、E*Tradeは現物暗号取引に踏み出し、FoldはBTC還元カードを拡張します。本稿は最新動向を一次情報から整理し、何が変わるのかを短時間で把握できるよう解説します。

FRBの現状認識と相場感

需要と雇用の減速気味な経済でインフレは再上昇気配のため、FRBは「二面リスク」の中でデータ依存の緩和を慎重に進める。
パウエル議長は9月23日にロードアイランドで、近時の0.25%利下げ後も政策は「非直線」であり、過度な緩和はインフレ再燃、一方で長期の高金利は雇用不必要な悪化を招くと発言しました。政策金利は4.00–4.25%のレンジで、今後は入手データに応じた機動運営を強調しています。

利下げの巡航速度と雇用リスク

賃金と求人の鈍化が進むため、利下げは段階的で反転可能性も残し、雇用の過度な軟化回避を優先する。
足元では失業率上昇と求人の横ばいが併存しており、サービス価格のディスインフレを見極めつつ、対関税要因による一時的物価上昇への過剰反応を避ける方針です。

市場への含意(株式・金利・ドル)

リスク管理型の緩和が続くため、実質金利と成長見通しの相対変化が主導し、株価・為替はデータ次第の展開となる。
インフレ期待が安定する限り、実質タームプレミアムの低下はバリュエーションの支えになり得ますが、労働市場の予想外の悪化は追加利下げの引き金となり得ます。

関連:FRB利下げと米株最高値:AI資本とBTC動向

SECの新方針―市場構造法案とイノベーション免除

包括法でSEC/CFTCの役割を明確化しつつ、制度面では対象限定の弾力運用でイノベーションを促す二段構えとなる。
SECのポール・アトキンス議長は、議会の「米国暗号資産市場構造法案(CLARITY系統)」の早期成立を後押しし、年末実装を目標とする「イノベーション免除(innovation exemption)」の策定に着手しています。これは相容れない既存規則の一部適用除外により、新製品を迅速投入できる暫定枠を設ける構想です。

米国暗号資産市場構造法案の骨子

証券・商品の境界線を整理するため、発行体・取引所・カストディの登録枠と開示要件を明確にし、二重規制の排除を図る。
下院可決済みの枠組みは、SECとCFTCの共同ルール制定を前提に、現行法下でも可能な監督調整を促進します。ホワイトハウスは2025年末までに大統領署名に送る目標を示し、政策優先度は高い状況です。

イノベーション免除の狙いと論点

適用範囲を狭く迅速にするため、対象プロダクトと投資者保護条件の線引きを精緻化し、期限・報告・サンセット条項でリスクを抑える。
免除は迅速性と安全性のトレードオフが本質であり、公開コメントを経た制度設計(適用上限、苦情処理、投資者の救済手段)が市場の信頼性を左右します。

SEC・CFTCの協調とETPルール緩和

共同声明で登録市場における特定スポット商品の取扱いを後押しし、ETPの汎用上場基準承認で個別審査の負担を軽減した。
9月の共同ステートメントは登録市場での特定スポット暗号商品の上場可能性を示し、ETPの「汎用的上場基準」承認により、適合商品は19b-4個別審査を要さず上場可能となりました。上場適合外は従来ルートが残るため、ルール・ベースと裁量審査が併存します。

ウォール街の実装加速―E*TradeとFold

大手が参入の「受け皿」を整えるため、取引と決済、報酬設計の三位一体で利用者接点が拡大している。
モルガン・スタンレーはE*Tradeで2026年前半にBTC/ETH/SOLの現物取引を開始予定で、パートナーのZeroHashが流動性とカストディを担います。幹部ジェド・フィン氏はこれを「フェーズ1」と位置付け、次段で統合ウォレットや配分モデル化を示唆しました。FoldはVisaとStripe Issuingを活用し、通常2%即時+最大1.5%加算、特定加盟店で最大10%のBTC還元が得られるクレジットカードを発行します。

E*Tradeの暗号取引(2026年前半)

既存ブローカー口座のUXで現物を扱えるため、オンボーディングと税務処理の一体化が期待される。
同社は外部運用経由だった富裕層の暗号エクスポージャーを自社プラットフォームに内製化し、将来的な口座内ウォレット統合に布石を打ちます。

FoldのBTC報酬カードの設計

日常決済でのBTC獲得を単純化するため、ネットワークと発行基盤の汎用性で拡張性と加盟店特典を両立した。
Stripe IssuingとVisaネットワーク上に構築し、AmazonやTarget、Uber、Starbucksなどでの特典に対応。Foldは累計約31億ドルの取扱高と8,300万ドル相当のBTC配布実績を公表しています。

政治潮流―カリフォルニア州知事選とビットコイン

若手・親暗号派の台頭により、州財政や企業誘致の文脈でビットコイン活用が争点化しつつある。
元州下院多数党院内総務イアン・カルデロン氏(39)が2026年州知事選への出馬を表明し、「州の財務にビットコインを組み込む」構想を示唆しました。Coinbaseなど本拠を抱える同州で政策争点化が進む見通しです。

▽ FAQ

Q. 市場構造法案はいつ成立見通し?
A. ホワイトハウスのPatrick Wittは2025年末までの成立を見込むと発言。SECとCFTCの管轄明確化が柱。

Q. SECの「イノベーション免除」とは?
A. 2025年末導入目標の暫定枠で、一部規則の適用除外により暗号企業の新製品投入を迅速化する構想。

Q. ETradeの暗号取引は何を扱う?
A. モルガン・スタンレー傘下のE
Tradeで2026年前半にBTC・ETH・SOLの現物取引を提供予定。

Q. Foldのクレジットカード還元率は?
A. 通常2%即時+Fold口座返済で最大1.5%加算、提携先で最大10%のBTCバックが用意される。

■ ニュース解説

FRBは二面リスク下で段階的緩和へ舵を切ったため、規制面ではSEC/CFTC協調と上場基準の汎用化が進み、一方で市場では大手の取引・決済参入が加速した。
投資家の視点:制度は「ルール明確化+弾力運用」の並走が続く公算です。①政策金利と雇用データの相関変化、②ETPの供給増と原資産需給、③既存金融の暗号取引導入ペース、④州レベルの政策競争をウォッチしましょう。過度な集中・レバレッジは避け、カストディと税務の実務要件を事前確認するのが無難です。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:Federal Reserve,SEC,Fold