▽ 要約
ホワイトペーパー 2025年8月20日にMON構想を公表。
アーキテクチャ AvalancheとICMで4種L1を連携。
データ資産化 所有権NFTとMOAでRWA化を実装。
プライバシー 二重MOAで要約のみ共有し秘匿性確保。
相互不信と制度の断絶でモビリティ価値が滞るため、トヨタは「トヨタ MON」を信頼の共通レイヤーとして提示し、車両データをRWA化して資金とサービスの循環を起動する狙いだ。
MONの狙いと設計思想
多主体の証明を束ねて価値の移転を容易にするため、MONは「車両=関係の束」という前提で信頼を標準化し、資本とユーティリティの循環を生む。
MONは登録・保険・整備・運行・監査など制度的・技術的・経済的証明を「信頼の束」として統合し、車両を静的モノではなく動的なモビリティアセットとして扱う。断絶(組織・業界・国家)を橋渡しするのは共通プロトコルであり、単一覇権型の巨大プラットフォームではない点が受容性を高める。
信頼のレイヤーとRWA化
検証可能なクレームを可視化するため、MONは「制度・技術・経済」の三証明をMOAに集約し、車両をブロックチェーン上の資産へ写像する。
これにより遠隔の投資家も信頼根拠を監査でき、査定・信用・移転のコストが逓減する。信頼の標準化が進むほど、資金(Capital)→運用(Utility)→信頼(Trust)の循環が太くなる。
MOAと「可換性のはしご」
所有権をNFTで非代替に捉えるため、MONはMOAを核に「所有→ポートフォリオ→証券」の段階で可換性を高める。
個別車両の所有権NFTをERC‑7401で束ねてポートフォリオとし、評価に基づく完全可換なセキュリティトークンへと還元する設計で、市場流動性と開示の両立を図る。
技術アーキテクチャ(AvalancheとERC設計)
相互運用と即時性を両立するため、Avalancheの複数L1とICMを採用し、Trust/Capital/Utility/決済の役割分担で安全に連携させる。
Avalancheの高速ファイナリティとL1(旧サブネット)の柔軟性を前提に、①Trust(MON本体)②Capital(融資・証券化)③Utility(利用権・運行)④決済(安定通貨)の4 L1を想定し、ICM(Teleporter/Warp)で原子的にメッセージ連携する。
スマートコントラクトの階層
拡張性と権利表現の精緻化のため、MOA/VehicleOwnership/AssetPortfolioの3層でERC標準を組合せる。
VehicleOwnershipはERC‑721、MOAはERC‑4337準拠のスマートアカウントでERC‑6551によりNFTと恒久紐付け、ERC‑7579でモジュール拡張、AssetPortfolioはERC‑7401で親子ネスティングする。証券側はERC‑3643によりKYC/適格制限を強制可能とする。
セキュリティとプライバシー
現実データの改ざん検知を担保するため、技術・制度・経済データの要旨をオンチェーン化し、T‑MOA/U‑MOA間で必要最小限の要約のみ橋渡しする。
Mirror MOAによりU側で高頻度データを検証・集約し、ICMでT側に確定記録する。Identity ServiceとTrust Gatewayでオフチェーン証明を安全にオンチェーン検証へ橋渡しする。
経済・金融的意義
非流動資産の資金調達を容易にするため、車両とフリートをデジタル証券に還元し、グローバルな投資アクセスを広げる。
車両群の収益・稼働実績に裏付けられたポートフォリオSTは説明責任を果たしやすく、フリート事業者の資本コストを引下げる余地がある。新興市場のBEV導入やロボタクシーの地域展開、蓄電価値の証券化など、用途別の資金循環を具体化できる。
RWA市場との接続
市場成長の追い風を取り込むため、MONはRWAトークン化の標準化と透明性に寄与し、投資家裾野を拡大する。
RWA市場は2025年6月時点で約240億ドル規模に到達し、2034年に最大30兆ドルの予測もある。伝統金融ではBNYメロンとゴールドマンがMMFのトークン化運用に踏み出しており、実需の橋渡しが進む。
産業への影響と導入課題
単一覇権ではなく共通仕様とするため、MONは各地域のMON同士をプロトコルで接続し、既存エコシステムを尊重する。
メーカー・保険・金融・運輸のデータ連携が標準化されれば、中古車査定や契約管理、実利用ベース課金の高度化が期待できる。一方、法制度適合、データ主権、鍵管理とUX、チェーン間安全性、オラクル妥当性などの実装課題は残る。
規制・標準化と消費者保護
法的効力と救済を明確にするため、登録・所有権・証券規制とNFTの整合、鍵喪失・盗難時の救済、開示とプライバシーの両立が要件となる。
業界横断の項目定義・手順・責務分担を標準化し、官民連携で段階的なパイロット→評価→拡張が現実的な道筋となる。
ユーザー利点とUX要件
信頼の可視化で逆選択を抑えるため、履歴の検証可能化は中古車市場の品質向上と審査迅速化に資する。
一方で一般ユーザーが鍵やガス代を意識しないUX、選択的開示やPaymasterの実装、料金低廉化への波及が普及の鍵となる。
今後の展望
社会的受容性と協調の度合いが成功を左右するため、主要OEM・当局・資本側の参加が規模化の臨界点となる。
早期は限定地域の実証で実データと制度対応を蓄積し、相互運用の成功事例を増やすことが採用のレバーになる。
▽ FAQ
Q. MONはいつ誰が発表した?
A. 2025年8月20日、トヨタ・ブロックチェーン・ラボが白書を公開し構想を提示した。
Q. Avalanche採用の理由は?
A. 複数L1とICMの設計により、地域別ネットワークを相互接続し高速に確定できるため。
Q. どのERC規格を使う?
A. ERC‑721/6551/4337/7579/7401/735/3643で所有権・口座・親子NFT・適法STを構成する。
Q. プライバシーはどう守る?
A. T‑MOA/U‑MOAで役割を分離し、U側原本を秘匿、T側に要約のみ確定記録する。
Q. 市場規模の目安は?
A. RWA市場は2025年に約240億ドル、2034年に最大30兆ドル予測が示されている。
■ ニュース解説
MONは2025年8月20日に白書で構想と試作設計を示し、Avalancheの複数L1とERC標準で信頼を資産化するため、RWA拡大の追い風を受け資金循環の新基盤となる一方で制度整合・UX・ガバナンスが鍵となる。
投資家の視点:一次情報に基づく技術・標準の方向性と規制適合の具体度を見極め、短期は関連実証・標準化の進展、長期は資本コスト低下と開示水準の実績を重視して段階的に評価する。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Toyota Blockchain Lab,トヨタ・ブロックチェーン・ラボ)